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クリスは楽しく過ごしたい!  作者: かるた
第三章 大魔法祭を楽しく過ごしたい!
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バニラの案内と困った使い魔

 話し合いを終えたわたし達はカフェを出る準備をして席を立つ。わたし達が出口へと向かうと入った時と同じように店員の女性が声をかけてくる。


「本日はありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」

「こちらこそありがとうございました! また来ますね!」

「また殿下と一緒に来ますわ!」


 深々と礼をしてくれた店員にわたしとレオナで感謝の気持ちを伝え、わたし達はカフェを出る。


 通りに出たわたしが空を見上げると、眩しい日差しがわたし達を照らしてくれていた。時間はお昼を少し過ぎたくらいのようだが、先ほどお菓子を食べたのでお腹もあまり減っていない。


 空から視線を下ろしたわたしは皆に向かって話しかける。


「今度はどこに連れて行ってくれるのですか?」

「次は私のおすすめのお店ですよ、クリスティア殿下」


 わたしがわくわくした目を皆に向けると、バニラが一歩前へと進み出る。どうやら次はバニラが案内人となるようだ。


 カフェで話している時にも少し聞いたがバニラはお菓子のお店に詳しいようなので、恐らく連れて行ってくれる場所もお菓子のお店なのだろう。そう予想することは簡単なのだが、町にあるお菓子のお店にわたしは入ったことがないので期待も膨らむというものだ。


「それでは早速案内お願いしますね、バニラ!」

「はい、もちろんです。楽しみにしていてくださいね」


 どのような場所に連れて行ってもらえるのだろうか、そんな期待を込めた瞳をバニラに向けると、彼女も嬉しそうに笑ってくれた。


 バニラの案内を受けて道沿いに進み始めたわたし達だったが、やはり町には色々なものがあって面白い。露店では見たことのないお菓子やアクセサリーなども売っているし、並んでいるお店には何に使うのか分からない魔道具もたくさんある。


「おい、クリス。よそ見しながら歩いてると危ないぞ」


 物珍しさからきょろきょろと左右を見回しながら歩いていると、隣を歩いていたスピネルにまたしても注意されてしまった。


 午前中に続いての注意だが、わたしにとっては初めてのお出かけなのだ。全てが珍しく見えるのは当然のことではないか。そんな気持ちを込めてスピネルの澄ました顔を睨みつける。


「何を言うのですか、スピネル! 町はこんなに楽しそうなのに、よそ見せずにはいられませんよ!」

「分かった、分かったから。とりあえず落ち着いてくれクリス」


 わたしが興奮しながらスピネルにそう言うと、スピネルは両手を前に出して宥めるように声をかけてくる。


「俺も楽しんでるクリスの邪魔をしたいわけじゃないんだ。ただ……クリスは一応王女なんだからもっと落ち着きを持ってくれないとな」

「一応とは何ですか!? れっきとした王女ですよ、わたしは!」

「その辺りでおやめくださいませ、殿下。バニラ達も困っているではありませんの」


 スピネルの態度にわたしが口を尖らせ言い返していると、わたし達の間にレオナが割り込んでくる。その後ろには困惑した様子でわたし達の会話を遠巻きに見ているバニラとウィルの姿があった。


