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11.陣風のヴェント


魔王城からの呼び出しを受け、素直にそれに応じた僕が魔王城に到着してから2日が過ぎた。

今回の呼び出し理由は、まぁ簡単に言えばお叱りだ。

僕は普段、魔王城からなかなかの遠方にある風の砦と呼ばれる魔族の大型拠点の一つで生活を送っている。

風の砦は、第五魔王軍大将が代々管理を任されている砦で、現在その第五魔王軍大将はこの僕である。

その風の砦に関して、ちゃんと魔族の統率が取れていない上に、周辺の人間を抑制しきれていないとのことが今回の呼び出しの大きな原因であった。



僕は、子どもの姿のまま成長しない特性を持っている。

特性は選べないとは言え、中には瞬間移動やはるか遠くを見通す力など強力な特性もあるらしいのに、僕のこの特性はあまりにも酷い。

特性を持っているだけでも珍しいのだから何を贅沢なことをって言い出す奴が中にはいるかもしれないが、こんな特性ならない方がマシだ。


それに、魔族は皆特性を持っていても基本的にその術を晒さない。

特性は、切り札となり得るもので、予め特性の効果を知られているより、知られていない方がその効果が絶大なのは当然だ。

それなのに、僕のこの特性は丸出し。


特性は持っているとしても、一つだ。

魔族は特性の有無についても基本的に自分から公表することはない。

特性を持っていなかったとしても、「何か恐ろしい特性を持っているかもしれない」という牽制に繋がるからだ。

つまり僕は、特性持ちであることを晒している上に、その特性に脅威性は全くなく、他に特別な切り札がないとバレバレの状態であるということだ。


その上、その特性のせいで、僕の見た目は10歳くらいの子ども。

周りの魔族どもにバカにされるのは当然のことだった。



そんな僕が第五魔王軍大将に任命されたのは、今からたった5年前のことだ。

魔力の量には我ながら自信があり、魔法に関しての知識や技術も他人より圧倒的に優れたものだった。

その並外れた魔法の才能、技術により、通常若くても300歳以上が選ばれる大将という役に、僕は148歳という異例の若さで任命されたのだ。


そんな僕のことを、周りの魔族が面白がらないのは想像にかたくない。

特に、任命された当時はそれはもう酷いものだった。



それから5年が過ぎた今、当時よりはマシにはなったものの、いまだに僕のことを妬んでいる魔族は少なくない。

それは、僕が管理する第五魔王軍に属する魔族の中にもいて、今回の呼び出しもそういった魔族からの進言があってのことだろう。

あーうざいなぁ。


しかし、実際に砦の管理を任されてから5年が過ぎたというのに、今回の呼び出しの通り、僕は魔族を統率仕切れていないし、その周辺の人間たちも度々反乱を起こし上手く抑制仕切れてもいない。


