「死の花討伐です」
死の花の母体と対峙するリリルア。
大きな蕾のような姿に無数の触手… それもまた幼体と同じく緑色の異様な胞子を撒き散らしており、その周りはまるで荒地のよう。森が死んでいる。
そこへ数々の死の花の幼体が飛び込み母体の方がそれを食らう。幼体の森で作ってきた「陰の気」を母体が喰らい成長しているのだ。母体のほうがリリルアの存在に気づいたのか、触手の鉄槌をくらわせようとする。
重い蔦だ。この森のキノコを跡形もなく一つ破壊する、リリルアはうまく回避した。
素早さはないがとてつもない力を秘めた一撃。
回避した後幾らかの蔦がキノコにつなげられ、蕾の花弁を閉じるため使われていることに気づく。
つまり、その支柱となっている蔦を切り落とさなければ問題の核には辿り着けないわけだ。
それは見た限り四つ。まず近くにあった一つをリリルアは切り落としてみせる。
木の子の王国で幼体を討伐した時と同じく緑色の血液が飛び散る。
柔らかくできていると思ったものの、自分の全体重を乗せて時間をかけなければ斬り落とせないものだった。普通の植物の茎よりはるかに硬い。
しかしそれを気にしてはいられない、死の花は命でなく兵器なのだから。それを壊さなければという向こう見ずで単純な気持ちが人間くらいの生物にはお似合いだろう。
きっちり死の花を滅ぼす覚悟を決める。
「お前はどうしてここにいる! 戦争の終わった今、お前のいる必要はないはずだ!」
戦いながらも相手に心があるかもしれないという希望、リリルアは決して捨てなかった。それが真か偽かは分からず、ただ言葉だけ返ってくる。
『我々は生きル! 決して万物を創造する人間にも侵すことのできない権利ダ!』
案の定、この兵器もまた作り出されたとはいえ生きることを願っている。
考える暇もなくリリルアに襲い来る重い蔦。二本目の支柱を切り落とした後リリルアも疲労を覚え始め、連続で繰り出される蔦は彼女の足を掠める。
三本目を切り落とそうと止まった時一つの蔦がリリルアの左足を捉えた。
骨の粉砕される音も出ない間にリリルアの左足が宙ぶらりんになる。
「くっ… あっ…!」
衝撃で飛ばされたリリルアの体は遠くへ飛び、背中をキノコの傘にぶつける。そこから地に落ちた。
立ち上がることができない…
体に走った衝撃は強すぎるし、左足が使い物にならなくなっている。自分は死ぬなと思った。魔法が使えるわけでもない、自分の人生は突然誰かに救われるほど美しくない。
そういうふうに生きてきたのだから、森で死ぬのなら本望。
しかし蔦が襲いかかってきた時にそれを退ける一つの影があった。重いはずの蔦はいともたやすく一撃によって跳ね除けられる。
龍だ。
『すぐに俺も後を追うと言ったろう。』
「遅いよ… すぐに森でも吹き飛ばしてくれればよかった。」
『お前はそんなこと望んでないだろう。さっさとやるぞ、ブレス攻撃は強大すぎて使えない。腕で援助するだけだ。細かいことはお前がやれ。』
大きな顔をリリルアの上でのぞかせる龍。
やれ。とは言われたものの。
「動けないんですよ。左足がやられてる…」
リリルアが俯き言った時龍が自分の足の小指を切り落とし、リリルアに捧げた。
『使え。』
「は!? 自分の足の指を突然切り落として何…」
『さっさと使い物にならなくなったちっこい腕を斬り落とせ。そしたらこれがお前の足になる。』
「嘘だったら恨みますよ…?」
『お前を傷つけるようなことはしない。さあ。』
痛みを伴いながらリリルアは自分の左足を切り落とす。悩む暇は与えられない。
骨は粉々にされていたので肉を切るだけで容易だった。プニプニとした感触に、鋭い痛み。
手応えはなかったけれど殺してきたこの森の魔物も、同じ思いをしただろうか。
少し戸惑ったが自分を攻撃しようとする蔦に気づき、完全に切り落とす。不思議なほどすんなりと龍の足の小指が自分の足と化した。
ゆっくりと龍が口をつけたところから、龍の小指が人間の足になっていく… 魔法。誰の肉体が誰のもの、そういう境界は崩れ去る。
蔦が振り落とされる刹那…
自分の足はまたしっかりと動く。前より心地いいくらいで、順に小指から親指まで動かしてみる。
走ってみた。前よりずっと早く動く、自分の左足には龍の肉が取り込まれている。
かろうじて母体の蔦を避ける。
瞬時に落としそびれた三つ目の蔦を切り落とす。
こんなもんなら自分の両腕両足、龍の肉体で代えて欲しいものだ。
清々しい… 重い蔦の支柱が地に落ちる音を聞きながら、自分の新たな左足を感じる。しっかりと立ってみた。新たな片足を得たことで、新しい世界に立ったようだ。
『いい… お前の体は俺のと合うようだ。』
「合うかどうか憶測だったってことですか。ま、いいよ。前より気持ちよく動けるから。」
四つ目の蔦の支柱に焦点を定める。段々と攻撃は過激になってきた。
『後ろ!』
背後から襲い来る蔦を落とすのに、左足を軸にして回転する。足が自分のものだった時より早く動ける。一気に体を回してナイフを叩き込む。
蔦が地に落ちる。
次々と同じ方面から来る蔦も同じ要領で落とした。
落ちた蔦は干からびたイモムシのように地を這いずり回る。
全て処理したことを確認し、瞬時に四つ目の支柱へ接近。左足で地を蹴った勢いを利用し簡単に落とす。
やっと母体、本体の閉じていた蕾が開き中心の「核」が露わになる。それを今度は龍が握り潰すと「死の花」はゆっくり絶えていった。
『戦争終わってモ… 俺たち生きたい… オマエラなんで…? 人間なのに… オマエラ俺たち必要…?』
「ごめんなさい…」
ひたすら謝るしかないリリルアに、死の花の断末魔の一撃が襲いかかる。それを龍が振り払った。これで、完全に死の花は生き絶えたこととなる。
森は元のキノコの森に戻り周りの魔物たちも落ち着いていった。
『あまり兵器に同情をかけるな。お前が先に死ぬぞ。』
「でも、兵器にも心が…」
『造られしものだ。』
「私たちの罪なのに。」
『お前の罪じゃない。』
リリルアは黙りこくってしまった。彼女はしきりに自分の服にかかった死の花の緑色の血液をながめている。
「龍神族の聖域へ案内してください。」
『おいおい、俺は飛べないし突然すぎて何が何だか。』
「もっと多くの人が死ぬことになります、早く飛んで。あなたの名前は?」
『シュラだ。お前は?』
上を向き直ったリリルアがシュラの背に乗る。
「リリルア・ララルア。偽名です。
あなたは飛べるよ、シュラ。」
リリルアが微笑んで呼びかける。
その時、飛べなかった龍が空飛ぶ。キノコの森をくぐり抜け大空へと体を放つ。すぐにリリルアとシュラは空の中に身を置いていた。
これで龍神族の聖域は近い。キノコの森で起こった悲しみを一身に背負いながら、ラケルらの作戦の導となるべく進むリリルア。
レコーダーを使って「西の果ての王国」と「龍神族の聖域」に同盟が成り立つのなら、呪術師商会に捕縛された全ての国民は助かる。
シュラの肉体によって強さを得たリリルア。
そしてリリルアの言葉によって勇気付けられたシュラ。
空を飛び東の龍神族の聖域へと向かう。




