第16話 嫁
夕方。
リュミエール・インダストリーズ。
仕事を終えたセイジたちは、ようやく帰れると思っていた。
「今日はもう何も起きんなよ」
セイジが煙草へ火をつける。
「ほんとそれ」
「もう帰りてぇ」
「笑顔作りすぎてまだ顔いてぇんだけど」
「昨日から濃すぎんだよ」
「レオンの恋愛まで増えたし」
「うるせぇ!!!」
レオンがすぐに怒鳴る。
「恋愛じゃねぇ!」
「片思いやろ」
「セイジてめぇ!」
その時。
ウォッチが光った。
ピッ。
『セイジお兄ちゃん!』
ブルースだった。
「ん」
『この前の子供たち、また外に出てる!』
全員の顔が止まった。
「……また」
『倉庫街! 何か箱運んでるよ!』
セイジが眉を寄せる。
「何の箱」
『まだ分かんない。でも、人に見つからないように運んでる!』
七人が一斉に立ち上がった。
「またガキかよ!!!!」
セイジが煙草を灰皿へ押しつける。
「行くぞ」
「おう!!!!」
八人が一斉にウォッチへ触れた。
ピッ。
白い王子衣装が、一瞬で黒へ変わる。
夜の街へ出るための、黒を基調とした王子服。
身体の動きを邪魔しない仕立て。
光を抑えた装飾。
それでも。
八人が並べば、異様なほど華やかだった。
最後に。
防刃、防弾仕様の黒いマントが広がる。
バサッ。
セイジを先頭に。
七人が並ぶ。
さっきまで。
「帰りてぇ」
「顔いてぇ」
「片思いやろ」
と騒いでいた男たちとは思えない。
黒。
金。
鋭い目。
整いすぎた顔立ち。
全員。
完全に戦う顔になっていた。
セイジが低く言う。
「行くぞ」
「おう!!!!」
*
地下駐車場。
八台の大型バイクが、一斉にエンジンを響かせる。
ブウゥゥゥン!!
セイジが先頭。
その後ろに七人。
黒い王子たちが、夕暮れのムゴッサへ飛び出した。
「場所!」
エリオットが叫ぶ。
「倉庫街の東!」
エミールがウォッチの地図を見る。
「三つ先の交差点右! そのまま直進!」
「了解!」
「次の信号変わるぞ!」
「止まれよ!!!」
「分かってる!!!」
アレクシスが風に乱れた前髪を押さえる。
「最悪、髪ぐちゃぐちゃ」
「今そこ?!」
「そこ大事!!!」
「お前ほんま変わらんな」
セイジが笑った。
*
倉庫街。
子供たちは、数人で箱を抱えながら裏路地を走っていた。
「急げ!」
「次の角!」
「見つかる前に運べ!」
その時。
後ろから。
バイクの音。
ブウゥゥゥン!!
