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元若頭の王子、治安最悪の国でヒーローになる――ダークプリンス  作者: 夜嶋朔


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11/22

第11話 問題です

 その後。


 ムゴッサの街を。


 八台の大型バイクが走っていた。


 白を基調にした王子衣装。


 風を受けてなびく髪。


 昼の光を拾う金具。


 ついさっきまで。


 マフィアの家族を監視していた男たちを殴り倒していたとは思えないほど。


 八人の顔は。


 晴れていた。


「いい家族だったなー!」


「弟、オズのことめっちゃ好きだったな!」


「姉ちゃんもだろ!」


「シェフなんだってな!」


「今度飯食わせてもらおうぜ!」


 セイジが先頭を走りながら笑う。


「助けた見返りに飯要求すな」


「でも気になるだろー!」


 ルシアンが横から叫ぶ。


「シェフだぞ!」


「お前だけ食いつき方違うねん」


「俺も気になる!」


「増えるな」


 八台のバイクが。


 ムゴッサ警察署の前へ滑り込む。


 キィィィ。


 エンジンが止まった。


 八人が次々と降りる。


 今は。


 完全に昼の顔。


 きらきらした王子たちだった。


「戻ったぞー!」


 ノエルが警察署へ入る。


「バルドー! 問題ってなんだー!」


 その直後。


「絶対嫌だ!!」


 怒鳴り声。


 八人の足が止まった。


「……は?」


 奥。


 昨日救出された子供たちが。


 数人の警官とバルドに囲まれていた。


 全員。


 顔が険しい。


「孤児院なんか行かない!」


「俺らは自分たちで生きていける!」


「勝手に決めんな!」


「……」


 セイジが眉を寄せる。


「なんやこれ」


 ジムが。


 少し離れた机へ腰を預けていた。


 煙草を咥え。


 完全に諦めた顔で。


「言っただろ」


 八人が見る。


 ジムは子供たちへ視線を向ける。


「こいつらは、こんな生き方しか知らねぇ」


「……」


 セイジが子供たちを見る。


 昨日。


 バスの中で怯えていた子供たち。


 助け出した時は。


 もっと小さく見えた。


 けれど今は。


 目の前の大人へ。


 普通に噛みついている。


「孤児院行くくらいなら死んだ方がマシ!」


「死ぬ方選ぶんかい」


「私たちは自分たちで生きていけるから!」


 セイジの目が細くなる。


「盗みや売人して、どこが自由やねん」


「金持ちから取って何が悪いんだよ!」


「悪いやろがい」


「あんたらは王子だから分かんないだろ!」


 その瞬間。


 七人の王子たちの顔から。


 さっきまでのきらきらが消えた。


「はぁ?!!!」


 エリオットが一歩前へ出る。


「てめぇら今日助けてもらったんだぞ!!!」


「だから何だよ!」


「だから何だじゃねぇだろ!!!」


 レオンも声を荒げる。


「スリして!!」


「売人やって!!」


「犯罪に加担して!!」


「挙げ句、助けてもらって孤児院嫌だぁ?!」


「助けてもらってそりゃねぇだろ!!!」


「頼んでない!」


 ノエルの顔が引きつる。


「……は?」


「助けてなんて頼んでない!」


 一瞬。


 静かになる。


 そして。


「礼も言えねぇのかよ!!!」


 ノエルの声が警察署へ響いた。


 警官たちが振り返る。


「ガキだからって何言ってもいいと思ってんじゃねぇぞ!!!」


「うるさい!」


「てめぇのがうるせぇ!!!」


「ノエル」


「でもよ!!!」


「分かっとる」


 セイジが片手を上げる。


「一回聞く」


 七人が黙る。


 まだ顔は怖い。


 ミレーヌが黒革の手帖を開いた。


「本当に海外ドラマですね」


 セイジが横を見る。


「楽しむな」


「どうしますか」


「まず聞く」


 セイジは子供たちを見る。


「なんでそんな孤児院嫌やねん」


「嫌だから」


「答えなってへん」


「大人ばっかりいる」


「そらおるやろ」


「ルールもある」


「当たり前や」


「好きに外出できない」


「お前ら好きに出たら盗むやろ」


「……」


「図星かい」


 一人の少女が。


 少しだけ俯いた。


「みんなで一緒にいれなくなるから」


 セイジの表情が変わる。


「……そこなん」


「孤児院に行ったら、年齢で分けられる」


