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元若頭の王子、治安最悪の国でヒーローになる――ダークプリンス  作者: 夜嶋朔


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第5話 チョロすぎ

 翌朝。


 リュミエール邸の食堂には、朝からやたらと元気な声が響いていた。


「セイジー!」


「昨日かっこよかったー!」


「怒ったの初めて見たー!」


「『コラァ』って言ってたー!」


「『ワレェ』も言ってたー!」


 セイジはコーヒーを飲みながら、七人を見る。


「お前らのが怖いわ」


「えー!」


「なんでだよー!」


「お前らもコラァ言うとったやろ。殺すぞ言うてたやんけ」


「……」


 一瞬だけ。


 七人が黙る。


「この国来てから、お前らのが治安悪いやんけ」


「でも筋は通ってるだろー!」


「そこは認める」


 ノエルが身を乗り出した。


「でもさ! セイジがあんな怒ったの初めて見た!」


「あぁ」


「めっちゃ怖かったー!」


「お前が言うな。昨日『次やったら殺すぞ!!!』言うとったやろ」


「だってガキの飯盗むんだぞ!」


「せやから理由は分かっとる」


 エリオットも頷く。


「腹減ってるのは分かるけど、売る分まで盗るのは違うよねー!」


「そうや」


「しかも戻してなかったし!」


「そこ気づくん遅かったけどな」


「あっ……」


「飯も作ってもらう気満々やったしな」


「それもあとで気づいた……」


「お前ら勢いだけで全部行くな」


「でもちゃんと分かっただろー!」


「最後はな」


 セイジがコーヒーを置く。


 その横で、ミレーヌがぱっと顔を上げた。


「皆さんの初陣! 最高でした!」


「何が最高やねん」


「私、あんなに胸が熱くなったの初めてです!」


 七人が一斉にミレーヌを見る。


「ほんとー!?」


「はい! すっごく格好よかったです!」


「やったー!」


「煽るな」


「特に皆さんが一斉に怒ったところ、最高でした!」


「そこ褒めるん?」


「はい!」


「お前、モニター越しやから楽しんどったやろ」


「もちろんです」


「認めるんかい」


 バルドも静かに一礼した。


「見事な初陣でございました」


「バルドまで褒めるんか」


「はい」


「やったー!」


 七人がまた騒ぎ始める。


 セイジはしばらくその様子を見ていたが、やがて煙草へ手を伸ばした。


「まぁええ」


 火をつける。


 煙を吐きながら、昨日の埠頭を思い出す。


 腹を空かせた人間。


 盗まれた食料。


 売りさばこうとしていた連中。


 その影に隠れていた、家のない者たち。


 そして。


 母親にしがみついて震えていたような子どもまで。


 今度は店から物を盗んでいる。


「……まず、あのホームレスらが盗みせんようにする」


 ミレーヌが手帖を開く。


「どうされます?」


「チャリティーパーティーや」


「パーティー?」


「あぁ」


 七人が一斉に身を乗り出す。


「やるー!」


「楽しそうー!」


「遊びちゃうぞ」


「分かってるよー!」


「ほんまか?」


 セイジは煙草を灰皿へ置く。


「一回飯食わせて終わりやったら意味ないやろ。金集めて、保護制度作る」


 ミレーヌの筆が止まった。


「保護制度」


「あぁ。飯、寝るとこ、風呂、最低限の生活。そこから仕事探せるようにする」


 ルシアンが真っ先に反応した。


「食事は俺が見る!」


「頼むわ」


 エミールも続く。


「住む場所の配置とか動線も見られるよー!」


「それも頼む」


 レオンが腕を組む。


「警備もいるよなー!」


「いる」


 セシルがぱっと手を上げた。


「人集めるの得意ー!」


「知っとる」


 アレクシスも笑う。


「会場きれいにしようよー!」


「そこも任せる」


 ノエルが目を輝かせた。


「宣伝するー!」


「お前それ本職やもんな」


 エリオットが嬉しそうに頷いた。


「じゃあ僕、全部まとめるー!」


「ええやん」


 ミレーヌが顔を上げる。


「セイジさんと皆さんが来ることで、ファンミーティングになります」


「何でやねん」


「かなり集まると思います」


「チャリティーやぞ」


「だからこそです」


 バルドも静かに続けた。


「握手会など、特典に付けてはいかがでしょう」


「お前まで何言うとんねん」


「寄付額に応じて特典を分ければ、集まりやすいかと」


「急に商売すな」


 ノエルがぱっと手を上げる。


「握手するよー!」


「僕もー!」


「俺もするー!」


「乗るな」


 ミレーヌはもう完全に企画書を作る顔になっていた。


「記念撮影も良いですね」


「増やすな」


「サインも」


「芸能イベントにすな」


「ですが、金額はかなり集まるかと」


 セイジは少し黙った。


「……金貯まったら保護制度作れるやろ」


「はい」


「ほな、やれ」


 ミレーヌの目が輝いた。


「はい!」


「やるんかい!」


 バルドは静かに頷く。


「会場、警備、来賓導線を整えます」


「頼むわ」


     *


 数日後。


 リュミエール・インダストリーズ主催。


 ムゴッサ支援チャリティーパーティー。