子供たちの顔が引きつる。
「……まさか」
角を曲がって。
八台。
「いたぞ!!!」
「げっ!!!」
「逃げろ!!!」
「逃げんなぁぁぁぁ!!!!」
ロイヤル・フラグメントの怒鳴り声が響く。
子供たちは全力で走った。
「何で逃げんだよ!!!」
「追ってくるからだよ!!!」
「追われることしてんじゃねぇ!!!」
セイジがバイクを止め、飛び降りる。
七人も続く。
「止まれ!!!」
「やだ!!!」
「何でだよ!!!」
「怒られるから!!!」
「もう怒ってるわ!!!」
*
数分後。
全員。
捕まった。
子供たちは路地の壁際に並ばされている。
セイジが、一つの箱を開けた。
「……」
中には。
小さな袋。
薬。
どう見ても普通ではない。
セイジの顔が変わる。
「これ何や」
子供たちは黙る。
「誰に頼まれた」
「……」
「何で薬運んどんねん」
一人が小さく言う。
「金になるから」
セイジの眉が跳ねた。
「やからって薬運ぶんかい!!」
子供たちがびくっとする。
「飯あるやろ!」
「……」
「寝るとこ作る言うたやろ!」
「……」
「学校も仕事も用意する言うたやろ!」
「でも!」
一人が叫ぶ。
「これしか仕事知らねぇんだよ!」
「知らんかったら教えたる言うとるやろが!!!」
セイジの声が、路地に響く。
「勝手に戻んな!」
ノエルも前へ出る。
「また危ねぇことしてんじゃねぇ!!!」
レオンも続く。
「誰に渡せって言われた」
エミールは完全にキレていた。
「決めたこと守れって言っただろ!!!」
「……」
「何で毎回勝手に動くんだよ!!!」
セイジが横を見る。
「エミールめっちゃ怒っとるやん」
「規律守れねぇ奴が一番腹立つんだよ!!!」
「出てきたな」
セシルも腕を組む。
「この前助けたばっかだぞ?!」
ルシアンも続く。
「飯も出るんだろ!!!」
子供が言い返す。
「外の方が自由なんだよ!」
「自由と犯罪一緒にすんな!!!」
七人が一斉に怒鳴る。
「うるせぇな!!!」
セイジの目が細くなった。
「誰に口きいとんねん」
子供たちが黙る。
セイジは箱を閉じた。
「自分らで生きたい言うたよな」
「……」
「好き勝手することと、自分で生きることは違うぞ」
少し。
空気が静かになる。
「薬なんか運んどったら、いつか捕まるか殺されるかや」
「……」
「それで自由とか言うな」
誰も。
言い返さなかった。
*
その時。
遠くからパトカーの音が近づいてくる。
一台の車が路地へ入ってきた。
ドアが開く。
ジム。
そして。
もう一人。
少しふらつきながら降りてくる男。
「だから逃げるって言ったじゃ〜ん」
セイジが男を見る。
「誰や」
「バリー」
ジムが短く答える。
「相棒だ」
バリーは子供たちを見て、へらっと笑った。
「また悪いことしてたの〜」
子供の一人が鼻を押さえる。
「酒くさっ!」
「ひどいな〜」
セイジが眉を寄せた。
「勤務中に酔っ払うな」
ジムは平然としている。
「いつものことだ」
「いつもなんかい」
「ちゃんと仕事はしてるよ〜」
「説得力ないわ」
バリーは子供たちの前へ行く。
「おじさんの言うこときかなきゃだめよ〜」
「お前が一番言う資格ないやろ」
「あるある〜」
「ないわ」
ジムが薬の入った箱を見る。
「で、またこいつらか」
ロイヤル・フラグメント七人。
「まただよ!!!!!!」
「分かった分かった」
ジムが頭を掻く。
「署で話聞く」
バリーが、ふとレオンを見る。
「ん〜」
「何だよ」
「君、この前フィニーにくっついてた王子だよね〜」
「くっついてねぇ!!!」
「そうなの〜」
「何だよ!」
「いや〜」
バリーがへらっと笑う。
「フィニー知ってるよ〜」
レオンの顔が変わる。
「知ってんのか」
「知ってる知ってる〜」
「どんな関係だよ」
バリーは、何でもないことのように言った。
「おじさんの嫁だよ〜」
一瞬。
全員。
「えーーーーーーーーー!!!!!!」
レオンの目が見開く。
「はぁぁぁぁぁ?!」
セイジも振り返った。
「不倫はあかんやろが!!!」
「まだ何もしてねぇよ!!!」
セシルがレオンを指差す。
「惚れてんだろ!!!」
「それは……」
「認めんのかよ!!!」
バリーは楽しそうに笑う。
「ちなみに〜」
セイジが嫌そうに見る。
「まだあんの」
「フィニー、50だよ〜」
また。
一瞬。
「えーーーーーーーーー!!!!!!」
レオンが完全に固まる。
「……50」
セイジが頭を抱えた。
「そこより嫁やろが!!!」
夕暮れの倉庫街に。
八人の声が。
また盛大に響いた。




