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12.OL、中級魔法を使いたい


あの日出会った第五魔王軍の大将だというヴェントは、陣風のヴェントと呼ばれる天才らしかった。

彼も言っていたように、異例の若さで大将という大きな地位に立った彼には、称賛の声と同時に彼を妬む非難の声も多いようだ。

そんな彼の苦しみも考えずに、私が安直に彼にかけた言葉は、やっぱり生意気だったなあと反省した。


しかし、あの日から数日間は魔王城に滞在している噂を耳にして、私は彼にちゃっかり風の守護魔法を教わった。

彼が私にかけてくれた魔法は風属性の中級魔法らしく、今の私には難しいものだった。

闇属性に関しては、初級魔法なら安定して発動できるようになったが、5属性に関しては初級魔法ですらいまだに失敗することがある。

なので、私がヴェントから教わったのは、風属性の初級魔法である風の守護(ウィンドガード)という魔法だ。

それは自分自身に一時的に風の防壁を発動させるというものだった。

それでも、「本来守護系の魔法を魔族が習得するのは難しいと言われているのにすごい!流石リゼット様です!」と褒めてもらった。


そして、ヴェントが魔王城を去って、数日。


私は少し焦っていた。


「お兄ちゃん!」


そんな私は、兄ヴァーノンの部屋の扉を乱暴に開け、彼の部屋に飛び込んだ。


扉を開け放つ前から私の気配に気づいていたのか、机に向かっていたヴァーノンは特に驚くことなく、ゆっくりと視線を上げ私を見据えた。


「どうしたリゼット。珍しいな。」


ヴァーノンは持っていたペンを置くと、優しい表情で私に言った。


そんなヴァーノンに、私はドスドスと足音が立つような勢いで詰め寄る。


「中級魔法を教えて!」


前世の記憶が戻ってから、あと数ヶ月後にはもう1年が経とうとしているというのに、なかなか思うように成長できない自分に私は焦っていた。


そして今日、私は居ても立ってもいられなくなり、ついにヴァーノンの部屋に乗り込んだのである。


私は、ヴァーノンが向かっていた机にバンッと両手をつきながら訴えた。

そんな私に、彼は困ったように笑う。


「お前の望みは何でも叶えてやりたいが、まだ早いだろう。」


やはり困ったようにそう言った彼に、私は頬を膨らませる。

そんな私に、ヴァーノンは変わらず困った笑みを浮かべる。


「初級魔法だって、まだろくに扱い切れていないだろ?」

「闇属性なら問題ないもん!」


ヴァーノンのいう通り、私はいまだに初級魔法の発動にすら失敗することがある。

でもそれは、5属性に限った話だ。

得意としている闇属性なら失敗することはなくなった。


「そんなに焦らなくても、お前の成長は群を抜いて早い。」


そう言ったヴァーノンに、私はぐっと歯を食いしばる。


確かに、魔族の長い寿命から考えると私の成長スピードは焦るようなものではなく、むしろ早いのかもしれない。

しかし、私にはそんな悠長なことを言っている時間はないのである。


私がこのまま弱いままでは、今目の前にいる優しい兄を数年後に歪ませてしまう事になる。


「お願い、お兄ちゃん……」


私は泣きそうになりながら、ヴァーノンに懇願する。


そんな私に、ヴァーノンがゴクリと唾を飲み込んだ気がした。


「……わかった。」


諦めたように返事をしたヴァーノンの顔は、なんとなく赤く染まっているように感じた。






ヴァーノンの泣き落としに成功した私は、彼の執務を放棄させそのまま修練場に向かう。

相変わらず私の行く先々で城の者から愛の告白にも近い言葉が投げかけられるが、私はいつも通りテキトーに返事を返しながら歩いた。


「中級魔法と言っても、その種類は果てしないほど多い。自作の魔法など入れると無限だ。」


修練場につき、私に向き合ったヴァーノンが口を開いた。


「そうだな……まずは形成維持の基本を覚えるか。—————闇黒剣ダークネスソード


そう言って、魔法を発動させたヴァーノンの手に闇が渦を巻くように現れたかと思うと、すぐにそれは真っ黒で禍々しい光を放つ剣に変わった。

ヴァーノンは、その剣の頭身を眺めると、試すように一振りした。


な、何もないところから剣を……!

