↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『魔力ゼロの武術家 ~異世界を修練空間(トレーニングモード)で攻略する~』  作者: いなる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/82

第66話 射線

 翌朝。


 宿の食堂へ降りてきたジンは、席につくなり昨日使った地図を広げた。


「朝飯食え」


 向かいに座ったアインが言う。


「食べながら見る」


「こぼすぞ」


「子供じゃないんだから」


「昨日の夜もずっと見てただろ、それ」


「うん」


「で、何か分かったのか?」


 ジンは地図から目を離さないまま答えた。


「分からない」


「じゃあ寝ろよ」


「ちゃんと考えた結果、分からないことが分かった」


「一晩使ってそれかよ」


 アインが呆れる横で、フィナもパンをちぎりながら地図を覗き込んだ。


 昨日、三人で書き込んだ印がいくつも残っている。


 小型遺跡。


 魔物が森の外へ向かった痕跡。


 そして、フィナが周囲の魔力を確認した地点。


「でも、今日どこを調べるかは決めた」


 ジンが言う。


「どこです?」


「いっぱい」


「嫌な答えですね」


 フィナの手が止まった。


「それで、私にお願いがあるんですよね?」


「よく分かったね」


「昨日から同じことしてますから」


「じゃあ話が早い」


「まだ引き受けてませんよ」


「昨日みたいに、何ヶ所かで魔力を調べてほしい」


「何ヶ所です?」


「できるだけ多く」


「やっぱり」


 フィナが小さく息を吐く。


「私、今日はほとんどそれをすることになりません?」


「重要な役目だよ」


「言い方を変えても駄目です」


 その隣でアインがパンを食べながら口を挟んだ。


「もう測定器扱いだな」


「してない」


「じゃあ次は何頼むつもりなんだ?」


「森の中を横に移動しながら、一定間隔で――」


「測定器じゃねえか」


「仲間にしか頼めない仕事だよ」


「急に聞こえが良くなりましたね」


 フィナは苦笑しながらも、地図へ視線を戻した。


「でも、昨日だけだと確かに分かりませんね。森の奥へ行くほど薄くなっていたようにも見えましたけど、たまたま場所によって違っただけかもしれません」


「そう。だから今日は奥へ進むだけじゃなくて、横にも動いてみたい」


 ジンは昨日印を付けた場所を指でなぞった。


 点だけでは範囲が分からない。


 どこから薄くなり始めるのか。


 どの方向へ続いているのか。


 そこに何らかの規則があるのか。


 少なくとも、それくらいまでは確かめたかった。


「遺跡はどうする?」


 アインが尋ねる。


「今日は後回し」


「珍しいな」


「昨日見たから」


「一回で満足したのか?」


「全然」


「だろうな」


「でも今はこっちの方が気になる」


 ジンが森に付けた印を指す。


「遺跡のすぐ近くは普通だったのに、離れた森の方が魔力が薄かった。そこがどう繋がってるのか見たい」


「私も気になります」


 フィナが頷いた。


「じゃあ今日はそれで」


「勝手にまとめんな」


 アインが言う。


「アインは行かない?」


「行くに決まってんだろ」


「じゃあ決まり」


「……今の聞き方ずるくねえか?」


 ジンは何も答えず、ようやく地図を畳んだ。


「朝飯食べよ」


「最初から食え」


    ◇


 三人は昨日と同じ森へ入った。


 ただし、進む道は少し変えた。


 昨日は奥へ向かってほぼ一直線に進んだが、今日は途中から東西へ振りながら位置を変え、ある程度の距離を進むたびにフィナが周囲の魔力を確認していく。


「ここは?」


 ジンが尋ねる。


 フィナは少し目を閉じてから答えた。


「普通だと思います」


 地図へ一つ印が増える。


 そこから少し北東へ進む。


「ここ」


「……少し薄い、かもしれません」


「昨日くらい?」


「そこまでではないですね」


 また印。


 今度は東へ。


「ここは?」


「さっきよりあります」


「戻った?」


「多分」


 ジンが別の記号を書き込む。


「じゃあ次は北」


