「地下道の魔物です」
ラケルとアリクイが起きるまでの間、リリルアはしばらく待った。起き上がってくると彼らもリリルアと同様、眠気を振り切れないでいる。
「あれ、アリル…?」
「遅かったね二人とも。」
どうやら三人とも地下の変な匂いのする湖に落ち、真っ白な人間に出会って会話をした後戻ってきたということだ。エルフがどうのこうのと言われたのも皆一緒らしい。
「もうこの先罠はないらしいぞ。」
今の「へたれ」の試練が簡閲になっていて失敗すれば多くの罠が待ち受ける、しかし成功した三人にこの先魔物以外の害はない。
今度はリリルアが地図を隅まで調べたので確かだろう。
三人はゆっくりと暗い通路の中を歩いていく。
◇
しばらく行って一旦地下の階層へ降りるための大きな螺旋階段が見える。通路からそこへ行く途中には魔物の群れがいるので回り込んで抜けるわけにいかないようだ。
小鬼の魔物が三体。固定砲台のようなウネウネとした魔物が一体。小隊長のような魚に足が生えた魔物が一体。
「普通のゴブリンに魔法を使うアーリマン、サハギンだな。」
ラケルが遠目に見て判断する。
「ねえ魚類、爬虫類だけってラケル言ってなかった?」
「魔物の生態系なんて知らんしな。イメージ的にそうだったんだよ。」
どうやら地下道をただの湿っぽい通路みたく考えていて、遺跡のように人工的な要素が強いとは知らなかったらしい。人工的な場所にゴブリンの類がいるのは頷けるがつくづくラケルのボケっぷりには頭を抱える。
それにここまで統制の取れた部隊があるということは奥に司令塔や保護対象があると考えられる。
「でも全員下級だよ… 遠距離からゴブリンを始末してアーリマンに接近、最後に一斉攻撃でサハギン… で大丈夫だと思う…」
アリクイの提示した計画が最も妥当なものだろう。
まずはラケルが飛び出して魔物たちに気づかれた刹那、かざした手の先から火の玉を射出する。
「ふぁいっ!」
詠唱の要らない魔法は自分の手の先から飛ばす形で顕現するため、発動は早いが対象に当たるまでのラグが距離に応じてできてしまう。
それが仇となって火球は素早く対応したサハギンの長い槍に刻み消されてしまう。サハギンの合図でゴブリンたちが突進し始め、アーリマンが詠唱を始める。
取り乱したラケルの横をリリルアが龍から授かった左足で踏み切って出る。彼女は瞬時に二体のゴブリンと床に固定された詠唱中のアーリマンを退治して見せた。
魔物たちは地に伏して紫色の霧となり大気中へ還っていく。
最後はサハギン…!
肉薄し腰を限界まで下げ、両手のナイフを同時に打ち上げる。それは防がれてしまったが、瞬時に槍の中央部を両ナイフでしっかりと挟み込み、槍を鉄棒のようにして宙へ回るとサハギンの首目掛けて左の回し蹴りをくれる。
これがしっかりと首の付け根に入り、サハギンの首は勢いよく壁に叩きつけられた。体は立ったままでいる。サハギンもまた他の魔物と同じく霧となって消えた。
ふわりと軽やかに着地したリリルアはナイフの露払いを済ませて振り返りラケルを睨んだ。
「らぁぁけぇぇるぅぅ!!」
走って飛びかかるリリルアにラケルはなすすべもなく倒れた。
「なにがふぁいっ!ですか!? ファイアじゃないんですかしかも弱すぎ! 見栄は!? 見栄は!?」
「うぅ… だってファイアだと皆と同じで嫌なんだもん! アリルがいじわるする…!」
「そこで都合よく幼女要素出すな馬鹿!」
はぁ… もう本当に私一人でよかった。と思うリリルアは落ち着きを取り戻す、なにを言ってもラケルのドジっぷりと魔法の弱さはしょうがないのだから。それにつられて媚びるため半泣きだったラケルも嫌味なまでに落ち着き立ち上がる。
ラケルとダンジョンに潜れば潜るほど、初めて出会った時「インスピレーションの泉源」などと賛美した自分が恥ずかしくなるであろう。
「まああれは火の呪文… 私の真の力は雷の呪文にあるのだから。しかしアリル、お前どうして戦闘ができる。前までは、男の人が大変だったら助けてくれるもんっ!などとうつつを抜かす奴であったが。」
確かにリリルアは商人時代… 自分の愛嬌を武器に人をこき使い後ろで薄ら笑いを浮かべていたが、今は違う。
死の花にも立ち向かっていけたし、知らないうちに自分の中へ蓄積される勇気があるらしい。それは旅の恩恵だ。
ラケルには「龍の指を左足として授かったから」とだけ説明した。
◇
またしばらく進んでいくと個で行動する魔物が少し見られたが、先のような部隊は特に見られなかったのですぐに地下3階へとたどり着く。
最下層ということだけあって空気はひんやりとし雰囲気は他の階層と異なる。
しかし特に魔物の姿は見られなかった。
「なんだか拍子抜け… 中級の魔物くらい出てきてくれるもんだと思ってた。」
「いや。拍子抜けでもなかったようだぞ、ほれそこに。」
今いる場所から上へと登る大回りな螺旋階段の下は広間となっていて、その中央に瓦礫の山と焦げ跡が見える。広間の中に異臭が広がっていたのでリリルアは思わず鼻を覆った。
「なにあれ…」
「辺りに強力な魔法の匂い、これはプラレスのものだ。奴はやろうと思えばNo.6とかいう奴に匹敵するかそれ以上の力を発揮するよ、良心に邪魔されてそうはせんがな。仮にも表の世界ではエルフ族中最強の魔法使いだ。」
どうやら瓦礫の山は魔物の死骸でそれを焼き尽くした魔法はプラレスのもの。魔力が強大であればあるほど個性が如実に現れるためラケルは判断をつけられたのだろう。
リリルアも匂いを嗅いでみると魔物の体が焼け焦げる匂いに、暴力的な魔力の匂い。
「ねえこれ危ないんじゃない… プラレスさん、今。」
「砦でもそうだったが恋に恋して気が狂ったまま。今の奴なら人間の国の一つや二つ、焼き払うことすら厭わないかもしれないね。」
エルフの心はいろいろなことに敏感すぎる。それは生まれつき持つ強大な魔力の抑止として働いているのだが、人間の愚行が加速する今はないも同然だろう。
南の国の事情は思ったより大変なのかもしれないと思い、魔物の死骸を横目に螺旋階段を登っていく。




