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クリスは楽しく過ごしたい!  作者: かるた
第三章 大魔法祭を楽しく過ごしたい!
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スピネルとボロボロの魔道具店

 スピネルの横に並んで町をテクテクと歩いていると、町の雰囲気が少し変わったことに気が付く。夕方だからか朝ほど騒がしい感じはしなくなっているのだ。


「何だか昼間と比べて、町の雰囲気がのんびりとした感じになりましたね!」

「そろそろ帰り支度をする人も多いからそのせいかもな」


 わたしは寂しさを紛らわせるようにスピネルと会話しながら、近くを飛んでいたむーちゃんの頭を軽く撫でる。


「今度はどこへ向かっているのですか?」

「俺がよく行く魔道具の店だな。色々な物が置いてあるからクリスも楽しめると思うぞ」

「本当ですか!? 嬉しいです!!」

「ああ、期待してくれていいぞ」


 わたしが笑顔を浮かべるとスピネルも同じように笑い、わたしの頭をぐりぐりと撫でてきた。


 魔道具はアレキサンダーお兄様が作っているので、以前から興味はあったのだ。


 長期休みの間にきょうだいと一緒に挑戦してはみたものの、不格好な物になってしまったので他の人がどのように作っているのか見てみたい気持ちもある。


「実際に魔道具を作っているところは見られるのでしょうか!?」


 わたしが興奮気味にそう伝えるとスピネルは少し困った顔で頬を掻く。


「あー、どうだろうな。時間も時間だから今日は作っていないかもしれないな」

「そうですか、それは残念です……」


 わたしががっくりと肩を落としていると、スピネルがそんな雰囲気を変えるため元気良く声を上げた。


「それでも色々な魔道具があるからクリスが気に入る物があるかもしれないだろ? お小遣いもまだあるし、もし良ければ少しくらい買ってみるのも良いかもな」

「確かに! 面白そうな魔道具があれば是非買ってみたいです!!」


 もうすぐ夏がやってくるので体を冷やすような魔道具が売っていれば買ってみるのもいいかもしれない。わいわいと話しながら、わたし達はスピネルの案内に従って歩いていく。


 期待に胸を膨らませながら歩くことしばらく、スピネルの案内で辿り着いたのは町の雰囲気にそぐわない古ぼけた一軒のお店だった。


「さあ、ついたぞ」

「ここですか? 随分と古いお店ですね……」


 雰囲気としては以前セレスタお姉様に連れて行ってもらった宝石店に近いものがある。


 しかし、あの宝石店は質素な中にも品があったが、目の前のお店は単純に見た目がボロボロなのだ。実際にやることはないが、わたしが風魔法を全力で使ったら吹き飛んでしまいそうだ。


「確かに随分と年季の入ったお店ですわね……」

「本当に大丈夫なのか? この店で……」

「何だか扉を開けた途端、崩れそうで怖いですね……」


 三人もお店を見上げながら感想を口にするが、どれも辛らつな意見だ。それほどまでにお店の見た目が悪いのだ。


 わたしも三人と同じ意見なのでスピネルに疑いの眼差しを向けると、スピネルは事もなげに肩をすくめる。


「店の見た目が悪いのは認めるが、大事なのは中身だろう。大丈夫だから安心してくれ」

「……分かりました。スピネルの言う通り、見た目だけでは判断できませんからね!」

「ありがとう、クリス。それじゃあ中に入るぞ」


 見た目はボロボロだが中には物凄い魔道具が置かれているのかもしれない。わたし達はスピネルの言葉をとりあえず信じることにして恐る恐るお店の中へと足を踏み入れた。


「一体中はどうなっているのでしょうか……あれ?」


 わたしがスピネルに続いて中へ入ると、外観からは想像できないほどお店の中は綺麗に整頓されていた。杖型の魔導器から何に使うのか良く分からないものまで、雑多な魔道具が壁一面の棚にずらっと並べられている様は圧巻の一言だ。