他の魔王軍大将たちが管理している砦は、たまに人間が反乱を起こすことはあれど、僕の砦ほど酷い噂を耳にしたことはない。

それどころか、第五魔王軍に属する魔族たちの口から、他の大将たちへの称賛の声が漏れることも少なくなかった。


僕に、魔王軍大将としての力が足りていないのは明確だ。



「……はぁ。」


数分前、魔王様直々ではないが、魔王様の息子であるヴァーノン様直々にお叱りの言葉をいただき、喝を入れられてしまった。

ヴァーノン様は36歳という若さではあるが、魔王様の潤沢な魔力を継ぎ、魔法の才能にも恵まれ、剣や弓などを扱う才能にも恵まれていた。

今はまだ魔法に関しては僕の方が何枚か上手であると言えるが、その実力が抜かれる日はそう遠くないと確信している。


落ち込んでしまった気分を少しでも変えられるかと思った僕は、一人で魔王城の庭園に足を運んでみた。


風の砦上空よりも禍々しく厚い雲に覆われている魔王城は、外に出たところで日中にも関わらず薄暗い。美しく咲き誇っているはずの薔薇もどんよりして見える。


あぁ、こんなに心が荒んでる時くらい、晴天の下気持ちのいい風を浴びたいなぁ。


そんな、なんとも魔族らしからぬことを考えていた。

どうやら僕は、第五魔王軍大将という役職にも、居心地の悪い砦の生活にも、城からの呼び出しにも、疲れてしまったみたいだ。


「……はぁ。」


鮮血のような薔薇を眺めながら、二度目のため息をこぼした。

そんな時だった。


「こんにちは。」


ふと横から声が聞こえてきた。

女性、というには幼く、鈴の音のような心地よさと、しかしどこか凛としたような意思の力を感じさせるような不思議な声だった。


城のメイドとか、どうせつまらないものだろ。


そう思いちらりと目をやったが、僕はその視線をすぐに目の前の薔薇に戻した。


ドクリ、と大きく心臓が変に脈打ったのを感じた。

途端に自分の中の熱が急激に込み上げてくるのを感じる。


この感覚には覚えがあった。

堪らず、僕はもう一度勢いよくそちらに目を向けた。


「リ、リゼット様……!?」


思わず驚愕の声をあげた。

僕に声をかけてきたのは、魔王様の娘であるリゼット様だった。

美しい漆黒の髪の毛がゆらゆらと風に揺れている。

その美しい少女のすぐ後ろには、鋭い眼光をした魔族が一人控えている。


その少女を直接見たのは数年振りだった。

初めて合間見えた時の、今までに感じたことのないあらゆる感情や欲望の高まりは忘れられないほどの衝撃だった。

そんな記憶の中にある姿より成長している彼女は、当時よりも美しく艶やかであると感じた。


その姿をはっきりと視界に捉えると、僕の中に込み上げてきた熱がさらに大きなものになる。


あぁ、愛しい好きだ麗しい守りたい可愛いこの腕で抱きしめてぐちゃぐちゃに甘やかしてあげたい。

そんな、僕らしくない感情が込み上げてくる。


思わずうっとりとしてしまった僕とは裏腹に、少女は不思議そうに僕を見上げている。


「どうしたの?迷子?」


あまりの温度差に、僕は一瞬呆気に取られてしまったが、その言葉の意味を理解すると、男として見られていない悔しさについ頭に血が上ってしまう。


「僕はこう見えても今年で153歳だ!」


感情のままに、叫ぶように言ってしまった。

リゼット様の驚愕の声と同時に、その後ろから殺気が飛んできた。

リゼット様の護衛であるアルベール・シーヴァーは有名だった。

僕よりも若いくせに、リゼット様の護衛を任されている異例中の異例だ。

きっと僕以上に、他の魔族から妬まれていることだろう。


そんな彼の射殺すような視線を無視して、僕は「子ども扱いされては困ります!」と、不満を漏らす。


「そ、それはごめんなさい。」


ズキン、と音がしたんじゃないかというほど、心臓に痛みを感じた。

リゼット様の謝罪を聞いた瞬間、心臓が締め付けられたかのような苦しさに襲われる。


この愛しくて堪らない存在に、僕はなんて態度をとってしまったんだと、大きな後悔の波に襲われ慌てて謝罪を述べる。


そんな、あってはならないことをしてしまった僕に対し、リゼット様は「いやいや、私が失礼なこと言ったのが悪いの!自分を責めないで。」と女神のような輝きを感じさせるほど、暖かい言葉をかけてくれた。


思わず僕は驚きに目を見張る。


リゼット様とこんなに近距離で話をしたのは初めてだ。

でも、以前見かけた彼女は、幼いながらに自分の価値を理解しており高飛車な印象が強かった。

それでも、彼女に対して批判的な感情は一切湧かなかったし、それどころかどうしようもなく愛しく感じたのを覚えている。


だが、今目の前で話をしている少女は、高飛車な印象など全く感じられない。

今の彼女から感じる印象は、毒気の全くない純粋無垢で柔らかな表情をした少女だ。


そういえば、とふと思い出す。


砦の魔族が風の噂で聞いたと、他の魔族に言いふらしていたのをたまたま耳にしたことがあった。

”近頃のリゼット様はなんと鍛錬をされているらしく、あの高貴なお姿を城内のあちらこちらで見かけることができるらしい。それだけじゃなく、誰にでも気軽に声をかけてくださったり、女神のような笑顔まで向けてくださるそうだ”、と。


「リゼット様……噂通り、なんてお優しい……」


そんな話を思い出し、思わず呟くように言ってしまった。

目の前にした慈悲深さにうっとりとリゼット様を眺めていると、彼女は思い出したように「それより、何か思いつめてたみたいだけど、どうしたの?」と僕に問いかけた。


だけど僕はその申し出にギョッとする。

僕のつまらない悩み事なんか、リゼット様に聞かせられるもんか!

