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元若頭の王子、治安最悪の国でヒーローになる――ダークプリンス  作者: 夜嶋朔


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20/22

第20話 オーシャン

 夜。


 ムゴッサの中心街にあるイタリアンレストラン。


 ――オーシャン。


 以前は別の人間が経営していた店だったが、今はオズのものになっている。


 重厚な扉を開けると、落ち着いた照明の奥に大きな個室があった。濃い木目のテーブル。磨かれたグラス。壁際には年代物の酒が並んでいる。


 そして。


 そこに。


 異様にキラキラした集団が入ってきた。


 セイジ。


 ロイヤル・フラグメントの七人。


 全員、王子服。


 淡い水色を基調に、銀糸と宝石が細かく光る。夜の店内でも一人一人がやたら明るく見えた。


 セイジに至っては、照明が頬へ落ちただけで映画のワンシーンみたいになっている。


 白い肌。


 少し長い前髪。


 長い睫毛。


 薄い唇。


 まだ二十歳の、少年らしい繊細さを残した顔。


 けれど、その目にはもう以前より深い影がある。


 儚い。


 綺麗。


 危うい。


 そこだけ切り取れば、裏社会の食事会に来た人間とは到底思えなかった。


「……」


 セイジが部屋を見回す。


 アルマーニ。


 その隣には、大柄な男が一人。


 ドミニク。


 護衛は彼だけだった。


 けれど、立っているだけで十分だと分かる。


 反対側にはオズとギル。


 そして。


 ジム。


 バリー。


 ミレーヌ。


 バルド。


 セイジは自分たちを含め、もう一度全員を見る。


「……俺ら、この中おってええんか」


 アルマーニがセイジを見る。


「必要だから呼んだ」


「なんでなんや」


「今、この街で一番目立っている」


「理由それなん」


「市民が見ている」


「それは知っとる」


 アルマーニは静かにグラスへ手を伸ばした。


「君たちが来て、街は変わった」


「……」


「人の顔が明るくなった」


 セイジが少しだけ姿勢を直す。


「それはええことやな」


「空も晴れるようになった」


「天気まで?!!」


 ロイフラも一斉にアルマーニを見る。


「そこまで俺ら関係ある?!」


「さすがに偶然だろ!」


 アルマーニは至って真面目だった。


「君たちが来るまで、空が晴れたことはなかった」


「そんなことある?!」


 ジムが煙草を咥えたまま頷く。


「たしかにそうだ」


「ほんまなんかい!!」


 バリーがワインを眺めながら笑う。


「空も照れちゃったじゃない」


「何がやねん!!」


「うまいこと言ったみたいな顔すんな!!!」


 ロイフラの総ツッコミが飛ぶ。


 アルマーニは少しだけ口元を緩めた。


「とにかく、今のムゴッサでは君たちは希望の星らしい」


「俺らが希望の星だってよ」


 エリオットが隣を見る。


 レオンが少し笑った。


「……悪くねぇな」


「俺たちが希望与えられねぇわけねぇだろ」


「ここまで来たしな」


「やれるだけやろうぜ」


 セイジが七人を見る。


「急に頼もしいやんけ」


 バリーがグラスを上げる。


「青春だねぇ〜」


「何がや」



     *



 料理が運ばれてきた。


 大皿のパスタ。


 魚介。


 肉料理。


 焼きたてのパン。


 そしてワイン。


 ルシアンが真っ先に身を乗り出す。


「うまそう」


「お前、今日一番元気やな」


「飯は別だろ」


 ノエルも皿を見る。


「これ全部オズが作ったのか?」


「今日は僕も厨房に入ったよ」


「早く食おうぜ」


 オズが少し笑う。


「その前に」


 ノエルを見る。


「ノエル王子。この前はごめんね」


「ん?」


「薬を使ったこと」


 ノエルは一瞬だけ考えて、すぐに肩をすくめた。


「別に。大したことなかったし、てめぇの家族が助かったから気にしてねぇよ」


 オズが少しだけ目を細める。


「ありがとう」


「それより飯まだかよ」


「お前ほんま余韻ないな」


「腹減ってんだよ」


「俺も」


「俺も」


「俺パスタ」


「俺肉」


「一気に喋んな」


 オズが笑いながら料理を取り分ける。


 食事が始まった。