「全く……二人の仲が良いのは分かりましたけれど、このような場所で言い争いしているのは美しくありませんわ」

「すみません、レオナ……少し興奮してしまいました」


 わたしは興奮を冷ますために深呼吸をして『精神活性』を少しだけ発動させる。


「バニラもウィルもすみません」

「いえ、私達のことはお気になさらず」

「ああ! 殿下が町に行けるのを楽しみにしてたのは知ってるから、少しくらいはしゃぐのは仕方ないと思うぜ!」


 落ち着いて周囲を見ることが出来るようになったわたしが皆に謝ると、レオナは笑顔で頷きながら、そのままスピネルの方へと顔を向ける。


「スピネル様も! 殿下に謝ってくださいませ!」

「ああ……俺も悪かった、クリス。すまない」

「いえ、スピネルの注意ももっともです! 気になるお店にはまた今度来ればいいのですから、わたしも気を付けて歩くようにしますね!」


 スピネルの謝罪を受けて、わたしも気を引き締めることにした。町を見るのは楽しいが、それで皆に迷惑をかけてしまっては元も子もない。


 その後もしばらくバニラの案内に従って町を歩いていると、どこからともなく美味しそうな甘い匂いが漂ってきた。


「何だろう、この匂い……とっても美味しそうだね!!」


 その匂いに反応したのはむーちゃんだ。きょろきょろと辺りを見回しながら匂いの元を探しているようだ。


「ええ、そうですね! 一体どこからの匂いなんでしょうか?」


 むーちゃんが鼻をひくひくと動かしている横でわたしも辺りをきょろきょろと見回す。しかし、目に付く範囲ではそれらしきお店は見当たらない。


「どこにあるのでしょうか……? バニラ、美味しそうな匂いがするのですけど……」


 バニラならこの美味しそうな匂いの元を知っているかもしれない。そう思ったわたしが話を聞くためバニラの方を向くと、後ろからむーちゃんの元気な声が聞こえてきた。


「ちょっとボク探しに行って来るね!」

「え? むーちゃん!?」


 わたしが気付いた時にはもう遅く、むーちゃんは匂いの元を探してひゅーんと飛んで行ってしまった。視界から消えてしまったむーちゃんを探すため、辺りを見回してみるが、それらしきものは見つからない。


