「王国民の解放です」
次の朝、リリルアはもうフローレンシアから同盟の誓約書をもらいシュラに乗って飛び立とうとしていた。
昨晩パーティの後ラケルに「龍神族と協定が結べた、明日の早朝に向かう。」と伝書鳩を送ると了解した旨の返事がすぐに帰ってきた。
フローレンシアの口にした計画については引っかかるところがあるが、今はシュトロハイム王国民の救助に専念すべきだろう。
「さて、シュトロハイムの国が再興しその後問題が起きれば我々も手を差し伸べよう。健闘を祈るぞ。」
これはフローレンシアの言葉。
戦争を起こす、心配するな全てそれで解決するということだろうか。リリルアはきっと平和を突き詰め生きていくのならばフローレンシアと対立することがあると思う。そしてシュトロハイム王国が落ち着けば必ず聖域へリリルアは戻ってくることとなるだろう。
リリルアとフローレンシアは戦う運命にあるのかもしれないという、決定的な予感。
自由に生きようとするリリルア。
そして社会の中生きようとするフローレンシア。
平和を求める心は変わらない二人の奇妙な巡り合わせはここより加速する。
リリルアが考えているとシュラが飛んだ。
ママ・コチャの街が遠くなっていく、上空に行くにつれ海風は強くなっていく。潮の香りが気持ちいい。
『お前、フローレンシア様とどうした。顔が歪んでいるぞ。』
歪んでいると言っても興奮の歪みだ。
「迫り来る運命の形に喜んでいるまでだよ、シュラ。」
確かにそうだった。
何も変わってはくれないという現実に反逆する、不思議な夢の快楽がある。リリルアの心の中は文字通りの「歓喜」で満たされていた。こんな心の中で空の風は一層美しさを増してリリルアの目に映ってくるのであった。
『運命って。』
「旅人は大きな困難を見据えた時余計なまでに高ぶるものなのさ。」
『気取りやがって、今から戦いの渦中に入って行くんだからな。』
空の上でリリルアは持っていたレコーダーを投げ捨てる。結局人の揚げ足を取るような手段でことが運ばなかったのは嬉しい。
レコーダーで思い出す、シュラにある程度懐いてもらえたので飛行機の修理は要らなかったなと。
シュラにはもうラケルたちが行動を起こしているかもしれないから早くしてくれと言ったので、案外早くキノコの森を抜け、砦が眼下に迫る。途中で捕虜の受け取りを行いに来たであろう馬車を多く引き連れた一商会の部隊を確認していた。
逃走劇はまだ始まっていなかったが、巨大なイモムシと無数の虫たちの死体が目につく。
「シュラ、あれは!」
『中級の龍とその軍隊だな。奴ら何かやらかしたらしい。で、この後の首尾は?』
「砦にいるのはポルコ・パルコという呪術師に護衛は少女一人だけ。ラケルたちが出てくるのを待とう。」
『ほお。国をと思えば今度は龍まで一人で落とす女か、どんないかつい顔してんのか見てみたいもんだ。』
シュラが旋回し近くの森に降り立つ。
リリルアはすぐに背中から降りて砦の方を望遠鏡で眺めた。
しばらくして砦の中から大きな魔法の光が生まれる、ラケルが脱出のために使う魔法石だっただろう。すぐに大量の人間が砦より解放されていく、怒涛のような人の波、先頭にラケルとヴィンセントが見えた。
今の所追手らしきものは見えなかったが、キノコの森の方角に受け取り手の商会がこちらに気づいた風に見える。
「行こう。」と言ってリリルアは今一度シュラの背中にまたがり空へ飛んだ。
『龍殺しに国落とし。そんな女とやり合うのは俺もごめんだぞ?』
「すぐにフローレンシア様が書いてくれた誓約書を突きつけるから。」
先頭にいるラケルとヴィンセントの元で高度を下げる。
「アリル!」と、リリルアを呼ぶラケル。
「うん。追手は?」
「どうやらいないらしいよ… 中でポルコがNo.6がいないいない、って慌ててたんだ。向こうから来る商会に話をつければ一件落着だね。」
ウィンクするラケルをやっぱりかわいいな、と久しぶりに癒されつつ商会の方面へ向かう。龍だ龍だと騒ぎ立てる部隊を見、特に武装したグループも確認できなかったのでゆっくりと降りていく。
先頭に立つ一人の人間があった、リーダーなのだろうからその者と話をつければいい。
「シュトロハイム王国は龍神族の庇護下に入りました、もう捕虜として扱える身柄ではありません。どうか今回は引き下がってください。」
きちんとフローレンシアからもらった誓約書を掲げる。リーダは男で髪の毛は無造作に乱れた栗毛であったがどこか貫禄がある。
一国の国民を捕虜として扱う取引に関わるものだから商会の中でも上流にいるのだろう。
「そうか… 龍神族のフローレンシアがシュトロハイムの一件に関わっているという噂は本当だったか。分かった。砦にいるポルコたちには我々から話を通しておく、こうなる可能性もあらかじめ話には上がっていたからな。」
「ありがとうございます。おせっかいですが… そこに落ちてる龍の死体、狩人はどこかへ行ってしまったようですよ。」
これは取引が破綻になって、捕虜の分配が行われるはずの国に申し訳が立たなければ、龍の素材でも提供しておけば大丈夫だろうという暗喩である。
「ああNo.6が。彼女が消えたか。」
なんとなく皮肉っぽく笑った男の顔には下卑た考えが見えた。現状砦に戦力は残っていないということ、もしかすると数時間後ポルコの命はこの世にないものかもしれない。
商人のリリルアはポルコを殺して市場を奪い、権力者たちにはNo.6がポルコを殺して逃走と言って信頼を勝ち取り。というところまで見えてしまうような気がする。
しかし裏社会の内部事情はよく分からないから、リリルアに予測できるほど単純なものでないことも確かだ。
「して、貴君は?」
「リリルア・ララルア、旅人で縁あってここに。」
「貴君は商人だった? 娘が玩具の木馬を貴君より譲り受けた。あまり呪術師の問題には関わらない方がいい、いずれ無惨に死ぬぞ。」
「ご忠告どうも。」
玩具の木馬。そんなもの売っただろうかと記憶を探ってみても思い出せない。自分でも一商人からとんでもない場に身を置き始めたものだと思っている、ただ商人では腐っていくと思うからここにいるのだ。安全は望まない。
引っ掛かりを感じながらもラケルらのところへ戻り、大声でもうシュトロハイム王国の民は自由の身なのだと伝えた。
泣き崩れる者や歓声をあげる者の姿が所々に見られた。