 お店の奥にあるカウンターのところにも小さな魔道具が並べられており、店主と思しき人が背を向けて椅子に座っているのが見えた。


「凄い数の魔道具です!! それに外はボロボロでしたが中は綺麗で驚きました!!」

「だから大丈夫だと言っただろう?」

「はい! スピネルの言う通りでした!」


 たくさんの魔道具に囲まれてわたしが喜びの声を上げていると、カウンターの奥にいた男がのんびりとした口調で文句を言いながらこちらへと振り向く。


「おいおい、誰だ? うちの店をボロボロとか言うやつは……?」

「よお、久しぶりだな」


 スピネルが彼に向けて挨拶をすると、男もスピネルに気付いたようだ。笑顔を浮かべてこちらへ手を振ってきた。


「おお、スピネルじゃないか。ご無沙汰だな」

「済まない、最近は少し忙しくてな。今日は人を連れて来たんだ」


 そう言うとスピネルはわたしの背中を優しく押し出す。どうやらスピネルはわたしに自己紹介をさせたいようだ。


 一歩前へ歩み出たわたしは礼をして自分の名前を男に告げる。


「お初にお目にかかります、クリスティア・エデルシュタインです! よろしくお願いしますね!!」

「随分と元気の良いお嬢さんだな……待てよ? エデルシュタイン?」


 目の前の男はわたしの名前を聞いて、不思議そうな顔でこちらを見つめてくる。


「はい! エデルシュタイン王国第六王女、クリスティア・エデルシュタインです!!」

「おお! それじゃあ君はアレキサンダー殿下の妹なのか!?」


 わたしの名前を聞いて目を輝かせた男は勢い良く椅子から立ちあがると、姿勢を正してこちらへ向かってゆっくりと歩いてくる。


 目の前に到着する頃には彼の興奮も収まったようで、静かにわたしの前で跪くと自分の名前を名乗り始める。


「先ほどは失礼しました、クリスティア殿下。私はロキオン・キアストライトと申します。この魔道具店の店主をしております」

「こちらこそボロボロなどと失礼なことを言ってしまいました……ロキオン様が良ければ今後ともよろしくお願いしますね!」


 まだ若いのに店主として魔道具を作っているのだ、腕は確かなのだろう。それに彼が名乗った名前には聞き覚えがある。


 挨拶を終えたわたしは、続けて彼の名前についても訊いてみることにした。


「あの、一つ質問があるのですが……キアストライトと言うことは、ロキオン様はシリウスのお兄様なのでしょうか?」


 首を傾げながらロキオン様に尋ねると、少し驚いた様子を見せて彼は軽く頷いた。


「ええ、殿下の仰る通りです。弟をご存じなのですか?」

「はい! いつも仲良くさせてもらっています!!」


 わたしがそう言うと、ロキオン様はホッとしたように息を吐く。どうやら彼はハイリヒクロイツの一年生代表、シリウス・キアストライトのお兄様で間違いないようだ。


 それにしても、まさかこんなところで友人の兄が魔道具を売っているとは思わなかった。


 もしかしてスピネルはこのことを知っていて案内してくれたのだろうか。わたしは質問のため、スピネルの方へと顔を向けた。


「スピネルはロキオン様のことを知っていたのですか?」

「ああ。とは言ってもシリウスの兄上だと知ったのはつい最近のことだけどな」


 スピネルとわたしが会話しているのを聞いて、立ち上がったロキオン様はこちらに向けてニコリと微笑みを浮かべる。


「クリスティア殿下。私のことはロキオンと呼び捨てで構いませんよ。シリウスのことも呼び捨てにしているようですし……」

「分かりました! それならロキオンもわたしのことはクリスと呼んでください! 話し方もスピネルと話す時のように崩した感じで大丈夫ですよ!」


 あまり仰々しくされてしまうとこちらも緊張してしまうので、楽にするようにロキオンへ伝えると、彼も肩の力を抜いて大きく息を吐く。


「分かった。よろしくな、クリス」

「はい! よろしくお願いします!!」


 わたしが笑顔で答えると彼も笑顔を見せてくれる。スピネルと仲が良さそうだったので、ロキオンも悪い人ではないだろう。これから仲良く出来たら色々と魔道具についても教えてもらえるかもしれない。


