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元若頭の王子、治安最悪の国でヒーローになる――ダークプリンス  作者: 夜嶋朔


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第19話 ムゴッサの灯火

 夜。


 リュミエール・インダストリーズの一室。


 セイジはソファに深く座り、煙草を咥えていた。


「……バリだるい」


 ロイヤル・フラグメントの七人も、それぞれ好き勝手に崩れている。


「今日もう何も起きんなよ」


「マジでそれ」


「俺もう動けねぇ」


「レオンは?」


「……」


「まだフィニー引きずってんのかよ」


「うるせぇ」


「嫁だぞ」


「知ってるわ!!!」


 その時。


 セイジのウォッチが鳴った。


 ピッ。


『セイジ兄ちゃん!』


「ブルース」


『殺人犯と、その仲間が近くにいるよ!』


 全員の空気が変わる。


 セイジが立ち上がった。


「場所」


『東地区! 古い集合住宅の裏!』


「行くぞ」


「おう!!!!」


 八人がウォッチへ指を置く。


 ピッ。


 水色の王子服が、一瞬で黒へ変わる。


 黒を基調にした戦闘服。身体に沿う鋭い線。肩から落ちる、防刃、防弾の黒いマント。


 バサッ。


 さっきまでソファで死んでいた八人とは思えない。


 セイジが扉へ向かう。


「行くぞ」


「おう!!!!」



     *



 夜のムゴッサ。


 八台のバイクが、古びた街路を切り裂く。


 先頭はセイジ。


 黒いマントが夜風を受け、大きくなびく。その後ろを、七人の王子が追った。


「右だ!!!」


 エミールが叫ぶ。


「次の角!!」


「分かってる!!!」


 八台が一斉に曲がる。


 その瞬間。


 パンッ!!


「撃ってきたぞ!!!」


「人通りあるだろうが!!!」


「舐めてんじゃねぇぞ!!!!」


 レオンがバイクを滑らせながら路地へ飛び込む。


「セイジ!!」


「あぁ」


 セイジも同時に降りた。


 次の銃声。


 パンッ!!


 セイジが壁へ身体を寄せる。


「ノエル、左」


「任せろ!!!」


「アレクシス、上」


「見えてる!!!」


「エミール、逃げ道」


「塞ぐ!!!」


 七人が散る。


「出てこいや!!!!」


「人殺して逃げれる思うなよ!!!!」


「こっちだクソが!!!!」


 完全に夜のロイヤル・フラグメントだった。


 昼間の王子らしさはない。


 熱血。


 口が悪い。


 治安も悪い。


 それでも、目の前の人間を守ることだけは真っ直ぐだった。


 セイジが一人の男の懐へ入る。


「遅い」


 ドゴッ!!


 肘が入る。


 男が崩れる。


 レオンが別の男の腕を捻り上げた。


「銃離せや!!!」


「離すかよ!!!」


「じゃあ折るぞ!!!」


「待て待て待て!!!」


 セシルが横から蹴り飛ばす。


「人殺しの仲間が待て言うな!!!!」


 エリオットが叫ぶ。


「一人逃げるぞ!!!」


 セイジが振り返る。


 黒い影が路地の奥へ消える。


「追え!!!」


「おう!!!!」


 だが、その瞬間。


 ブルースの声が入った。


『セイジ兄ちゃん! 中に人がいる!』


 セイジが止まる。


「どこや」


『奥の部屋!』


「レオン、セシル、残れ!」


「分かった!!!」


 セイジたちは建物へ駆け込む。


 古い扉を蹴り開けた。


 中。


 倒れている男。


 血。


 動かない。


 セイジが近づき、首元へ手を当てる。


「……遅かった」


 誰も喋らなかった。


 エリオットが奥歯を噛む。


「クソ……」


 ノエルが拳を握る。


「間に合わなかった……」


 セイジは立ち上がる。


「主犯は」


「逃げた」


 レオンの声が返る。


「仲間は押さえてる」


「行くぞ」


「おう!!!!」



     *



 外。


 数人の男が地面に倒れていた。


 そこへパトカーが滑り込む。


 急ブレーキ。


 ジムとバリーが降りてきた。


「どうなってる」


 ジムが周囲を見る。


 セイジが答える。


「一人死んどる。主犯逃げた」


 バリーが止まった。


 いつもの軽い顔が消える。


 地面に倒れている男を見る。


 そのまま歩み寄り、胸倉を掴んだ。


「おい」


 低い声だった。


 ロイフラが少しだけ目を見開く。


 普段の、


「おじさんはぁ〜」


 でも。


「今日は平和だねぇ〜」


 でもない。


「人ひとり死んでんだよ」


 男が顔を背ける。


「知らねぇ」


 ドゴッ!!