「どうしましょう! むーちゃんがいなくなってしまいました……!」

「お任せくださいませ、殿下!」


 あっという間に見えなくなったむーちゃんを探してわたしが慌てていると、レオナは自分の肩に止まっていたロートに素早く指示を出す。


「ロート! むーちゃんを追いかけてくださいませ!!」

「ぴ!」


 レオナがそう言ったのと同時に、ロートが軽やかに羽を広げ飛んでいく。レオナの指示通りむーちゃんを探しに行ってくれたのだろう。


 ロートへの指示を終えたレオナは満足そうにわたしに微笑みかける。


「これでとりあえず見失うことはありませんわ!」

「すみません、レオナ……むーちゃんが迷惑をかけてしまって……」

「大丈夫ですわ! こういう時のためにわたくしがいるのですもの! 殿下はご心配なさらず!」


 そこで一度言葉を切ると、レオナはわたしの肩の辺りに視線を移す。そこにはレオナから借りているブラウがおり、眠そうな目でぼーっと空を見つめていた。


「ブラウ! ロートが向かった場所へ案内してくださいませ!」

「ぴ~?」

「ええ、どちらに向かったのか教えてくれれば大丈夫ですわ」

「ぴ~!」


 ブラウが何を伝えているのかわたしには分からないが、きっとわたしとむーちゃんのようにレオナとブラウの間でも意思の疎通が出来ているのだろう。


 レオナの言葉を聞いたブラウはわたし達の少し前で案内するようにパタパタと羽ばたき始めた。


「さあ、これでむーちゃんを探せますわ!」

「ありがとうございます、レオナ! むーちゃんには後でしっかりと言い聞かせますね!」


 わたしが迷子にならないよう気を付けていたら、使い魔が迷子になってしまったなどとお兄様達に報告するわけにはいかない。


 ここはレオナの力を借りて、少しでも早くむーちゃんを探し出さなければ……。


「バニラもすみません。案内を中断させてしまって……」


 むーちゃんが飛び出してしまったせいで、バニラの案内も中断してしまった。わたしが申し訳ない気持ちで謝罪すると、バニラは予想に反してニコニコと笑顔を浮かべていた。


「そんなに謝らないでください、殿下。それに私はむーちゃんがどこに向かったのか大体検討が付いているんです」

「そうなんですか?」

「はい。今ブラウが向かっている方向も、最初から私達が向かっていた方向と同じなんですよ」


 バニラの言葉につられてブラウの飛んでいる方向を見ると、確かに元々わたし達が歩いていた方向である。


「もしかしてバニラが案内してくれようとしていた場所に行けば、むーちゃんにも会えるのでしょうか?」

「恐らくは……」


 わたしがそう尋ねるとバニラは困ったように笑いながら目的地の方へ視線を向ける。


「ですが、とりあえずはブラウとレオナ様についていくことにしましょう。それが確実ですからね」

「そうですね! それではレオナ、ブラウも案内よろしくお願いしますね!!」

「お任せくださいませ!」

「ぴ~!」


 話し合いを終えたわたし達はパタパタと目の前で羽ばたくブラウの後を歩き始めた。


「それで、バニラが案内してくれようとしていたお店はどの辺りにあるのですか?」

「もう少し歩いたところですよ。『魔法使いの家』というお菓子のお店です」

「魔法使いですか!? それは楽しみですね!!」


 魔法の研究をしている者として、そのお店の名前は聞き逃せない。わたしが興奮で両手を握りしめていると、バニラはクスリと微笑みを浮かべる。


「ええ、店主の方が固有魔法で作り出したお菓子を売っているんです。それ以外にも色々なお菓子があって、見ているだけでもとても楽しいんですよ」

「それを聞いたらもっと楽しみになりました……早くむーちゃんと合流して行きたいですね!!」


 普通わたし達がお菓子を作ろうと思ったらそのための魔道具を用意する必要がある。以前セレスタお姉様と一緒にクッキーを焼いた時もそうだった。


 しかし、世界には固有魔法を使ってそのまま物を作り出すことの出来る者もいるのだ。身近で言えば、メディは『毒薬生成』の固有魔法で薬や毒を作り出すことが出来る。


 そう言った創作系の魔法は使いどころが限定されてしまうが、お店を開きたい者にとってはうってつけの魔法である。きっとその店主が魔法で作り出したお菓子も美味しいのだろう。


 わたしがまだ見ぬお菓子に想いを馳せていると、隣で聞いていたスピネルも話に加わってくる。


「その店なら俺も何回か行ったことがあるな。クリスのお土産も何回か買ったはずだぞ」

「本当ですか!? どのお菓子でしょうか……? どれも美味しかったので、思い出せません……」


 スピネルは町に出掛ける度にお土産を買ってきてくれたので、どのお菓子がそのお店で買われたものだったのかは覚えていない。形のあるものはしっかりと部屋の棚に飾っているのだが、お菓子はわたしのお腹の中に消えてしまったからだ。


 以前にそのお店のお菓子を食べたことがあると聞いたわたしは、必死になって今まで食べたお菓子のことを思い出す。


「うーん、どれでしょうか。あのお菓子でしょうか……? それともあのお菓子……?」


 わたしが今までに食べたお菓子を思い出して頭をいっぱいにしていると、スピネルに軽く肩を叩かれた。


「とりあえず今はむーちゃんを探した方が良いんじゃないか? 当然だが見つかるまではお菓子もお預けだぞ」

「ええ!? それは困ります!!」


 スピネルのお預けという言葉を聞いてわたしが慌てていると、ブラウに指示を出しているレオナが楽しそうに笑顔を浮かべて一軒のお店を指差す。


「心配ご無用ですわ、殿下! むーちゃんはあそこですの!」


 レオナが示した方へ目を向けると、お店の店頭でふわふわ浮かんでいるむーちゃんとそれを追いかけたロートの姿が見えた。どうやらむーちゃんはガラス窓から店内をじっと見つめているようだ。


 他の通行人達も遠巻きにむーちゃん達のことを見ているので、騒ぎになる前に早くむーちゃんを回収しなくてはならない。わたし達は小走りでむーちゃん達のいるお店に駆け寄った。


「もう、むーちゃん! 勝手にどこかに行かないでください!!」

「ごめーん、クリス! 美味しそうな匂いがしたからつい……」

「次からは気を付けてくださいね!」


 わたしがむーちゃんを抱きかかえると、ロートも役割を果たしたとばかりにレオナの肩へと戻っていく。むーちゃんにはわたしの使い魔として後でしっかりと注意が必要だ。


 何とかむーちゃんと合流したわたし達は目の前のお店に目を向ける。ガラス張りの窓からは店内の様子を見ることができて、美味しそうで可愛いお菓子が所狭しと並べられている。


 入り口のところには看板もかかっており、そこには『魔法使いの家』と先ほどバニラに教えてもらったお店の名前が書かれていた。どうやらここがバニラの案内したかったお店で間違いないようだ。


「これは凄いですね……!」

「ああ……俺も初めて見たが、これならバニラがおすすめするのも納得だな!」


 それに目を輝かせているのはわたしだけではないようで、横に並んだウィルも目を輝かせて店内を覗き込んでいる。


 わたしが窓から目を離しバニラの方へと顔を向けると、彼女は嬉しそうにニコニコと微笑みを浮かべていた。


「それでは早速中に入ってみましょうか!」

「はい!」


 自分のおすすめと言うこともあって普段より元気なバニラの声に返事をして、わたし達は店の中へと入っていった。

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