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元若頭の王子、治安最悪の国でヒーローになる――ダークプリンス  作者: 夜嶋朔


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7/22

第7話 この国の子供たち

 翌日。


 ムゴッサ警察署。


 建物を見上げた瞬間。


 セイジは眉を寄せた。


「……ボロッ」


 外壁はひび割れ。


 窓枠は古く。


 入り口の看板も、端が少し欠けている。


 リュミエールの王宮や。


 昨日までいたリュミエール・インダストリーズと比べれば。


 同じ国の行政施設とは思えないほど古かった。


 その前に。


 白を基調とした王子衣装のセイジ。


 七人のロイヤル・フラグメント。


 ミレーヌ。


 バルド。


 十人が並んでいた。


 昼間。


 太陽は出ている。


 けれど。


 七人の王子たちの目つきは、昨日の夜からほとんど戻っていなかった。


「昨日のガキの母親、マジで腹立つ」


「寄付金まで盗りやがって」


「ガキ抱いて震えてたくせによ」


「まだ言ってんのか」


 セイジが煙草へ火をつける。


「お前ら昼やぞ」


「関係ねぇだろ」


「犯罪者は昼でも犯罪者だ」


「そういう問題ちゃうねん」


 ミレーヌが警察署を見上げる。


「思っていたより大きいですね」


「古いですが、人の出入りは多うございます」


 バルドが静かに続けた。


「かなり稼働しているように見受けられます」


「入ってみるか」


 セイジが扉を開けた。


     *


 中へ入った瞬間。


 空気が変わった。


「三番取調室空いたぞ!」


「次入れろ!」


「監視記録どこだ!」


「港の映像まだ来てないのか!」


「昨日の強盗犯、留置場へ移せ!」


「監視官呼べ!」


 警官。


 刑事。


 監視官。


 事務員。


 全員が動いている。


 古い机の上には書類が積まれ。


 電話が鳴り続け。


 奥では拘束された男が二人、警官に連れられていく。


 ノエルが目を丸くした。


「……めっちゃ働いてんじゃねぇか」


「忙しすぎだろ」


「暇そうな奴一人もいねぇぞ」


 セイジも周囲を見る。


 昨日捕まえた男たちも。


 すでにジムの部下たちによって連行され。


 それぞれ別の場所で処理されている。


 チャリティーの寄付金は。


 昨夜のうちに全額回収され。


 リュミエール側へ返還されていた。


「思ったより稼働しとるやんけ」


「よう、王子共」


 低い声。


 振り返る。


 奥の机から。


 ジムが歩いてきた。


 くたびれたコート。


 煙草。


 今日も鋭い目。


「昨日はどうも」


「礼言う顔じゃねぇな」


「アンタもな」


 ジムが鼻で笑う。


「寄付金は全部戻した」


「あぁ。確認した」


「昨日の連中も押さえてる」


「ようやっとるやん」


「仕事だ」


 ロイヤル・フラグメントが周囲を見る。


「ここ全部、犯罪者か」


「全部じゃねぇ」


 ジムは煙草の灰を落とした。


「被害者もいる。参考人もいる。監視対象もいる」


「多すぎねぇか」


「あぁ」


 ジムは七人を見る。


「お前らが昨日まで見てた奴ら」


 セイジが目を向ける。


「なんや」


「普通の国で言えば、ごく普通の国民だ」


「……」


 ロイヤル・フラグメントの顔から、少しずつ表情が消える。


 セイジが煙草を指に挟む。


「盗みや強盗が当たり前なんか」


「あぁ」


「事情があってやっとると思っとったけどな」


 ジムが目を細める。


「違う」


「なにが」


「ここで生まれて、ここで育てば」


 ジムは署内を見渡した。


「盗みなんて、子供でも当たり前だ」


「……」


「飯がないから盗む奴もいる」


「……」


「だが、飯があっても盗る奴もいる」


 ノエルの眉が寄る。


「なんでだよ」


「そうやって育ってるからだ」


「クソみてぇな話だな」


「あぁ」


 ジムは否定しなかった。


 エリオットが低く言う。


「じゃあ昨日のガキも」


「スリくらい普通にやる」