 別の少年が続ける。


「兄弟じゃない奴は別々にされる」


「ここにいるみんなでずっと生きてきたんだ」


「……」


「離れたくない」


 ロイヤル・フラグメントも。


 少しだけ黙った。


 セイジが考える。


「全員同じ孤児院やったらええんか」


「それでも無理」


「なんでやねん」


「やだね」


「まだあるんかい」


「大人に決められるの嫌だ」


「働けって言われるのも嫌」


「学校も嫌」


「……」


 セイジが眉間を押さえる。


 ロイヤル・フラグメントも。


 一斉に天井を見る。


 バルドが静かに口を開いた。


「問題とは、これでございます」


 八人が同時に振り返る。


「わかるわ!!!!!」


 バルドは静かに頭を下げた。


「ご理解いただけて何よりでございます」


「そこ丁寧に言うとこちゃうやろ!」


 その時。


 一人の少年が。


 何でもないように言った。


「じゃあ会社に住ませて」


「……」


 八人が止まる。


「リュミエール・インダストリーズ広いんだろ」


「寝る場所いっぱいあるじゃん」


「飯も出るんだろ」


「そこでいい」


 一秒。


 二秒。


「てめぇらナメてんのか!!!!」


 七人が爆発した。


「会社ホテルじゃねぇぞ!!!」


「仕事するとこだろうが!!!」


「何で当然みてぇに住もうとしてんだ!!!」


「飯までタダで食う気か!!!」


「ちょっとくらいいいじゃん!」


「よくねぇよ!!!」


「お前らほんま自由やな」


 セイジが呆れたように煙草へ火をつける。


 ジムは。


 少し離れた場所から。


 そのやり取りを黙って見ていた。


 何度も見てきた。


 助けても。


 施設へ連れていっても。


 逃げる。


 盗む。


 戻る。


 また盗む。


 大人を信用しない。


 決まりを嫌う。


 自由という名前で。


 同じ場所へ戻っていく。


 だから。


 ジムはもう。


 驚かなかった。


 セイジが煙を吐く。


「……分かった」


 子供たちが見る。


「お前らの希望に、できるだけ近い孤児院作るわ」


「……」


 今度は。


 ジムの目が動いた。


「作る?」


 セイジが振り返る。


「あぁ」


「孤児院を?」


「せや」


 ジムの眉が少し上がる。


 セイジは子供たちを見る。


「全員一緒」


 子供たちが黙る。


「年齢でバラさん」


「……」


「飯ある」


「……」


「寝るとこある」


「……」


「風呂もある」


「……」


「学校も行け」


「それは嫌」


「そこは行け」


「なんでだよ!」


「字読めへんかったら騙されるやろが」


「……」


「仕事も覚えろ」


「嫌」


「それもやれ」


「自由じゃない!」


「自由と好き放題は違う」


 セイジの声が少し低くなる。


「盗みせんでも生きれる場所作る言うとんねん」


「……」


「それでも盗むんやったら」


 一度。


 煙を吐く。


「辞めれるまで付き合う」


 子供たちが。


 少しだけ顔を上げた。


 ロイヤル・フラグメントも。


 セイジを見る。


 ジムは。


 何も言わない。


 ミレーヌが黒革の手帖を閉じた。


「私も、それしかないと思います」


 セイジが横を見る。


「せやろ」


「はい」


「作るしかないな」


「はい」


 ジムが煙草を咥え直す。


「……簡単じゃねぇぞ」


「あぁ」


「施設作ったって、こいつらは盗む」


「やろな」


「逃げるぞ」


「連れ戻す」


「また盗む」


「また怒る」


「何回でもか」


 セイジがジムを見る。


「あぁ」


 ロイヤル・フラグメントが。


 一斉に子供たちを見る。


「また盗ったらぶっ飛ばすからな!!!」


「ぶっ飛ばすな」


「じゃあ怒鳴る!!!」


「それは好きにせぇ」


「毎日でも怒鳴ってやる!!!」


「うるさそう」


「てめぇらが盗らなきゃ静かだろ!!!」


 子供たちの一人が。


 初めて少し笑った。


「……変な王子」


「誰がや」


「全員」


「お前らに言われたくねぇ!!!」


 警察署に。


 少しだけ。


 笑い声が混じった。


 ジムはその光景を見ながら。


 何も言わなかった。


 ただ。


 さっきより少しだけ。


 セイジを見る目が変わっていた。

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