「ジンさん」


「何?」


「だんだん本当に測定器になった気がしてきました」


「そんなことないよ」


「じゃあ、次は何をするんです?」


「もう少し北で同じことを」


「測定器じゃねえか」


 アインが後ろから言った。


「でもフィナにしかできないから」


「そういう問題じゃありません」


 文句を言いながらも、フィナは付き合ってくれた。


 三人は少しずつ場所を変え、そのたびに魔力の状態を確かめていった。


 すると。


 昨日とは違うものが見え始める。


「……変だな」


 何ヶ所目かの印を書き込んだところで、ジンが地図を見ながら呟いた。


「何が?」


 アインが横から覗き込む。


「奥へ行けば行くほど薄くなるわけじゃない」


 昨日はそう見えた。


 だが今日調べた範囲では、森の奥側でも比較的普通の場所がある一方、その少し手前なのに明らかに薄い場所もある。


 魔力が薄い地点。


 普通の地点。


 また薄い地点。


 単純に遺跡や森の入口からの距離だけで説明できる並びではない。


「ここと」


 ジンが一つの印を指した。


「ここ」


 少し離れた別の印へ指を動かす。


「この間がまだ空いてる」


「そこを調べれば、繋がってるかどうか分かるかもしれませんね」


「うん」


「行くか」


 アインが先に歩き出そうとした。


 だが。


 二歩ほど進んだところで、その手が上がった。


「止まれ」


 声の調子が変わる。


 ジンとフィナはすぐに足を止めた。


「いる」


 アインの視線は、右前方の木々の奥へ向いている。


 ジンもそちらを見るが、葉と枝に遮られて何も見えない。


「どこ?」


「右奥。二十……いや、もう少し近い」


 フィナも声を落とした。


「魔物ですか?」


「多分な」


 アインの手が剣へ伸びる。


 ジンも腰の剣へ手を掛けた。


 しばらくすると、木の葉が小さく揺れた。


 一ヶ所。


 その少し奥でもう一ヶ所。


 さらに左側でも枝が動く。


「……三体」


 アインが呟く。


 やがて一頭が木々の間から姿を現した。


 大型犬ほどの身体に、細長い四肢。その足先には地面へ食い込む大きな爪があり、頭部からは後方へ伸びる二本の角が生えている。


 そして特徴的なのが、首から背中へかけて折り畳まれた薄い膜だった。


 最初の一頭に続き、同じ姿をした二頭が少し距離を空けて現れる。


「ヴェイルです」


 フィナが言った。


「知ってる?」


「はい。普通は二頭で行動することが多い魔物です」


「今日は三頭だな」


 アインが言う。


「移動してる途中でまとまったのかな」


「それもまだ分かりません。とにかく気をつけてください。距離があるからって――」


 フィナの言葉が途中で止まった。


 一頭目のヴェイルの背中で、折り畳まれていた膜が左右へ開いたからだ。


 薄い膜の内部を淡い光が走り、その中心へ魔力が集まり始める。


「――来ます!」


 ジンは声を聞くより僅かに早く横へ動いていた。


 直後。


 先ほどまで立っていた場所を光の塊が通過し、その先の地面へ叩きつけられる。


 土が大きく弾けた。


「……何今の」


「ヴェイルが魔力を集めて撃ち出してるんです!」


「魔法?」


「人が使う魔法とは少し違います。あの背中の膜で周囲の魔力を集めて――」


 二発目。


 今度は別の個体の膜が開く。


 ジンが身体を沈めると、頭上を光が通り抜け、そのまま背後の木へぶつかった。


 幹が大きく揺れ、樹皮が飛び散る。


「説明は後だな」


 アインが剣を抜いた。


「うん」


 ジンも鞘から剣を抜く。


 三頭のヴェイルはすぐに飛び掛かってはこなかった。


 一頭が正面。


 残る二頭が左右へ少しずつ広がり、三人を囲むように位置を変え始める。


「射線を作る気か」


 アインが言う。


「頭いいな」


「感心してる場合か」


 ジンはヴェイルたちの動きを見ながら、一歩だけ前へ出た。


 すると正面の一頭も位置を変え、右側の個体はさらに外へ回ろうとする。


 互いに距離を取りながら、仲間と重ならない場所を探している。


「アイン」


「何だ」


「一頭お願い」


「お前は?」


