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クリスは楽しく過ごしたい!  作者: かるた
第三章 大魔法祭を楽しく過ごしたい!
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お茶会と出し物の決定

 皆でお茶を飲みホッと一息吐く。あまり疲れは感じていないつもりだったが、初めてのお出かけで少し緊張していたのかもしれない。爽やかなお茶の香りが鼻に抜け、緊張も緩んでいく。


「ふう……」

「美味しいですわね……」

「ええ、とても美味しいです……」


 わたしの吐いた息に続いてレオナとバニラもホッと息を吐く。言葉こそ発してはいないが、スピネルとウィルも口元を緩めて嬉しそうだ。


 皆でのんびりとした空気を味わっていると、お茶のカップを持ったままスピネルがわたしに声をかけてきた。


「クリス、初めて町に来た感想はどうだ?」

「とても楽しいですよ!!」


 わたしがそう言うと、スピネルは微笑みながらお茶を口に運ぶ。


「それなら良いんだ、疲れたら遠慮せずに言ってくれ」

「まだ大丈夫ですよ! ありがとうございます、スピネル!」


 わたしもお茶を飲みながらスピネルに礼を返す。そして、ここに来るまでに見た面白そうな場所の数々を思い浮かべて、わたしは頬を緩めた。


「まだ見ていないところもたくさんあるので、今度もう一度来ましょう!」

「ああ、一度と言わず何度でも来よう。しばらくは学園で生活するんだからな」

「それもそうですね! これからのことがもっと楽しみになりました!」


 ゆったりとした時間が流れる中、話題は先ほど見た舞台の話へと変わる。わたしは舞台の感動を思い出しながら口を開いた。


「舞台も良かったですね! わたし、初めて見たので感動しました!!」

「それならファルベブルクの劇団がやっている公演を見たらもっと感動しますわよ! 何しろ娯楽と芸術の本場ですもの!」

「そうなのですか?」


 レオナの言葉にわたしが首を傾げるとバニラが大きく頷く。


「ええ、ファルベブルクの劇団は素晴らしいですよ! 私も公演を見ましたが、役者の方の演技力が凄いんです!!」

「それにファルベブルクの劇団は歌を歌いますの! 男性も女性もそれは素晴らしい歌を歌うので、うっとりとしてしまいますわ……」


 レオナとバニラはともにきゃあきゃあ言いながらファルベブルクの劇団について語り合っている。それを聞いたウィルは首を傾げながら二人に向かって口を開く。


「俺はエデルシュタインの劇団の方が好きだぞ。今日のアルフリートとコンラートが戦う場面も良かっただろ?」

「確かにあの場面は格好良かったです! あれは確か舞台独自の演出と言っていましたが、他の舞台でもそうなのでしょうか?」

「ああ、エデルシュタインの劇団は動きのある演技に加えて、魔道具で迫力を出すのが得意なんだ! 国ごとに特色が出ていて面白いだろう?」

「はい! 他の国の舞台も見に行きたくなりました!!」


 ウィルの話を聞いてわたしは首を大きく縦に振る。それなら確かにウィルが今日、劇場に誘ってくれたことにも納得がいく。彼はこういった動きのある舞台が好きで、たまに通っているのだろう。


 今度ドロッセルに劇について聞いてみるのも面白いかなと考えていると、ふと今日の目的を思い出した。


「そうです! 出し物をどうするのか決めなければいけないのでした!!」


 わたしがパチンと両手を合わせてそう言うと、ウィルとレオナの二人が目をキラリと輝かせる。


 二人は姿勢を正すとわたしの方へ向き直り、大魔法祭に向けた自らの主張を述べ始める。


「それでしたらやはりカフェが良いと思いますわ! このお店のような憩いの場を提供し、皆をおもてなししますの! 可能であればむーちゃんを広告塔にしたいですわ!!」

「いいや! 俺は劇が良いんじゃないかと思ってるぜ! さっき殿下も感動したって言ってくれただろう? 俺は今日みたいな劇を大魔法祭で披露したいと思っているんだ!!」

「わあ! 二人とも少し落ち着いてください!」


 二人が同時に話を始めたため、混乱したわたしは少したじろいでしまった。


「うう、スピネル……」


 助けを求めるようスピネルにちらりと目線を送ると、スピネルは素知らぬ顔で優雅にお茶を飲みながらテーブルに置かれたクッキーをつまんで食べている。


「大魔法祭の出し物を最終的に決定するのはクリスだからな。相談には乗るが、とりあえず二人の話をちゃんと聞いてみたらどうだ?」


 そう言われてしまっては返す言葉がない。仕方がないので、わたしは『精神活性』に魔力を全力で流して集中力を高める。二人の話をしっかりと聞くためだ。


『精神活性』に魔力を流した次の瞬間、周囲の景色が変わる。魔力で満たされた世界は煌めきを増し、先ほどまでは聞き取ることが出来なかった二人の言葉をはっきりと聞き分けられるようになる。


