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元若頭の王子、治安最悪の国でヒーローになる――ダークプリンス  作者: 夜嶋朔


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12/23

第12話 礼儀

 ムゴッサ警察署。


 子供たちとの話が、ようやく一区切りついた。


 孤児院は嫌。


 学校も嫌。


 働くのも嫌。


 会社に住ませろ。


 挙げ句。


 助けられた礼すら言わない。


 ロイヤル・フラグメントの七人は、まだ全員顔が険しかった。


「……マジで納得いかねぇ」


 ノエルが腕を組む。


「礼くらい言えるだろ」


「まだ言うんか」


「言うだろ!!!」


「助けたんだぞ!!!」


「命助けたんだぞ!!!」


「それで『頼んでねぇ』はねぇだろ!!!」


 七人がまた騒ぎ出す。


 セイジは眉間を押さえた。


「もうええって」


「よくねぇ!!!」


「礼儀の話だ!!!」


「急に教育者みたいになるな」


 少し離れたところで。


 ジムが煙草を咥えたまま、その様子を見ていた。


「ガキはこっちで見とく」


 セイジが顔を上げる。


「ええんか」


「あぁ」


 ジムは子供たちを見る。


「少なくとも、また攫われねぇようには見とく」


「助かるわ」


「施設作るんだろ」


「あぁ」


「できるまで死なせんなよ」


「アンタがな」


「言うじゃねぇか」


 ジムが鼻で笑う。


 セイジも少しだけ笑った。


「そしたら戻るわ」


「あぁ」


 セイジが踵を返す。


 その後ろから。


「礼くらい言えよな!!!」


 また声が飛んだ。


「まだ言うとる」


     *


 警察署の外。


 八台の大型バイクへ。


 セイジとロイヤル・フラグメントが跨がる。


 少し離れたところには。


 ミレーヌとバルドが乗る車。


 エンジンが一斉にかかった。


 ブウゥゥゥン!!


