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元若頭の王子、治安最悪の国でヒーローになる――ダークプリンス  作者: 夜嶋朔


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10/22

第10話 表の顔

 昼。


 ムゴッサの街を。


 八台の大型バイクが走っていた。


 白。


 金。


 光を拾う王子衣装。


 どう見ても。


 これからマフィアの家族を救出しに行く集団ではない。


 なのに。


 全員、顔が怖い。


「住所ここで合ってんだろうな」


「オズが置いてったやつだ」


「家族に何かあったらマジで許さねぇぞ」


「監視役いるかもしれねぇ」


「いたらぶっ飛ばす」


「最初から喧嘩前提で話すな」


 セイジが前を走りながら言う。


「でもいるだろ」


「おるやろな」


「じゃあぶっ飛ばす」


「話聞けや」


 その時。


 セイジのウォッチが光った。


『セイジさん』


「バルド」


『子供たちは無事です』


「あぁ」


『ですが、問題がありまして』


「後で聞くわ!」


 一秒。


『かしこまりました』


 通信が切れる。


 ノエルが横から叫ぶ。


「問題ってなんだよ!」


「知らん!」


「聞けよ!」


「今それどころちゃう!」


「それもそうだな!」


「納得早いな!」


 八台のバイクが。


 さらに速度を上げた。


     *


 住所の場所は。


 街の外れにある古い住宅だった。


 壁は薄汚れ。


 窓にはひびが入り。


 玄関前には。


 三人。


 全員。


 マシンガンを持っていた。


「……いたな」


「いたな」


「いたな」


「おるやんけ」


 三人が八人へ銃口を向ける。


「止まれ!!」


「近づくな!!」


「ここから先は――」


「うるせぇ!!!」


 レオンが一気に前へ出た。


「家族に銃向けてんじゃねぇ!!!」


「てめぇら何者だ!!」


「王子だ!!!」


「王子が来る場所じゃねぇ!!」


「知らねぇよ!!!」


 セシルが横から突っ込む。


「どけコラァ!!!」


 一人の男へ体当たり。


 ドンッ!!


「ぐっ!」


 マシンガンが地面へ落ちる。


 ノエルがそれを蹴り飛ばす。


「武器持ってんじゃねぇぞ!!!」


「撃て!!」


「撃たせるか!!!」


 エリオットが腕を掴む。


 そのままひねる。


「うわっ!」


 ルシアンが腹へ拳を叩き込む。


「家族見張って何してやがる!!!」


「仕事だ!!」


「クソみてぇな仕事してんじゃねぇ!!!」


 エミールが三人目の足を払う。


「寝てろ!!!」


 ドンッ!!


