「ラケルら、呪術師商会の砦へ」
とにもかくにもレイジ、と名乗る男はラケルらに同行することとなる。地図を描いてくれた後力尽き、アリクイに看病されることとなった。
ここは龍神族の聖域に協定を結ぼうと走るリリルアとは別の陣営。滅びた王国、捕らえられた国民を解放しようと試みる陣営である。
今のところ…
ー国民解放実行部隊ー
西の果ての王国、王女:ラケル
その近衛兵:ヴィンセント
王国を滅ぼすのに一時関与した亜人:アリクイ
西の果ての農民だった男、捕虜となるがエルフの少女によって解放された:レイジ
呪術師商会の陣取る砦へと向かい、滅びた王国の国民を解放する。アリクイが、逃げたレイジと残党のラケルとヴィンセントを捕らえたふうに見せかけ侵入。
ー協定締結部隊ー
ひょんなことから問題の渦中にいる元商人:リリルア
付き添いの馬:ブリリアント(リリルアが勝手に命名)
龍神族の聖域へと向かい、別働隊が捕虜を解放した後追撃を受けないよう捕虜についての加護を龍神族から受ける。先に落とした龍が見つかればまずそれを説得し、背に乗って聖域へと向かう予定。
というところ。
先ほどリリルアが龍の落ちた「キノコの森」へと足を踏み入れた。
ラケル王女の方はレイジと出会ってから一旦眠り、今砦の前にいる。
アリクイがきちんと、他の皆に手錠がかかっていることを確認すると歩き始める。案の定砦の入り口に差し掛かると魔力感知の警備網が作動し、声がかかる。
声の上では王国を滅ぼした張本人、一人の少女と初の対面なわけだ。
ラケルとヴィンセントは心の中に煮えたぎる何かを感じる。ただ正面切って戦えば無力に終わるというのが事実だ、これを抑えるのは至難の技。
「アリクイ…? 今更どうした、のこのこと帰ってきて…」
「No.6… 逃げたレイジという男と西の果ての国にいた残党を連れてまいりました。」
「シュトロハイム王国の…? そうか、丁寧に連れて来い。」
ラケルが王女を務めていた国はラケルの名字の如く、「シュトロハイム王国」という。そしてそれを一人で滅ぼした少女の名は「No.6」というらしい。
少女の名称はコードネームの類だろう。その意味が序列六位とかでなければいいが。
砦に足を踏み入れ、外へ露出した渡り廊下を歩き塔の中の螺旋階段を上っていく。
一つの部屋があった。
見るからにおぞましい雰囲気を醸し出しており、ゆらゆらと揺れる明かりが扉から滲み出ている。ここが「ポルコ・パルコ」と「No.6」のいる部屋なのだということがすぐに分かる。ラケル達は今にでも国民と再会を果たしたいところだったが今は不穏な行動をせずにいることが大事である。
アリクイが扉を開けレイジ含め三人と共に部屋に入る。
「ああアリクイ君帰ってきたのね。帰ってこなくてもよかったんだけどねえ、君はもう下がっていいよ、邪魔だかんね。」
ポルコ・パルコ。異様なまでに太り肉体は至る所で弛緩して、真っ赤なソファに横柄な態度で座っている。彼の吸う葉巻の煙にラケルが咳き込んだ。
不思議なことにNo.6の姿はどこにも見当たらない。
姿を隠しているのか他の部屋にこもっているのか…
揺らめく蝋燭にワインレッドのソファ。ピンク色の光に包まれた噴水が奥に見え、そこから多量の水蒸気が放たれている。壁には世界中から集められたであろう仮面のコレクションがあった。
恐らくここはポルコの家かアジトの一室。砦までそれを繋げたのは転移魔法の類だろう。
「でもパルコさん… 何か僕にできることがあれば…」
「あると思うかいアリクイ君? 商品になってくれるならぁ… ないこともないがね。」
渋々とアリクイが引き下がりすぐに部屋を出て行く。ここからはラケル達がどれだけ普通の捕虜を装えるかどうかだ。
「それで…君がラケル王女、ヴィンセント君にレイジ君だね。そういえばレイジ君、君を救ったエルフの女の子のことは安心してくれ給えよ。私がきっちり躾けておこう。」
不敵な笑みを浮かべるポルコ・パルコ。明らかにこちらを挑発しているのだ、何をしようがお前らの勝手だが結果俺の懐を肥やすことになるだけだぞ、と。
「レイジ君は元の場所に戻っていいよぉ。お陰でエルフの女を食べる機会ができたわけだ、君には感謝しないと、ね?」
「はい、パルコ様。なんなら捕虜の女全員パルコ様の胃袋に入れてみせましょう。」
ラケルはそろそろレイジも我慢の限界かなと思っていたのだが、そうではないらしい。恐ろしいほど冷静なレイジの存在は未だ腑に落ちないままだ。
「むふふ… 君うちの業界向いてるんじゃない? 入る気ない?」
「いいえパルコ様、私は本当にただの農民ですから。」
「ねえねえうちのNo.6の警備網を優秀なエルフの助けがあったとはいえ、かいくぐった男だよねぇ君?」
「運がよかったんです。早く私みたいな人のことは売り払ってしまってください。」
レイジに興味を持ってしばらくうーんとか唸っていたポルコだが、No.6の入室と共に止まった。奇妙な仮面に全身を包む真っ黒なローブ。いかにも呪術師の仲間らしい格好だが、そのままの身体的特徴が全く見て取れない。なにか隠しておきたいことでもあるのだろうが、異様だ。
なぜかは分からないけれどNo.6のローブの奥の方から時計の針が動く音が聞こえた気がする。
もう少し人間らしい者であれば怒りもハッキリと湧いてくるのだが、機械仕掛けで動いているような人間に現れられても拍子抜け。怒る気も失せてくる。
「おぉNo.6! 今ねぇ、このレイジという男が面白くてねぇ… スカウトとかどうかなあ。どう思う君は?」
「…」
「あ? この業界に入るには善人すぎるって? どーこがぁ。」
「…」
「魔力に偽善者面がある… ふぅん、そうかい。それじゃいいよぅ、レイジ君もまとめて牢屋に入れといてくれ給えよ。」
No.6という者、人前では声で話さないのか…?魔力を駆使して会話している。 そもそもこれでは性別すら不明だ。どうしてヴィンセントもアリクイも少女と呼んでいたのか知れない。
結局不機嫌そうなポルコに見送られ、三人とも牢獄へ連れて行かれることとなった。
No.6は何も話さないまま三人を暗い牢獄へと放り込む。ここからがラケルたちの反撃の幕開けとなる、はずだ。