 わたしは集中力を高めたまま二人の言葉に耳を澄まして、まずはレオナの主張を聞き取ることにした。


「わたくしの提案するカフェはむーちゃんのような可愛い魔獣をたくさん用意して、お客様にも魔獣の素晴らしさを知ってもらうのが良いと思いますの! お茶に合わせるお菓子にはバニラが他の一年生と相談したものや、むーちゃんの形をしたクッキーを焼いてお客様に振る舞いますの! とても可愛らしくて考えただけで楽しそうですわ!!」


 レオナの主張を聞く限りではそこまで間違ったことは言っていない。魔獣を用意するのはともかく可愛いお菓子を用意して、このお店のように内装をしっかり飾り付ければ良い出し物が出来ると思う。


 それに今年の一年生にはバニラがいて、お菓子作りの監修を任せられるのも大きい。わたしがレオナを監督する必要はあるものの、バニラがお菓子作りを担当するなら他の者からも文句は出ないだろう。


 レオナの主張は理解した。次はレオナと同時にこちらに向かって話しかけてきたウィルの主張を聞き取ってみる。


「俺達は劇の中でも戦いが主になっている演目を選ぶつもりだ! 殿下は知ってるか? 『ヘルメス冒険記』って本。あれの内容を少し劇向けに変更して演じたいと思ってるんだ! さっきも言ったけどエデルシュタインの劇は動きの多いものが中心なんだ! 魔道具も揃えて舞台で演じたら絶対面白くなるはずだ!」


 ウィルの主張も中々面白い。エデルシュタインの劇団は魔道具を使い、動きが多いという国ごとの特色を活かす形にもなるだろう。


 それに『ヘルメス冒険記』は冒険者ヘルメスが各地を回りながら様々な問題を解決していくお話で子供にも分かりやすい。以前からウィルは大魔法祭に来た子供達にも喜んで欲しいと言っていたので、劇の題材にするには良い話だと思う。


 基本的にはお菓子を調べたレオナとバニラ、遊べる出し物を調べたウィルが中心となって大魔法祭の準備を進めてくれていたので、この二つの意見は他の一年生の代表意見であると考えていいだろう。その上でわたしはどちらかを選択しなくてはならないのだ。


 わたしが集中して二人の話を聞いて考えをまとめていると、それを見たスピネルが楽しそうな顔で声をかけてきた。


「どうだ、クリス。考えはまとまったか?」

「はい、まとまりました」

「殿下は凄いですね。私は二人の声が混ざりあって、何を言っているのか良く分かりませんでしたよ……」


 満足そうな表情のスピネルと驚いた表情のバニラの顔を見回し、わたしはレオナとウィルへ視線を戻す。


「……」

「……」


 見つめられた二人はごくりと唾を呑みこみ、わたしの言葉を待っている。わたしは一度目を閉じて、考えた結果を二人に告げるためにゆっくりと目を開く。


「二人の意見を聞いて、わたしはレオナのカフェの方が良いと感じました」

「本当ですの!? 嬉しいですわ!!」


 わたしが静かにそう言うと、レオナはバニラと目を合わせて柔らかく微笑み、ウィルは悔しそうに口元を歪める。


「殿下! こちらのお菓子が美味しいですわよ!」

「ええ、ありがとうございます。レオナ」


『精神活性』により疲れた頭を回復するためレオナが勧めてきたお菓子をつまんでいると、ウィルが大きく息を吐きながらわたしに話しかけてくる。


「俺の案は何がいけなかったんだ? 殿下……」

「ウィルの案も面白いと思いましたよ。『ヘルメス冒険記』はわたしも好きな本です」

「それならどうしてレオナの意見にしたんだ?」


 ウィルは悔しさよりも純粋に疑問に思ったようで、不思議そうに首を傾げている。わたしは先ほどまとめた結論をウィルに説明する。


「色々と理由はありますが、一番の理由は魔道具の調達ですね。先ほどの話ではウィルは様々な魔道具を用意するつもりのようですが、それを作るだけの技術が今のわたし達にはありません」

「でもそれはカフェにしても同じことじゃないか?」

「そうですね。ですがウィル、大事なことを忘れていますよ」

「大事なこと?」


 そう言いながらウィルは怪訝な目をわたしに向けてくる。わたしももう少しお菓子を食べて回復しておきたいのだが、仕方がない。手に持っていたお菓子をお皿に置くと、彼の目を見つめ返す。


「ええ、劇ともなれば皆で練習もしなくてはならないでしょう? 練習に時間を取られることはもちろん、衣装などの準備も必要になります。その上で不慣れな魔道具を大量に準備するのは、流石に皆の負担が大きくなってしまうと思うのです」


 もう少し魔法に慣れた二年生、三年生であればウィルの意見を採用することも出来ただろう。しかし、今のわたし達は魔法についても学び始めたばかりで、一年生の中には魔道具を作るどころか魔法の発動すら覚束ない者も多いのだ。