 三人。


 数秒。


 全員。


 地面へ転がった。


 セイジが煙草を咥えながら見る。


「早ない?」


「腹立ってたからな」


「見たら分かるわ」


 アレクシスが玄関へ走る。


「中だ!!!」


「行くぞ!!!」


     *


 扉を開けた瞬間。


 部屋の奥で。


 四人が身を寄せ合っていた。


 母親。


 父親。


 十五歳くらいの少年。


 十八歳くらいの少女。


 全員。


 顔色が悪い。


 母親が震えながら立ち上がる。


「……セイジ王子」


「あぁ」


「オズが……頼んでくれたんですか」


「そうや」


 母親の目から。


 涙が落ちた。


「よかった……」


 父親も深く頭を下げる。


「ありがとうございます」


「頭下げんでええ」


 セイジが周囲を見る。


「怪我は」


「ありません」


「飯は食えとる」


「はい」


「外出は」


 父親が首を振る。


「ここ数日は、一歩も」


 ノエルが外の三人を見る。


「監視されてたのか」


「はい」


 十五歳の少年が。


 セイジを見る。


「お兄ちゃんは悪者じゃないよ!」


 セイジが少年を見る。


「オズのことか」


「うん!」


「お兄ちゃん、すごいシェフなんだぜ!」


「シェフ」


「めちゃくちゃ料理うまいんだ!」


「ほう」


 十八歳の少女も口を開く。


「お兄ちゃんは……」


 少しだけ。


 声が震える。


「私たちみんなを、一人で養ってくれてます」


「……」


「ずっと」


 母親が頷く。


「オズがいなければ、私たちは生きていけませんでした」


 セイジは黙る。


 ロイヤル・フラグメントも。


 さっきまでの勢いが。


 少しだけ消える。


 父親が続ける。


「オズは……」


 一度。


 言葉を選ぶ。


「セイジ王子が、ムゴッサの光になると言っていました」


「……」


 セイジの目が細くなる。


「光」


「はい」


「大層なこと言いやがるな」


 ノエルがセイジを見る。


「でも、間違ってねぇだろ」


「お前まで言うな」


「俺もそう思う」


「俺も」


「俺もだ」


「増えるな」


 母親が少し笑った。


 その顔を見て。


 セイジは煙草を消す。


「とりあえず車呼ぶわ」


 ウォッチへ手を伸ばす。


「ミレーヌ」


『はい』


「迎えよこしてくれ」


『もう向かってますよ』


「早っ!」


 ロイヤル・フラグメントが一斉に笑う。


「さすがだな!」


「相棒じゃん!」


「話早ぇ!」


「お前らまで言うな」


『ご家族四名ですよね』


「あぁ」


『会社へお連れします。部屋も準備しています』


「そこまで済んどん」


『オズさんの住所を確認した時点で、必要になると思いましたので』


「……ほんま仕事早いな」


『相棒ですので』


「便利な言葉にすな」


 ミレーヌの声が少しだけ笑っていた。


     *


 数分後。


 黒い車が到着した。


 リュミエール・インダストリーズのスタッフが降りてくる。


「お迎えに参りました」


 母親が驚く。


「本当に……」


「会社へ行ってください」


 セイジが言う。


「飯も寝るとこも用意する」


「ですが」


「オズと話ついとる」


「……はい」


 十五歳の少年が目を輝かせる。


「セイジ王子!」


「何や」


「お兄ちゃんに会える?」


「安全確認できたらな」


「絶対?」


「あぁ」


「よかった!」


 十八歳の少女も頭を下げる。


「ありがとうございます」


「ええから乗り」


 家族四人が。


 車へ乗り込む。


 扉が閉まる。


 車が走り出す。


 セイジは。


 その後ろ姿を少しだけ見送った。


「……オズ」


「どうした」


 エリオットが聞く。


「思ったより普通に兄ちゃんやな」


「マフィアだけどな」


「そこやねん」


「料理もうまいらしいぞ」


「ルシアン食いつくな」


「シェフは気になるだろ」


「今そこちゃう」


     *


 再び。


 八台のバイク。


 白い王子衣装。


 昼の街。


 警察署へ向かう。


「戻るぞ!!!」


「おう!!!」


「バルドの問題聞くぞ!!!」


「今度こそな!!!」


「ノエル、腕どうや」


「もうほとんど動く!!!」


「ほんまやろな」


「大丈夫だって!!!」


「無茶すんなよ!!!」


「お前らが言うな!!!」


 セイジが先頭を走る。


 少しだけ。


 口元が緩んでいた。


     *


 ムゴッサ警察署。


 八人が到着する。


 バイクを止め。


 中へ入る。


 相変わらず。


 警官も。


 刑事も。


 監視官も。


 走り回っている。


 奥から。


 バルドがこちらへ歩いてきた。


 チリン。


「お戻りでございます」


「ただいま」


「ご家族は」


「会社向かった」


「承知しました」


「ほんで」


 セイジが眉を寄せる。


「さっきの問題なんや」


 バルドが少しだけ間を置く。


「その件ですが――」


 横から。


 ミレーヌが歩いてきた。


「セイジさん」


「何や」


「私」


 黒革の手帖を抱えたまま。


 少しだけ。


 嬉しそうだった。


「この世界、やっと面白くなってきましたね」


「……」


 セイジがミレーヌを見る。


 一秒。


 二秒。


「……わかるけど言うな」


 ロイヤル・フラグメントが一斉に振り返る。


「お前も思ってんのかよ!!!」


「うるさい」


 バルドが静かに鈴を鳴らした。


 チリン。


「では、問題についてご説明いたします」


 警察署の騒がしい一日は。


 まだ。


 終わっていなかった。

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