「二頭見る」


「は?」


 返事を待たず、ジンは正面の一頭へ向かって走り出した。


「おい!」


 当然、ヴェイルも反応する。


 正面の一頭が背中の膜を開き、淡い光を集め始めた。


 ジンは止まらない。


 発射の瞬間にだけ進路を僅かに横へずらし、光の塊を肩の横へ通したまま距離を詰める。


 すると後方にいたもう一頭も膜を開いた。


 だが。


 撃ってこない。


 正確には。


 撃てない。


 後ろのヴェイルとジンの間に、正面の一頭が入っている。


「……なるほどな」


 少し離れたところで、アインが気づいた。


 ジンは正面のヴェイルから離れない。


 相手が右へ動けば同じように右へ寄り、左へ逃れようとすればその方向へ回り込む。


 常にもう一頭との間へ、一頭目のヴェイルを挟み続けている。


「二頭と戦ってるんじゃ……」


 フィナが言いかける。


「違う」


 アインが答えた。


「あいつ、実質一頭しか相手にしてねえ」


「え?」


「もう一頭に撃たせねえ場所を取り続けてる」


 その間にも、ジンの正面でヴェイルの膜が膨らんだ。


 三度目。


 もう兆候は分かっている。


 膜が開き。


 内部へ光が走り。


 一定量の魔力が集まる。


 そのあとに発射。


 なら。


 撃たれてから避ける必要はない。


 ヴェイルが狙いを定めようと頭を動かした瞬間、ジンは逆に懐へ踏み込んだ。


 射線が変わる。


 ヴェイルも追おうとする。


 だが、光が放たれた時には、すでにジンはその内側へ入っていた。


 ヴェイルが咄嗟に前脚を振るう。


 大きな爪が横から迫る。


 ジンは剣を真正面からぶつけず、斜めに触れさせながら力の向きを外へ流した。


 爪が刃の表面を滑る。


 その動きに合わせて身体を回し、開いた首元へ剣を走らせた。


 一閃。


 ヴェイルの身体が崩れる。


「一頭」


 ジンが小さく呟いた。


「ジンさん!」


 フィナの声が飛ぶ。


「何?」


「後ろ!」


 振り返ると。


 二頭目のヴェイルが、すでに大きく膜を開いていた。


 先ほどまで仲間に遮られていた射線が、一頭倒れたことで完全に通っている。


「そっちか」


 ジンはすぐに横へ流れた。


 光の塊が足元を掠め、その先の地面を抉る。


「危な」


「そっちじゃありません!」


「え?」


「倒した方です!」


 フィナが地面へ倒れた一頭を指した。


「背中の膜!」


 ジンが見る。


 さっきの斬撃は首から背中側へ抜け、その途中で膜の端まで切ってしまっていた。


「これ?」


「ヴェイルの魔力収集膜は素材になります!」


「……高い?」


「状態が良ければ、結構!」


 ジンが倒したヴェイルと、まだ生きている二頭目を交互に見た。


「先に言ってよ」


「戦闘中でしょう!」


「今もだけど」


「だったら戦ってください!」


 二頭目のヴェイルが地面を蹴る。


 ジンも動いた。


 今度は一頭だけ。


 もう仲間との射線を利用する必要はない。


 ヴェイルが距離を取ろうとするたびに詰め、膜が開けば魔力が集まり切る前から射線の外へ出る。


 一発。


 避ける。


 さらに近づく。


 ヴェイルが下がる。


 追う。


 再び膜が開く。


 今度はかなり近い。


「その距離でも撃てるんだ」


 ヴェイルの背中へ光が集まる。


 ジンの視線が、その膜へ移った。


 斬れば早い。


 だが。


 フィナの言葉が頭に残っている。


 状態が良ければ高い。


「……残した方がいいのか」


 剣を振らなかった。


 ヴェイルの前脚が地面へ着いた瞬間、その片側を上から踏みつける。


 足を固定されたヴェイルの身体が大きく沈んだ。


 すぐに暴れ、前脚を引き抜こうとするが、ジンは踏んだ位置をずらさない。


 そのまま両手を伸ばし、二本の角を掴んだ。


「――!」


 ヴェイルが激しく頭を振る。


 身体ごと後ろへ逃れようとしても、片方の前脚が地面へ固定されているため十分に力を逃がせない。


 ジンは腰を落とし、相手が逆方向へ振り戻そうとした瞬間に合わせて、一気に首を捻った。


 鈍い音がした。