 その途中。


 ミレーヌがパスタを見て。


 ワインを見て。


 アルマーニを見て。


 オズを見て。


 ジムとバリーまで見た。


 そして、隣のセイジへ小さく顔を寄せる。


「セイジさん」


「なんや」


「自分がこの世界の中に入れて最高です」


 セイジが横目で見る。


「夢叶ったやんけ」


「はい」


 ミレーヌは満足そうに頷いた。


 セイジも何も言わず、ワインを一口飲んだ。



     *



 しばらくして。


 オズが静かに口を開いた。


「最初に会った時のこと、覚えてる?」


 セイジが煙草を指に挟む。


「忘れるかい」


 ノエルが口いっぱいにパスタを入れたままオズを見る。


「俺刺されたしな」


「本当にごめん」


「もうええ言うとるやろ」


 オズは少しだけ笑った。


「君たちが子供を助けるのは、分かっててやったんだ」


 セイジが眉を上げる。


「なんで分かったんや」


「初めてムゴッサに来た日」


 オズがロイヤル・フラグメントを見る。


「BARで子供たちを助けてたでしょう」


「……」


「子供のために怒って、喧嘩までしてた」


 セイジが煙草の灰を落とす。


「両親殺されて直後の飯やったしな」


「うん」


 オズは頷いた。


「だから、子供を使えば絶対に来ると思った」


「策士やな」


「それしかなかったんだ」


「ほんで」


「子供たちは助ける。その流れで、僕の家族も助けてもらえるかもしれないと思った」


 セイジは特に驚かなかった。


「家族守りたいんはええ事やんけ」


 オズが顔を上げる。


「もう気にせんでええ」


「……ありがとう」


 ノエルが皿を差し出す。


「パスタもうちょい」


「お前ほんま飯優先やな」


「うまいんだから仕方ねぇだろ」


 ルシアンも皿を出す。


「俺も」


「お前もかい」


 オズは笑いながら二人へパスタを追加した。



     *



 食事がひと段落する。


 バルドが静かに手元のベルへ指を伸ばした。


 チリン。


「お話をどうぞ」


 アルマーニがグラスを置く。


「では、本題に入ろう」


 空気が変わった。


 セイジも煙草を灰皿へ置く。


 アルマーニは全員を見た。


「マカロニとフィニーが、私の席を狙っているらしい」


 ロイフラの表情が変わる。


 ジムもバリーも黙った。


 セイジがオズを見る。


「お前が前言うとった、すごい事ってこれか」


「うん」


 オズが頷く。


「マカロニの動きも、フィニーの動きもおかしかった」


「別々に動いてるように見せてるけど、目標は同じだと思う」


「アルマーニを?」


「うん」


 バリーの顔から。


 いつもの軽さが消えた。


「フィニーちゃんにはさせねぇよ」


 セイジが少しだけバリーを見る。


 嫁。


 愛している女。


 それでも。


 止める時は止める。


 ジムもアルマーニを真っ直ぐ見る。


「あんたがいなくなったら、この国はどうなる」


 アルマーニは答えなかった。


 代わりにオズが口を開く。


「そもそも、ファミリーなのにボスに忠誠心がないことがおかしいんだ」


 セイジが即座に食いつく。


「ほんまそれな!!」


 全員がセイジを見る。


「なんでボス殺そうとすんねん! 家族なんやろが!」


 オズが深く頷く。


「僕もそう思う」


「ファミリー名乗っといてトップ殺すん意味分からんやんけ!」


「ムゴッサでは珍しくない」


 ジムが言う。


 セイジ。


「ばりくそややこしいなこの国!!」


 アルマーニがゆっくり口を開いた。


「私が引退したら……」


「言うな」


 バリーが遮った。


 軽さはなかった。


 低い声。


「あんたじゃなきゃ、この国は狂っちまう」


 セイジが止まる。


「……そんなになん?!!」


「あぁ」


 ジムが答えた。


「アルマーニがいるから、まだファミリー同士に線がある」


「警察にも最低限の境界がある」


「政治も裏社会も、完全には崩れてない」


 セイジがゆっくり周囲を見る。


「……これで?」


「あぁ」


「これで収まっとる方なんかい!!」


 ロイヤル・フラグメントが一斉にテーブルへ身を乗り出した。


「どんだけ腐ってんだ!!!!」

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