 バリーの拳が飛ぶ。


「アイツの行き先言え!!!」


「知らねぇって!!!」


「知ってんだろ!!!」


 もう一発。


「目的は何だ!!! 次は誰狙ってる!!!」


 セシルが小さく呟く。


「……バリー」


 ノエルも見る。


「さっきまで酒飲んでたよな」


「マジで同じ奴かよ」


 エリオットがセイジを見る。


「止めなくていいのか」


 セイジは煙草に火をつけた。


「吐かせるんやろ」


「……」


 レオンが横を見る。


「お前、分かってたのか」


 セイジは煙を吐く。


「あぁ」


 それだけだった。


 バリーはさらに男を睨む。


「言え!!!」


「……旧時計塔」


 ジムが動く。


「何だと」


「旧時計塔……そこに次の標的が……」


 男が息を荒くする。


 ジムがセイジを見る。


「行くぞ」


「あぁ」



     *



 旧時計塔。


 全員が駆け込もうとした瞬間。


 ブルースの声がウォッチから飛んだ。


『待って!』


 全員が止まる。


『残されてたメモ、意味分かった!』


「言え」


『時間じゃない。方角だよ!』


 ジムも同時に目を細めた。


「北側だ」


「北?」


「時計塔の文字盤。針じゃない。位置だ」


『そう!』


 セイジが走り出す。


「北側や!!!」


「おう!!!!」


 階段。


 鉄骨。


 古い足場。


 その先。


 パンッ!!


「また撃ってきやがった!!!」


「何回撃ちゃ気済むんだよ!!!」


「逃げんなクソが!!!!」


 男が高い足場へ上がる。


「近づくな!!!」


 ジムが銃を構える。


「終わりだ」


「来るな!!!」


 男がさらに上へ逃げる。


 その瞬間。


 エミールが腕を振った。


「これでも食らえ!!!」


 小さな球体。


 シュッ。


 パァン!!!


 網が一気に広がる。


「なっ……!」


 男の身体へ絡みつく。


 そのまま床へ転がった。


「捕まえた!!!」


「行け!!!」


 ジムとバリーが同時に走る。


 男の腕を掴む。


 ガチャッ。


 手錠。


 ようやく。


 終わった。


 静かになる。


 遠くから、街の音だけが聞こえる。


 ジムが捕まえた男を見下ろした。


 そして、低く言う。


「この街では、これが当たり前になってる」


 バリーが息を吐く。


 いつもの軽い笑いは、もうなかった。


「だから言ったのよ」


 セイジたちを見る。


「夢見ちゃいけねぇってな」


 夜風が黒いマントを揺らす。


 殺人。


 銃声。


 逃走。


 それが、この街の日常。


 ロイヤル・フラグメントの七人が、街を睨んだ。


「ふざけんな!!!!」


 セイジは、すぐには何も言わなかった。


 少し離れた場所では、ジムとバリーが犯人を連行している。


 さっきまで酒を飲んで、軽口ばかり叩いていた男。


 その男が、人が死んだ瞬間。


 誰よりも早く動いた。


 この街を、ずっと見てきた人間だった。


 セイジが口を開く。


「今日のバリー見たやろ」


 七人がセイジを見る。


「あれが、ここに生き続けた人間や」


 誰も口を挟まない。


「ジムもそうや」


「この街の腐っとるとこ全部見て、それでも逃げんとやっとる」


 セイジはムゴッサの夜景を見る。


「俺らは、あの二人と違うやり方でやっていくしかない」


 エリオットが黙って聞いている。


 セイジは振り返った。


「俺は残る」


 七人の顔を見る。


「お前らは帰ってもええ」


 一瞬。


 静かになった。


 次の瞬間。


「残るに決まってんだろ!!!!!」


 レオンが叫ぶ。


「今さら帰れるかよ!!!!!」


「置いてく気かよ!!!!!」


「最後までやるに決まってんだろ!!!!!」


 セイジが少しだけ笑った。


「あぁ」


 黒いマントが夜風に揺れる。


 もう。


 ただ、この街へ来た王子たちではなかった。


 逃げてもよかった。


 帰ってもよかった。


 それでも。


 残ると決めた。


 この街のすぐそばで。


 困っている誰かの隣で。


 何度でも走ると決めた。


 セイジが前を向く。


「行くぞ」


「おう!!!!」

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