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元若頭の王子、治安最悪の国でヒーローになる――ダークプリンス  作者: 夜嶋朔


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第15話 欲しいもの

 昼前。


 ムゴッサの一角にある高級レストラン。


 営業前の店内は、客の姿もなく静まり返っていた。


 一番奥の席。


 深い赤のドレスを着たフィニーが、グラスを片手に座っている。


 その向かいにはオズ。


 二人とも、穏やかに笑っていた。


「久しぶりね、オズ」


「会いたくなかったよ」


「相変わらず失礼ね」


「君もね」


 口元は笑っている。


 けれど。


 目だけは、まったく笑っていなかった。


「それで、今日は何の用」


「昨日、セイジ王子たちに近づいたよね」


「それが」


「手を出さないでくれるかな」


 フィニーの口元がわずかに上がる。


「お願い」


「忠告」


「あなたが」


「僕が」


「随分気に入ってるのね」


「家族を助けてもらったからね」


「恩返し」


「マフィアだからこそ、恩は返すよ」


 フィニーは小さく笑った。


「それだけ」


「それと、この店」


 フィニーの指が止まる。


「僕が貰うことになった」


「……」


「今日から僕がオーナー」


「随分出世したのね」


「ありがとう」


「褒めてないわ」


「知ってる」


 オズは穏やかに笑う。


「今回は僕の勝ちだよ」


「一回勝ったくらいで調子に乗らないことね」


「怖いな」


「怖い」


「うん」


「嘘つき」


「君ほどじゃないよ」


 また。


 二人は笑った。


 ただ。


 空気だけは、冷たいままだった。


     *


 少し離れた場所。


 セイジたちは、そのやり取りを黙って見ていた。


 セイジ。


 ロイヤル・フラグメント。


 ミレーヌ。


 バルド。


 誰も口を挟まない。


 オズが自分たちのためにここへ来たことも。


 フィニーとオズが、笑顔のまま牽制し合っていることも。


 ただ。


 見ていた。


 フィニーが、ゆっくりこちらへ視線を向ける。


「あら」


 その目が。


 レオン。


 セイジ。


 そして七人へ流れる。


「いつまで隠れているつもり?」


 セイジが煙草を指に挟んだまま、軽く手を上げた。


「あぁ」


 フィニーは少し笑った。


「やっぱり、欲しくなるわね」


「何が」


「あなたたち全員」


 その瞬間。


 レオンの顔が固まった。


「……」


 数秒。


「俺だけじゃねぇのかよ?!!」


 全員がレオンを見る。


「結局セイジがいいのか! あ?!!!」


「何で俺にくんねん」


 フィニーが楽しそうに笑う。


「嫉妬してるの」


「してねぇ!!!」


 そう言いながら。


 レオンは完全に、セイジとフィニーの間へ入った。


「セイジに近づくな」


「お前さっきまで俺らに来んな言うてたやろ」


「それとこれとは別だ!!!」


 セシルが思わず声を上げる。


「レオン帰ってこい!! お前が好きなのはセイジだろ!!」


「セイジは好きだよ!!!」


「そこは即答なんだ!!!」


「それとこれとは別だろ!!!」


 セイジは煙草を持ったまま、一歩だけ後ろへ下がった。


「もう好きにせぇ」


     *


 その時。


 オズが静かに立ち上がった。


「じゃあ、僕は帰るよ」


 セイジがそちらを見る。


「大丈夫か」


「うん」


 オズは軽く笑う。


「今度、この店に食べにおいでよ」


「飯うまいんやろな」


「もちろん」


 ルシアンがすぐに反応する。


「料理できんの?!」


「できるよ」


「マジで?!」


「今度作るよ」


「やった!!!」


「馴染むん早いねん」


 オズが少し笑った。


 そのまま店を出ようとして。


 ふと。


 セイジを見る。


「セイジ王子」


「ん」


「気を付けてね」


「……あぁ」


 それだけ言って。


 オズは店を出ていった。


 セイジは、その背中を少し見送る。


「……オズ、ええやつやんけ」


 隣で。


 ミレーヌが少し目を輝かせた。


「やっぱり、ただの悪人じゃなかったですね!」


「あぁ」


「しかも最高です、この状況!」


 セイジがミレーヌを見る。


「わかってるやんけ」


 チリン。


 バルドが静かに口を挟む。


「お仲間の命がかかっております」


 ロイヤル・フラグメント六人。


「それな!!!!!!」


「うるせぇ!!!」


 レオンの怒鳴り声が、静かなレストランに響いた。


     *


 しばらくして。


 フィニーは満足そうな笑みだけ残し、店を出ていった。


 扉が閉まる。


 急に静かになった店内。


 セイジは煙草を指に挟んだまま、レオンを見る。


「……レオンの片思いやったな」


「は?」


 ミレーヌがすぐに続ける。


「いつ殺されるか分からないですよ」


 バルドも静かに頷いた。


「それが重要かと思います」


 レオンの顔が固まる。


「俺の片思いなのか!!!!」


「そこなん」


 セイジが呆れた顔で見る。


「お前ら、まじで危機管理ないな」


 セシルがレオンを指差す。


「シリアルキラーだぞ?!」


「でもよ!」


「でもやない」


 セイジは煙を吐いた。


「オズ、俺らの心配してフィニーに忠告までしてくれてたやん」


「そうなんですよ!」


 ミレーヌが少し身を乗り出す。


「しかも帰り際の『気を付けてね』って、あの圧のある感じ。好きですね!」


「そこ見とったん」


「見ますよ!」


「やっぱわかっとるな」


「任侠とかマフィア映画、好きなので!」


「知っとる。俺もや」


 レオンが頭を抱える。


「だから俺の片思いなのかよ!!!!」


 セイジがレオンを見る。


「まだそこなん」


 セシルが叫ぶ。


「命の心配しろ!!!!」


「してるよ!!!」


「してねぇだろ!!!」


 チリン。


 バルドが静かにベルを鳴らした。


「ひとまず、皆様無事にお帰りくださいませ」


 六人。


「それな!!!!!!」


「お前らまで言うな!!!」


 レオンの怒鳴り声が。


 もう一度。


 レストランに響いた。

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