 ヴェイルの身体から力が抜け、背中の膜へ集まっていた光もその場で消える。


 ジンは角から手を離し、倒れた個体の背中を確認した。


 膜には傷がない。


「フィナ」


「……はい」


「これは?」


「何がです?」


「高い?」


 フィナは一瞬黙り、それから倒れているヴェイルを見た。


「……状態はかなりいいと思います」


「よし」


「そこ喜ぶんですね……」


「だってさっきのよりいいんでしょ?」


「そうですけど」


 フィナが何とも言えない様子で返した、その時。


「ジン!」


 アインの声が森へ響いた。


 二人が振り向く。


 最後の一頭。


 アインと向かい合っていたヴェイルが突然身体を翻し、狙いを変えていた。


 アインではない。


 その後ろにいるフィナ。


 背中の膜が一気に開く。


「――っ!」


 フィナも気づいた。


 魔力が収束する。


 アインが追うが、距離がある。


 間に合わない。


 光が放たれた。


「フィナ!」


 ジンの声とほとんど同時に、フィナが片手を前へ突き出した。


 掌の先へ魔力が集まり、そのまま正面へ薄く広がる。


「――《防護》!」


 半透明の膜が空間へ展開した直後、ヴェイルの放った魔力が正面から激突した。


 轟音が響く。


 防護魔法は大きく歪み、フィナの身体も地面を滑るように後ろへ押された。


「っ……!」


 それでも。


 破られない。


 薄い膜は激しく揺れながらも最後まで持ちこたえ、ヴェイルの攻撃を受け切ったところで光が弱まった。


「……それ」


 少し離れたところでジンが呟く。


「後にしてください!」


「うん」


 ヴェイルはすぐに次の攻撃へ移ろうとし、再び背中の膜を開き始めた。


 だが今度は。


 アインがすでに動いていた。


 右手の指の間に挟まれているのは、短い金属片。


 刃物と呼ぶには小さい。


 寸鉄。


 アインはそれをヴェイルへ直接投げなかった。


 少し横。


 木の幹へ。


 カッ、と乾いた音が響き、金属片が突き刺さる。


 ヴェイルの頭が反射的に音の方へ向いた。


 ほんの僅かな反応。


 それだけで十分だった。


 アインがもう一つの寸鉄を投げる。


 今度は反対側の地面。


 足元へ金属片が突き刺さったことで、ヴェイルがそちらを避けるように身体をずらした。


「そっちだ」


 アインはすでに、その先へ動いていた。


 音と飛来物を嫌ったヴェイルが自分から選んだ逃げ道。


 そこへ回り込む。


 ヴェイルが気づいた時には、アインの剣が間合いへ入っていた。


 一撃。


 首元を斬られたヴェイルが、そのまま地面へ崩れる。


 そこでようやく。


 森が静かになった。


 三頭のヴェイルは、もう動かない。


 アインは周囲を確認してから剣についた血を軽く振り落とし、鞘へ戻した。


「終わりだな」


 ジンは最後に倒れたヴェイルではなく、その横の木と地面に刺さっている小さな金属片を見た。


「今の何?」


「寸鉄」


「それは分かった。ああいう使い方するんだ」


「まあな」


「他には?」


 アインは地面から寸鉄を抜きながら、すぐには答えなかった。


「今日はもう教えねえ」


「なんで?」


「一個見せるたびに質問が増えるからだ」


「まだそんなに聞いてない」


「この後増えるだろ」


「多分」


「ほらな」


 それ以上聞いても答える気がなさそうだったので、ジンは諦めてフィナの方へ向いた。


「さっきの」


「防護魔法ですか?」


「うん」


「やっぱり聞くんですね」


「初めて見たから」


「防護魔法自体は知ってますよね?」


「ギルドの試験で見た」


「なら、仕組みも?」


「詳しくは知らない」


「そうなんですか」


 フィナは自分の手を見ながら少し考え、それから掌を前へ向けた。


「さっきのは、自分の魔力を広げて面みたいに固定して、外から来る力を受け止める魔法です」


「面にする?」


「はい。自分の前だけに出すこともできますし、もっと広げて何人かを守ることもできます。ただ、広げれば広げるほど必要な魔力は増えます」


「じゃあ」


 ジンが少し考える。


「魔力防壁も同じ?」


「基本的には同じですよ」


「規模が違うだけ?」