 昼のムゴッサを。


 白い王子衣装の八人が走り出す。


 少し走ったところで。


 ルシアンが叫んだ。


「何なんだこの街のガキはよぉ!!!」


「ほんままだ言うん」


「なんでそんなに外にいてぇんだよ!!!」


 セシルも続く。


「飯ある!!!」


「寝る場所ある!!!」


「風呂もある!!!」


 レオンが叫ぶ。


「何が不満なんだよ!!!」


 エミールも。


「学校嫌!!!」


「仕事嫌!!!」


「大人嫌!!!」


「全部嫌じゃねぇか!!!」


 ノエルがハンドルを握りながら声を張る。


「ってかまだ礼言われてねぇぞ!!!」


 一瞬。


 そして。


 七人。


「それな!!!!!!」


「うるさっ」


 セイジの声がウォッチ越しに響く。


「そこ一番引っ掛かっとんかい」


「当たり前だろ!!!」


「礼儀だぞ!!!」


「俺ら王子だぞ!!!」


「最後いらんやろ」


「王子じゃなくても礼は言うだろ!!!」


「それはそうやけどな」


「だろ!!!」


「めっちゃ根に持つやんけ」


     *


 そのまま。


 一行はリュミエール・インダストリーズへ戻った。


 地下駐車場へバイクを並べ。


 エレベーターへ向かう。


 その途中。


 セイジのウォッチが光った。


「ん」


 表示された名前を見る。


 オズ。


 セイジが通信を開く。


『セイジ王子』


「あぁ」


『家族に会えたよ』


「そうか」


『全員無事だった』


「よかったな」


 少し。


 間が空く。


『家族を助けてくれて、ありがとう』


「別に」


『もう友達だね』


「早ない」


『早くないよ』


「会ったん昨日やぞ」


『この恩がある限り、僕たちは友達だよ』


「友情の基準そこなん」


 オズが電話の向こうで笑う。


『また連絡するよ』


「あぁ」


『今度はもっと面白い話を持ってくる』


「不穏なこと言うな」


『楽しみにしてて』


 通信が切れた。


 セイジがウォッチを見る。


「……何やねん、友達て」


 エリオットが横から覗き込む。


「友達できたじゃん!」


「マフィアのな」


「いいじゃねぇか!」


「何がええねん」


「情報くれるんだろ!」


「やり方全部マフィアやけどな」


「セイジも元若頭だろ!」


「一緒にすんな」


「一緒だろ!!!」


「やかましい」


     *


 七十七階。


 執務フロア。


 ソファへ入った瞬間。


 八人は。


 ほぼ同時に崩れた。


「疲れたー……」


「今日ありすぎだろ……」


「ガキ攫われて」


「ノエル攫われて」


「マフィア出てきて」


「家族助けて」


「ガキと喧嘩して」


「最後だけ俺ら悪くねぇだろ」


「いや喧嘩はしとったやろ」


 セイジも大きなソファへ深く座る。


 煙草へ火をつけ。


 天井を見る。


「まだ昼やぞ」


「嘘だろ」


「一日長すぎんだろ」


「ムゴッサ時間おかしくねぇか」


「国のせいにすな」


 ミレーヌは向かいの席へ座り。


 黒革の手帖を開いた。


 バルドは静かに茶と水を並べる。


 チリン。


「ひとまず、お疲れさまでございました」


「ほんまにな」


 ミレーヌが手帖へ視線を落としたまま言う。


「ですが、あの子供たち」


「あぁ」


「何度も抜け出すと思います」


 ロイヤル・フラグメントが一斉に顔を上げた。


「はぁ?!」


「まだ抜けんのかよ!!!」


「施設作るって言っただろ!!!」


「まだ出来てへんやろ」


「出来ても、です」


 ミレーヌが冷静に続ける。


「なかなか更生できないと思うんですよね」


 バルドも静かに頷く。


「私もそう思います」


「バルドまで」


「長く路上で生活しておりますので」


 セイジが煙を吐く。


「まぁ、難しいやろな」


「はい」


「俺らもずっと見てられへんしな」


「そうなんですよ」


 ミレーヌが手帖を閉じる。


「ですので」


「あぁ」


「うちの社員を行かせるしかありません」


 セイジが眉を寄せる。


「あんなん見れるんか」


「見られます」


「即答やな」


「うちの社員ですよ」


「せやけど」


 ミレーヌが少しだけ胸を張る。


「ムゴッサへ来ている社員は、国王陛下が育てられた部隊です」


「部隊」


「はい」


「会社員やぞ」


「会社員です」


「部隊言うたやん」


「護身、緊急対応、避難誘導、現場判断」


 ミレーヌが指を折る。


「一通り叩き込まれております」


「……」


「そもそもムゴッサですので、自分の身を守れない者は連れてきていません」


「なるほどな」


 セイジが煙草を灰皿へ置く。


「オヤジが育てたんやったら安心やな」


「私もそう思います」


 バルドも頷く。


「現場対応能力は十分かと」


「じゃあ何人か常駐させよ」


「すでに候補を出しております」


「早っ」


「必要になると思いましたので」


「ほんま話早いな」


「相棒ですので」


 セイジが少し笑う。


 その横で。


「でもよぉ!!!」


 また声が上がった。


 セイジが嫌そうに顔を向ける。


 ノエルだった。


「この国はよぉ!!!」


「何やねん」


「ガキまで腐ってるってどういうことだよ!!!」


「まだそこ?」


「スリする!!!」


「売人する!!!」


「大人に噛みつく!!!」


「助けても礼言わねぇ!!!」


 エリオットも身を起こす。


「ほんとだよ!!!」


 セシルも。


「普通ありがとうだろ!!!」


 レオンも。


「助けてもらったんだぞ!!!」


 ルシアンも。


「飯も食わせてもらうんだろ!!!」


 エミールも。


「寝る場所まで作ってもらうんだぞ!!!」


 アレクシスも。


「お礼くらい言ってもいいよね!!!」


 七人。


 一斉に。


「お礼言えよな!!!!!!」


 セイジが煙草を持ったまま固まる。


「……めっちゃ根に持つやんけ」


「礼儀だろ!!!」


「分かった分かった」


「分かってねぇ!!!」


「分かっとるわ」


「次会ったら絶対言わせる!!!」


「強制すな」


「ありがとうくらい言えるだろ!!!」


「もう親みたいになっとるやん」


 ミレーヌが。


 少しだけ笑った。


 バルドは静かに茶を差し出す。


 チリン。


「まずは皆さま、お茶をどうぞ」


「いただく!!!」


「返事だけ素直やな」


 王子たちは。


 まだ腹を立てていた。


 それでも。


 もう子供たちを見捨てるという話は。


 誰一人。


 口にしなかった。

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