 会場には、富裕層。


 企業経営者。


 商人。


 各国から来た関係者。


 報道陣。


 そして。


 噂を聞きつけた一般客まで集まっていた。


 壇上には。


 白を基調とした王子衣装のセイジ。


 その横に、七人の王子。


 客席から歓声が上がる。


 セイジはマイクを受け取った。


「本日は来てくれて、おおきに」


 普段より少しだけ柔らかい。


 だが。


 丁寧すぎるわけでもない。


「ムゴッサには、飯食われへん人も、寝るとこない人もおる。せやけど、物がないわけちゃう」


 会場が静まる。


「届かへんねん。途中で止まっとる。盗まれる。流れへん」


 セイジは会場を見渡した。


「一回飯食わせて終わりやったら意味ない。盗まんでも生きれるように、制度作ります」


 報道陣のカメラが一斉に向く。


「金はそのために使います。以上」


 少し間を置く。


「おおきに」


 マイクを下ろす。


 その瞬間。


 七人が一斉に客席を見る。


 夜だった。


 表情が変わる。


「酒ばっか飲んでねぇで金出せよ」


「その時計一個で何食分だと思ってんだ」


「ケチってんじゃねぇぞ」


「ガキ腹減らしてんだぞ」


「王族呼んどいて手ぶらで帰る気か?」


「財布開けろ」


「さっさと寄付しろ」


 セイジが振り返る。


「お前らチャリティーで恐喝すんな」


「お願いしてんだよ」


「どこがやねん」


 会場のあちこちから笑いが起こる。


 そして。


 本当に寄付が集まり始めた。


「おっ」


 エリオットが寄付額を見る。


「ちゃんと出す人もいるじゃん」


「やるじゃねぇか」


「まともな奴もいるじゃねぇか」


「上から言うな」


 その時。


 一人の男が大きなケースを持って現れた。


「こちらを寄付させてください」


 ケースが開く。


 中には大量の札束。


 ロイヤル・フラグメントの目が一斉に輝く。


「うおっ!」


「すげぇじゃねぇか!」


「やるじゃねぇか!」


「見直したぞ!」


 男が得意げに笑う。


「困っている方々のためですから」


 セイジは札束を見る。


 一本取る。


 指で少し触る。


 鼻で息を吐く。


「おい」


「はい?」


「何、偽札持ってきてイキっとんねん」


 会場が静まった。


「……え?」


 ロイヤル・フラグメントが固まる。


「ち、違いますよ」


 男が慌てて笑う。


「私も騙されたんです。取引先から受け取った金でして」


 エリオットが眉を寄せる。


「……騙されたのか?」


「それなら仕方ねぇな」


「災難だったな」


 セイジが七人を見る。


「お前らチョロすぎやろ」


「え?」


「番号見てみ」


 七人が札束を見る。


 同じ番号。


 同じ印刷のズレ。


 同じ汚れ。


 ノエルの顔が変わる。


「……同じじゃねぇか」


「そうやろ」


 セイジが男を見る。


「被害者ヅラすんの早すぎやろ」


「ち、違いますって!」


「どこがや」


 次の瞬間。


「てめぇぇぇぇぇ!!!!!」


 七人が一斉に爆発した。


「俺ら騙しやがったな!!!」


「ガキの飯に偽札突っ込んで何してやがる!!!」


「被害者ヅラしてんじゃねぇぞ!!!」


「ナメてんじゃねぇ!!!」


「寄付で偽札とか腐りすぎだろ!!!」


「ふざけんな!!!」


「今すぐ全部説明しろ!!!」


 セイジが煙草へ火をつける。


「せやから言うたやろ。チョロすぎんねん」


「今それ言うな!!!」


「逆ギレすな」


     *


 騒ぎは。


 しばらくして収まった。


 偽札の男は警備へ引き渡され。


 チャリティーパーティーは再開。


 今度こそ。


 本物の寄付金が積み上がっていく。


「かなり集まりましたね」


 ミレーヌが帳簿を見る。


「あぁ」


「これなら保護制度の初期資金として十分です」


「ええやん」


 セイジが少し笑った。


 その時。


 一人の職員が青ざめた顔で走ってきた。


「セイジ様!」


「何や」


「集まった寄付金が……」


「ん?」


「全部、なくなっています」


「……」


 セイジが止まる。


 ロイヤル・フラグメントも止まる。


「……は?」


「裏口から、運び出された形跡が」


 数秒。


 誰も喋らなかった。


 そして。


 八人が同時に顔を上げた。


「マジで腐ってんな!!!!」


 会場が揺れた。


「追うぞ!」


「おう!!!!」


 八人が一斉に走り出す。


 ミレーヌがすぐに手帖を閉じた。


「こちらは任せてください!」


 セイジが振り返る。


「あぁ、頼む!」


 バルドも動く。


「追跡車両を用意いたします」


「早よ!」


「承知しました」


 ロイヤル・フラグメントが先へ飛び出す。


「ガキの飯だぞ!!!」


「全部取り返すぞ!!!」


「逃がすんじゃねぇ!!!」


「ナメやがって!!!」


 セイジがその背中を追いながら叫ぶ。


「この国来てから、お前らのが治安悪いやんけ!!!」


「今それ言ってる場合か!!!」


「それもそうや!!!」


 八人は。


 そのまま夜のムゴッサへ飛び出した。

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