 それからロキオンはレオナ達とも自己紹介を済ませ、お互いにある程度崩した話し方で接することになった。


 全員との挨拶を終えたロキオンはカウンターの向こう側に戻っていくと、店主としてわたし達に話しかけてくる。


「今日は何を探しに来たんだ?」

「特にこれと言って欲しいものがあるわけじゃない。クリスを案内するために皆で町を見て回ってたんだよ」

「それで最後が俺の店か? スピネルも随分と物好きだな」


 ロキオンはスピネルの返答を聞いて楽しそうに笑う。


 確かに普通に案内していたらこのお店に人を連れてこようとは思わないだろう。場所も大通りからは離れているし、お店の見た目もボロボロだ。


 しかし、お店の中はこんなに綺麗なのに一体どうして外観はあんなにボロボロなのだろう。余計なお世話かもしれないが、このままではお客も来ないのではないだろうか。


 そう思ったわたしは思い切ってロキオンに尋ねてみることにした。


「ロキオンはお店の見た目を綺麗にしようとは思わないのですか?」

「俺も出来ればそうしたいんだが、中々難しくてな……」

「何か理由があるのですか?」


 どうやらロキオンも好きでボロボロのままにしているわけではないようだ。わたしが首を傾げていると、彼も難しそうに眉を寄せる。


「ああ。俺の固有魔法は『陣地構築』って魔法なんだが、発動するための条件がボロボロの建物の中に一定時間いることなんだ」

「え!? そんな固有魔法が存在するんですか!?」

「クリスが驚くのも無理はない。俺も最初は驚いたからな」


 わたしが驚きの声を上げると、それも当然のことだろうとロキオンは苦笑を浮かべる。


「代わりと言っては何だが、陣地の中では魔力を上手く扱えるようになったり、作成した魔道具の出来が良くなったりと悪いことばかりじゃないんだ」

「それにしても随分と癖の強い固有魔法ですね……」

「まあ固有魔法は人それぞれだからな……」


 スピネルも話を聞いて苦笑を浮かべているが、ロキオンはそこまで気にした様子ではないのでわたしはホッと胸を撫で下ろす。


 固有魔法は人によって違い、中には発動条件や行動に制限がかかることもある。セレスタお姉様が攻撃魔法を使えないのも、固有魔法により行動が制限されているためだ。


 その代わりセレスタお姉様は他の者と比べ物にならないほど回復魔法が上手なので、わたしが知らないだけでそういう者も案外多いのかもしれないと納得することにした。


「それでお店の見た目を変えることが出来ないんですね……」

「ああ。この場所を工房にして別のところに店を開くことも考えたんだが、人手が足りなくてな。結局ここで作った魔道具をそのまま売ってるわけだ」

「なるほど……中を綺麗にするのは魔法の発動には問題ないのですか?」


 外観と比べて妙に綺麗なお店の中を見回しながらロキオンに質問すると、彼はまた難しい顔をして頷く。


「問題ないんだが、その辺りの匙加減がまた微妙なんだ。あまり綺麗にし過ぎると陣地として使えなくなってしまうからな」

「聞いているだけでも扱いが難しそうな魔法ですわね」


 わたしとスピネルの後ろで話を聞いていたレオナも話に加わってくる。わたしもその言葉には同意見なので、横でふんふんと頷きを返す。


「レオナの言う通り、確かに扱いは難しい。だが今はこの固有魔法を授けてくれた神様に感謝している。おかげで思う存分好きな魔道具作りを出来るんだからな」


 そう言ってロキオンは楽しそうに笑うと、自分の店をぐるりと見回す。その言葉に偽りはないようで、本当に楽しく思っていることがわたし達にも伝わってくる。


「まあ折角来たんだ、俺の自信作をゆっくり見て行ってくれ」


 店を見回して満足したのかロキオンはわたし達に視線を合わせると、店主の顔でニヤリと笑みを浮かべた。

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