単純な魔法としては地味ではあるけど、とにかくかっこいい!


「今まで教えてきた魔法は、基本的に敵にぶつけて終わりというものがほとんどで、それ自身が完璧な物質という訳ではない。だが、こいつは物質としての強度を持っている。

魔力を使って完璧な物質を生成するという訳だ。最低限必要とする魔力の量も今までよりも多い。

今までの魔法の発動とは少し毛色が違うから難しいかもしれないな。」


そこまでいうとヴァーノンは私にちらりと視線を向け、「できるか?」と続けた。


「やってみる!」

「いい返事だ。別に剣である必要はないんだが、普段剣の練習もしているようだから最初はイメージしやすい身近なものがいいだろう。

こうやって魔法で生成した武器には追加効果がつく。今回の闇属性なら、攻撃した相手の魔力を奪う効果だ。」


そう言うと、ヴァーノンは握っていた剣を手放した。

重力に従って地面に落ちるかと思ったが、それは私の予想に反してスッと消えてしまった。


武器を持っていなかった時に便利かなと思っていたが、どうやらこの魔法の利点はそれだけではなく、通常の武器にはない効果が付与されているらしい。

なるほど。相変わらずファンタジーだ。


「よーし!————闇黒剣ダークネスソード!」


しっかりと魔力を練り上げ、剣をイメージし、魔法を発動させた。

しかし、ボフンという腹立たしい音を立てながら私の魔力は弾け散ってしまう。

もちろん、私の右手に剣が現れることはない。


「根本的に魔力の量が足りてない。」


不満そうな私に、ヴァーノンがアドバイスをくれる。


「最低でも、今までより3倍の量は必要だ。」

「3倍・・・」

「決して無理はするなよ。」


予想以上の魔力の量を指定され驚く私に、ヴァーノンが心配そうに言った。


練り上げる魔力が多いということは、その分扱いも難しくなるということだ。

思ったより苦戦しそうだと思いつつ、私はまた魔力を練り上げた。






「はぁ、……はっ……」


ひたすら魔法の発動を試み続けた私だが、期待するものがこの右手に現れることはなく、これまでよりも大量の魔力、精神力を使い続けていた私は、すっかり息も上がりその額には汗が滲んでいた。


「リゼット様、今日はもう」

「まだ!」


そんな私を心配したアルベールが、ヴァーノンよりも先に制止をかけてきた。

だが、思ったような成果が得られないイラつきと、ここ最近の焦りで、私にはまだやめる気は無かった。


「お前は口出しをするな。」


ヴァーノンが眉間に深い皺を寄せてアルベールに言った。

流石のアルベールも、今回は不満そうにヴァーノンを睨むように見た。


一触即発な雰囲気の二人をよそに、私は懲りずにまた魔力を練り上げる。


「っ、闇黒剣ダークネスソード!」


ボフン。

聞き飽きた音が私の耳に届く。

思わず舌打ちしそうになるのを必死で我慢する。


くそう。

悔しい。

何がダメなのかもわからない。

私は早く強くならないといけないのに。


今日一番にヴァーノンにもらったアドバイスを思い出す。


もしかしたら、まだ練り上げる魔力が足りないのかもしれない。


それなら、


私は上がってしまった息を整えるように、大きく息を吸い込む。

そうして肺に溜まった空気を一気に吐き出すと、私は今日一番の魔力を体内で練り上げ始める。


足りない。

まだ足りない。

これじゃダメだ。

もっと。

もっと。

もっと。

もっと。


「ダメです!リゼット様!」


焦ったようなアルベールの声が手練場に響いたが、魔法の構築に集中していた私にその声は届かない。


もっと。

もっと。

もっと————!


ダーク—————っ、」


ぷつん。

私の中で、そんな音が聞こえた瞬間。

ぐらりと体が傾くのを感じる。


「リゼット様!」

「リゼット!」


アルベールと、ヴァーノンの悲鳴のような声を聞いた気がする。

私が覚えているのはそこまでだった。


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