 そんな状態で無理やり作業をさせても皆が楽しく大魔法祭を迎えられるとは思えないので、お菓子作りや接客の練習が中心となるカフェに決めただけだ。


「なので今回はレオナの意見を採用しました。ウィルの意見が悪かったとは全く思っていませんよ」


 エデルシュタインの特長である魔道具をあまり活用できないのは残念だが、皆の負担を考えればこれで良いとわたしは思っている。


「そうか……それもそうだな! 俺たちのために考えてくれてありがとな、殿下!」


 わたしが理由を説明するとウィルは納得したようで、うんうんと大きく頷いている。その横でスピネルも満足そうに頷いている。


「俺の力を借りなくても大丈夫だっただろう?」

「そうですね」


 わたしの声が平坦になっていることに気が付いたスピネルは心配そうな顔をこちらに向けてくる。それに対してわたしは薄く微笑みを浮かべた。


「『精神活性』で集中したため、反動が来ているだけです。少し休めば問題ありませんよ」

「それなら良いんだが……調子が悪いなら無理せず教えてくれよ」

「ありがとうございます、スピネル」


 わたしが礼を返すとスピネルもこちらのことは気にしないことにしたらしく、カップを手に取りお茶を飲み始めた。


 それを見たわたしは再びレオナに勧められたお菓子を食べて、頭を回復させることにした。


『精神活性』は流した魔力の量に応じて集中力と魔力制御の向上、頭が冴えて冷静になる効果が発動する固有魔法である。


 以前は全力で発動しても問題なかったのだが、今は発動後しばらくの間は冷静な状態が続く後遺症が残るようになってしまった。


 最近は高等魔法の練習をしていることもあり、魔力の扱いも段々と上達してきた。その影響か『精神活性』の効果も上がり、反動が出るようになってしまったようだ。


 幸いしばらく休憩していれば元の状態に戻るので、のんびりお茶とお菓子を食べることにした。


 わたしはテーブルの上に置かれた黒っぽいお菓子を手に取りじっと見つめる。


「こちらのお菓子は何でしょう……? 見たことがないですね……」

「それはカヌレというファルベブルクのお菓子ですよ、殿下」


 わたしの呟きを聞いたバニラがお菓子のことを教えてくれた。ファルベブルクは娯楽の発信地として有名で、様々なお菓子があることでも知られている。以前牧場で食べたアイスクリームもファルベブルクのお菓子だと言っていたはずだ。


 わたしはカヌレをもう一つ取ってむーちゃんのお皿に乗せてあげると、自分でも一つ食べてみる。


「美味しいですね」


 外側はカリッとした食感で、中はもちもちとしている。独特の苦みと風味があるが、とても美味しい。


 美味しいはずなのだが、先ほどの後遺症が続いているせいかあまり心には響かない。わたしが一口食べたカヌレをじっと見つめていると、むーちゃんが声を上げた。


「美味しい~~!! クリス、これもっと食べたい!!」

「はい、それではもう一つ取りますね」

「むーちゃんにも喜んでもらえたようで良かったです」


 わたしの代わりにむーちゃんが喜んでいるので、バニラは満足そうにしている。折角なのでわたしも後遺症が治ってから食べたいものだ。


 わたしはカヌレを何とか買って帰りたいと思い、バニラへと視線を向ける。


「バニラ、このお菓子はお店でも買えるのでしょうか?」

「はい、町のお菓子屋さんで売っていますよ! 少し買って帰りましょうか?」

「そうですね……それなら寮で待っている皆のためにも買っていきましょう」


 わたしもきょうだいと食べたいので自分のためにも少し購入していくことに決めて、再びお菓子を口に運んだ。


 しばらく皆で舞台の感想を話したりしながらお茶会を楽しんでいると、結構な時間が経過していることに気付いた。後遺症も段々治って来たので、そろそろ次の場所に向かうのもいいかもしれない。


 皆はどう思っているのか気になったので、わたしは皆の顔を見回して声をかける。


「そろそろ次の場所に向かいましょうか?」

「そうですわね……わたくしは構いませんわよ!」


 どうやらレオナもゆっくりとお茶会が出来たので満足したようだ。わたしとしてもこのお店を紹介してくれたレオナには感謝しかないので、彼女に笑顔を向ける。


「他の皆ももういいですかね?」

「ああ、俺もバニラも案内する場所が残っているからな。そろそろ移動の相談をしようと思っていたところだ」

「スピネル様の言う通りです。殿下やレオナ様が良いのであれば私も異論はありません」

「俺はもう案内したから皆の都合に合わせるぜ!」


 スピネルとバニラが口を揃えてそう言うと、ウィルも同じように答えてくれる。


「それではそろそろ次の場所に向かいましょうか!」


 わたしが元気良く皆に声をかけると、皆は大きく頷いてくれた。

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