そう思って断ったのだが、リゼット様にうまく言いくるめられてしまった僕は、しぶしぶと言ったように話し始めた。



僕のつまらない悩みを打ち明けると、リゼット様はなぜか「すごい!」と、僕を尊敬するように見上げてきた。

思わず僕は不思議そうな顔で、リゼット様の言葉の意味を問いかける。


「飛び抜けて若いってことはそれだけ才能に溢れてるってことだし、今の時点ですでに大将になれる実力があるのに、まだまだ伸び代があるってことだよね!」


そうだろうか。

すっかりマイナス思考になってしまった僕は、リゼット様のお言葉だというのに、それを疑問に感じてしまう。


「それに自分より強い人が周りにいるのって幸せだと思わない?

あの人より強くなろうっていう目標があると常に向上心を持っていられると思うし、実際にその目標をクリアした時の達成感は他には変えられない快感だと思うの。だから私は、最強であるよりも、最弱である方が刺激的な日々を送れると思う!」


キラキラと、希望に満ちたような目でそう告げるリゼット様を見て、僕は雷が落ちたような衝撃を感じた。


僕は、生まれつき魔法に関して類稀なる才能を持っていた。

ちょっとばかし努力するだけで、簡単に人より強くなれた。

そうして大将となった僕は周りに非難される日々に、周りを見返してやろうというより、この特性のせいだ、僕を妬む奴らが悪いと、ただ卑屈になるばかりだった。


そんな僕に、リゼット様の純粋なまっすぐ前を向いた言葉はあまりにも眩しすぎた。

彼女の綺麗な言葉は、僕の荒んだ心を一気に浄化するように、僕の中に浸透した。

乾いた心が満たされていくようだ。


大将の誰よりも強くなってやろう。

僕を見下している奴らに、文句を言わせる隙を与えないくらいの統率力を身につけよう。

反乱する気が起きないくらい人間たちに恐れられる存在になろう。


そう思えた。



そうして、感極まった様子でお礼を言った僕に、リゼット様はあろうことかポケットから飴を取り出し、僕に差し出してきた。


ついさっき153歳って伝えたところなのに!


でも、リゼット様からもらえるなら飴だろうとなんだろうと嬉しい。

言葉では言い表せないくらい嬉しくて、心が喜びで震えてる。


リゼット様からもらった飴は、透明の袋に包まれた黄色い飴だ。

宝石のように美しいそれはまるで月のようで、リゼット様もまた、この禍々しく薄暗い魔王城を照らす美しい月のようであると感じ、僕はうっとりとその飴を眺める。


「へへ、少しでも元気が出たならよかった!」


そう言って柔らかく微笑んだリゼット様を見て、僕はたまらなく満たされた気持ちになる。


あぁ、好き好き好きリゼット様!

この腕で抱きしめてベタベタに甘やかして、僕の手で君を守りたい。

君の望みは全部叶えてあげたい。

君のその女神みたいな微笑みを守れるならなんだってやってやる。

あぁ愛しい。

ずっとその黒真珠のような瞳に僕を映して、僕だけを!


そんな高まる僕の中の熱を、なんとか押し殺す。


だめだ、この純真すぎるリゼット様に、こんな僕の醜い感情をぶつけちゃだめだ!


努めて冷静に、僕はお礼をさせて欲しいと申し出ると、リゼット様に守護の魔法をかけた。


本当は僕がこの手で守ってあげたいけど、それはできないからせめて、このくらいは。

リゼット様の手首に、僕の証のように現れた痣を見て、とんでもない興奮を覚える。

その上、リゼット様はそれを「消えないように大事にするね。」と言ってくれた。

興奮と嬉しさに、昇天する思いだ。


この純粋で美しく女神のような君を、失いたくない。

ただ幸せだけを感じていて欲しい。

万が一、愛おしい君の笑顔が奪われるようなことがあれば、僕はそいつを絶対に許さない。八つ裂きにしてやる。

ずっと、君には笑っていて欲しい。

その月のように明るく美しい笑顔を守りたい。

そのためにも、僕はもっと強くなろう。

胸を張って君を守れるように。

愛しい君が、僕の荒んだ心を晴れ渡らせてくれたから。



だからね、リゼット様。


もし君に何か起きた時は、


「絶対に、あなたの力になって見せます。」



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