「……」


 七人が黙る。


 セイジだけが、ジムを見る。


「アンタは何追っとる」


「今はこれだ」


 ジムが机から一冊のファイルを取った。


 開く。


 写真。


 名前。


 年齢。


 消えた場所。


 何枚も。


 何枚も。


 子供の顔が並んでいた。


 セイジの目が変わる。


「……拉致か」


「人身売買だ」


「はぁ?!!!」


 七人の声が一斉に響いた。


 署内の何人かが振り返る。


「ガキ売ってんのかよ!!!」


「誰がだ!!!」


「ふざけんな!!!」


「どこに連れてってんだ!!!」


「落ち着け」


 ジムが低く言う。


「まだ全部分かってねぇ」


「落ち着けるか!!!」


「ガキだぞ!!!」


「分かってる」


 ジムがファイルを閉じる。


「だから追ってる」


 セイジが写真を見る。


「何人や」


「現時点で確認できてるだけで十二人」


「十二」


 ミレーヌがすぐに黒革の手帖を開く。


「年齢は」


「六歳から十五歳」


「行方不明になった地域は」


「三地区」


「共通点は」


「ある」


 ジムはミレーヌを見る。


「だが、その前に」


 ロイヤル・フラグメントへ視線を向けた。


「お前ら、この子供達も何の罪もない奴だと思ってるだろ」


 セイジが眉を寄せる。


「どういうことや」


「このガキ共」


 ジムが写真を指す。


「スリやってる」


「……」


「運び屋もいる」


「……」


「見張り役」


「……」


「盗品の受け渡し」


 七人の顔が固まる。


「犯罪に加担してる」


 ジムが続ける。


「自分からな」


 今度は。


 誰も怒鳴らなかった。


 写真だけを見る。


 ジムは煙草へ火をつける。


「どうしようもねぇガキから捕まってる」


「……」


「真面目な奴から消えてるわけじゃねぇ」


「……」


「だが」


 ジムの目が鋭くなる。


「拉致は別だ」


 セイジが顔を上げる。


「犯罪しとるガキでも」


「あぁ」


「売ってええ理由にはならん」


「そういうことだ」


 レオンの拳が強く握られる。


 ノエルが低く言う。


「……胸糞悪ぃ」


 エリオットも写真を見る。


「何やっててもガキだろ」


「だから止める」


 ジムが答える。


 少しだけ間が空いた。


 その次の瞬間。


「俺達にも手伝わせろ!!!」


 七人が一斉に言った。


 セイジが横を見る。


「声デカ」


「黙ってられっか!!!」


「ガキ売ってんだぞ!!!」


「絶対止める!!!」


「全部見つけるぞ!!!」


「逃がさねぇ!!!」


「売った奴も買った奴も引きずり出す!!!」


 ジムは。


 しばらく七人を見る。


 そして。


 小さく息を吐いた。


「どうせ口突っ込むと思ったよ」


「だったら話早ぇだろ!!!」


「昨日で実力は分かった」


 七人が静かになる。


 ジムはセイジを見る。


「アンタら、本気なんだろ」


「あぁ」


「なら」


 ファイルを机へ置いた。


「手伝ってもらう」


 一瞬。


 七人の目が変わる。


「よっしゃ!!!」


「絶対見つけるぞ!!!」


「ぶっ潰す!!!」


「最後の言い方やめぇ」


 セイジが煙草を咥える。


 ジムがファイルを押し出した。


「まず資料読め」


「どれくらいある」


「そこ全部」


 ジムが指す。


 棚。


 棚。


 棚。


 さらに棚。


「……」


 ロイヤル・フラグメントが固まる。


 セイジも見る。


「多すぎるやろ」


「これがこの街の常識だ」


「昨日聞いたわ」


「今日は覚えろ」


 ジムは煙草を咥え直した。


 セイジも煙を吐く。


 そして。


 大量の資料へ目を向けた。


「……まず読むぞ」


「おう!!!」


 七人が一斉に動き出した。


 ミレーヌも黒革の手帖を開く。


 バルドは机と椅子を整え始める。


 ジムは。


 その様子を少しだけ眺めたあと。


 何も言わず。


 次の事件の書類へ手を伸ばした。

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