「そうです」


 フィナは頷いた。


「人一人とか、数人を守る程度なら防護魔法。もっと大きくして、建物や門みたいな広い範囲を覆うようになると魔力防壁って呼ばれます」


「仕組みは一緒なんだ」


「同じです。魔力を広げて、面として固定して、その面で外からの力を受け止める。大きさや強度によって必要な魔力量は変わりますけど、考え方そのものは変わりません」


「維持してる間も魔力は使う?」


「使いますよ。展開したら終わりじゃありませんから」


「へえ」


 ジンは少し黙った。


 防護魔法。


 魔力防壁。


 規模は違う。


 だが。


 仕組みは同じ。


 魔力を広げ。


 面として固定し。


 その面で力を受け止める。


「フィナは得意?」


「得意というほどではありません。私は回復魔法の方が向いてますから」


「じゃあ、さっきのは結構ぎりぎり?」


「もう少し強かったら危なかったですね」


「なるほど」


「何回『なるほど』って言うんですか」


「覚えてる」


「それは分かりますけど」


 横で聞いていたアインが小さく息を吐いた。


「今日は宿戻ったら先に飯食わせた方がいいな」


「何で?」


「この流れだと、防護魔法までトレモに持ち込むだろ」


「魔法使えないよ」


「じゃあ何するつもりなんだよ」


「どうやって受けてるのか見たい」


「ほら始まった」


 フィナも苦笑する。


「見るだけならいいですけど、今日はもう何回も使いませんよ」


「一回でいい」


「本当に?」


「多分」


「その返事で信用できると思います?」


「難しい?」


「難しいです」


 そこでフィナが思い出したように、地面へ倒れているヴェイルへ視線を向けた。


「その前に、素材を回収しましょう」


「あ、それ」


 ジンも自分が倒した二頭へ向き直った。


 一頭目は斬撃が背中まで抜け、魔力収集膜の端に傷がある。


 二頭目は首だけを折ったため、膜がほぼ無傷で残っている。


「どれくらい値段変わる?」


「そこまで細かい相場は分かりませんけど、綺麗な方が高く売れます」


「結構?」


「状態が良ければ、それなりには」


 ジンは二頭を見比べた。


「じゃあ次からこっちだな」


「何が?」


 アインが聞く。


「倒し方」


 アインの手が止まった。


 フィナも、首だけを折られたヴェイルへ視線を落とす。


「……もう変えてましたよね」


「今回は試しただけ」


「一体目で値段聞いて、二体目でもう変えただろ」


「高いって聞いたから」


「適応する理由が金なの、なんか嫌だな」


「素材傷つけない方がいいでしょ?」


「そりゃそうだけどよ」


 三人はその場で素材の回収を始めた。


 ジンも手を動かしながら、頭の中ではすでに別のことを考えていた。


 ヴェイルが魔力を集める時の膜の動き。


 発射までに掛かる時間。


 至近距離でも撃てること。


 仲間を射線へ入れない程度には、互いの位置を理解していること。


 アインが投げた寸鉄。


 そして。


 フィナが使った防護魔法。


 魔力を面として固定し。


 外からの力を受け止める。


 それを大きくしたものが。


 魔力防壁。


 知らなかったことが。


 またいくつも増えた。


 アインは回収した素材を袋へ入れながら、何度か手を止めて考え込んでいるジンを見た。


「帰ったらまず飯な」


「分かってる」


「その次は風呂」


「うん」


「その次は寝ろ」


「そこだけ急に命令になった」


「今のうちに言っとかねえと、絶対また何か始めるだろ」


 ジンは少し考えた。


「ちょっとだけなら」


「駄目だ」


「まだ何するか言ってない」


「もう十分だ」


 フィナも笑いながら素材をまとめる。


 森の異変を調べに来たはずだった。


 だが。


 魔力の分布。


 三頭で現れたヴェイル。


 その射線の作り方。


 寸鉄。


 防護魔法。


 一日で確かめたいことは、昨日よりさらに増えていた。


 そして。


 そのどれもが。


 ジンにとっては。


 調査の続きだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。