「南の国エル・トポ」
リリルアたちはプラレスの匂いがする地下道の最下層から抜け、南の国の国へやって来た。
入った時とは逆の構図で迫る地下道の入り口が痛くリリルアの目に沁みてくる。
風は変わり、暑いほどの風が吹いてくるのであった。そこには潮の香りも混ざっていて、入り口の後ろに見える水平線には夕陽が沈みかかっている。
全て焼け尽くしてしまうような夕陽だ…
陽はゆらゆらと揺れ、水にその光を浴びせ燃えているかのようにゆっくりと高度を下げていく。
南側の地下道の出口は砂の地面を備えている。リリルアの足に砂の柔らかい感触が触れていく。
「綺麗ね…」
「うん。地獄の夏みたいだよ。」
「は? 地獄の夏って?」
鋭く意味深な指摘をしたラケルにリリルアは食ってかかる。ラケルの曰く美しすぎる夕陽は形容しがたいから、地獄と形容するべきだという。
「プラレスがどうして火の使い手なのか分かったんだよ。」
夕陽の色は地獄の色。
人を救おうとすれば人を殺す、見てみれば地獄絵図、救わなければ救われない自分がいる。原罪。
無限に続く地獄絵図のようではないか、慈悲深く差し伸べた手は人を殺すために… 優しさとは無慈悲にも人の生臭い血をまとっていく。
と、ラケルは説明したがリリルアには何のことだか分からなかった。ただラケルはプラレスの心を分かったように満足げにしている。
ただリリルアにも分かったのは優しくあろうとすることが、人を傷つけることであるということだけだ。確かに求めることが、消失を導くことであると理解しているつもりだ。
俗っぽく言えば「女の子」に何かを植え付けようとする「男の子」が求める余り滅びていくようなものだ。
「エル・トポ…」と、リリルアが言った。
「は…?」
「土竜は光を求め進むけれど、それを見れば自分が光を受け入れるに不完全な存在であることを知る。人は皆エル・トポ。悩んで苦しんで死んで一人の人間になるの、でもそれも一つの道で別の道へ行こうとすれば死ぬけど。」
今度はラケルの方がわけがわからないという顔をした。ただリリルアは沈みゆく轟々と燃える夕陽を見て土竜を連想しただけだった。
とにもかくにもアリクイ含め、三人は目前に広がる南の国「エル・トポ」を見つめる。南の国はエル・トポという名前だった。
熱帯の古都「エル・トポ」
古都と呼ぶには花々しすぎる街並みだった。カラフルな建物が並び、盆地になっているせいか、入口となっている場所からは飛び出た教会のてっぺんやら美術館らしきものまで見える。また街のところどこらから陽気な音楽が聞こえてくる。
「ところでこの陰鬱な風は…? いいスパイスになってるけど… なんか暗くない?」
深く考えすぎていたリリルアとラケルに、アリクイが真面目な意見をくれた。亜人の彼は陽気な音楽をそっちのけに街の陰鬱な雰囲気を感じている。
エル・トポを寂しい国だと思っていたのだ。
「あ、ああ… ここは標高も高くて涼しいし、風も乾いてるけど、この下が元々鉱山なんだ。だから地下には坑道が張り巡らされてる。ほとんど今は道路になってるんだ。それが街の陰鬱な空気を吸い込んでは、吐き出す。昔話がある、ここには悪魔が住むと…
わっ!」
古都エル・トポの説明をしたラケルは精一杯おどけようとリリルアに脅しをかける。
「な、なに…」
案の定驚いたリリルアにラケルは面白がっている。
「おー、可愛いじゃないか。気を抜いてると悪魔に心を抜かれてしまうぞ?」
リリルアはむすっとしてラケルのおどけた感じを流していたが、そこまで楽に構えなければこの国には入っていけないという感がある。それでもこの瞬間リリルアはラケルを憎いと感じた。深い憎しみを知って乗り越えれば、単純なことでしか人を憎めないと必然的に思うものだ。
よりによって異種族の革命軍が悪魔の国を本拠地に選んだのは興味に値する。
「はいはい、で、何をすればいいの…?」
「散開しよう。」
ラケルはとりあえず全員エル・トポの国で生活してみて、後に感じたことを言い合ってみようと言うのだ。
確かにエル・トポは不思議な地。三人で行動しては感じられることも限られるだろうと思いリリルアは承諾する。
静かに頷いたリリルア。三人は各々違う道を辿ってエル・トポの国へ足を踏み入れようと進んでいった。




