第53話 見覚え
「生きてます!」
フィナの声が、狭い石造りの部屋に響いた。
床に倒れている男のそばへ膝をつくと、すぐに呼吸や脈を確認する。ジンとアインも遅れて石の扉を越え、周囲に危険がないことを確かめながら男のもとへ近づいた。
「意識は?」
「ありません。でも、呼吸はしています」
男は仰向けに倒れていた。
三十代ほどだろうか。革鎧の上から外套をまとい、腰には剣を下げている。装備のあちこちには戦闘でついたらしい傷が残り、右腕には乾いた血がこびりついていた。
フィナはその腕を取り、傷口を確認してから僅かに眉を寄せる。
「これは……」
「ひどい?」
「いえ。傷そのものは深くありません。もう塞がり始めていますし、これだけなら意識を失うほどではないと思います」
「じゃあ、なんで倒れてる?」
「分かりません」
フィナは杖を取り出すと、男の身体へ淡い光を広げた。治癒魔法の光が傷口を包み、そのままゆっくりと馴染んでいく。
だが、すぐにフィナの表情が曇った。
「……変ですね」
「何が?」
「傷は治せます。でも、それとは別です」
男の胸元へ手を添えたまま、身体の内側を探るように目を閉じる。
「この人、身体の中に残っている魔力がほとんどありません」
「使い切ったってこと?」
「それに近いです。でも、ここまで減るのは相当ですよ」
アインが男の装備へ目を向けた。
「魔法使いか?」
「装備を見る限り、違うと思います」
持っているのは剣で、杖もそれらしい魔導具も見当たらない。
「じゃあ身体強化で使ったとか?」
「可能性はありますけど、それだけでここまで減るでしょうか。バルドさんでも、ここまでは減っていませんでした」
グレドとの立ち会いで身体強化を使っていたバルドも、戦闘後にはかなり魔力を消耗していた。それでも、目の前の男ほどではない。
残っている魔力は、ほとんど空に近かった。
「とりあえず外に出すぞ」
アインが周囲を見ながら言った。
「ここが安全かどうかも分からん」
「そうですね」
フィナが頷き、ジンとアインが男を持ち上げようとした。
その時、ジンの視線が床で止まった。
「……これ」
「どうした?」
「傷がある」
男のすぐそば。
石の床に、何本もの細い傷が走っていた。
遺跡そのものに刻まれている規則的な溝とは違い、太さも方向も揃っていない。何か硬いものを押しつけながら引きずったような跡が、男の倒れていた場所から部屋の奥へ伸びている。
「何か引きずった?」
ジンがしゃがみ込む。
アインも傷を確認してから、倒れている男の腰へ目を向けた。
「剣かもしれねえな」
鞘から少しだけ剣を抜くと、刃には細かな傷が入り、先端の一部も欠けていた。
「多分こいつだ」
「じゃあ、この人がつけた?」
「そうだろうな」
二人が床の傷を視線で追っていく。
その先。
石造りの部屋の奥。
壁際に、奇妙な装置が置かれていた。
◇
男を一度外へ運び、近くの木の根元へ寝かせることにした。
フィナにはそのまま治療を続けてもらい、ジンとアインはもう一度遺跡の中へ戻る。
「やっぱり狭いな」
アインが内部を見回しながら言った。
「うん」
外から見た印象のままだった。
内部にあるのはこの一部屋だけで、入口から奥までも十数歩程度しかない。左右の壁にも別の通路や扉はなく、地下へ降りる階段らしいものも見当たらなかった。
それでも。
ジンには妙な既視感があった。
石材の加工。
床と壁を走る細い溝。
直線と曲線を組み合わせた独特の構造。
完全に同じではない。
だが、似ている。
「……やっぱり近いな」
ジンが呟いた。
「何が?」
アインが振り返る。
「前に見つけた遺跡」
「……は?」
アインの動きが止まった。
「前に?」
「うん」
「お前、遺跡に行ったことあんのか?」
「あるよ」
「あるよ、じゃねえだろ」
アインが呆れたように額を押さえる。
「なんでそれを今まで話さなかったんだよ……」
「聞かれなかったから」
「そういう問題じゃねえ!」
ジンが少し首を傾げたところで、外からフィナの声が聞こえた。
「えっ、ジンさん、遺跡に行ったことがあるんですか?」
どうやら入口近くまで声が届いていたらしい。
「うん。この国に来て、最初の頃に見つけた」
「最初の頃って……ベルクへ来る前ですか?」
「そのくらい」
「なんで今まで言わなかったんですか?」
「フィナまで?」
「普通言いますよ!」
アインが深く頷く。
「ほら見ろ」
「でも、その時は何に使う場所かも分からなかったし」
「それでもだよ!」
「あとで話す」
「絶対だぞ」
「はい」
ひとまずそれで納得したことにしたらしく、アインは息を吐いて装置の方へ視線を戻した。
「で、その前に見つけた遺跡と、ここが似てるって?」
「うん。石の加工もそうだし、この辺」
ジンは床へ刻まれた細い溝を指差した。
壁から伸びた線が床へ続き、他の線と合流しながら部屋の奥へ向かっている。
「前に見つけた方にも、似たようなのがあった」
「何のためのものだ?」
「それが分かってたら苦労しない」
「そこは変わらねえのかよ」
二人は床の溝を追いながら奥へ進んだ。
そこに置かれている装置は、ジンの腰ほどの高さしかない。石で作られた台座の上面には、艶のない黒い板のようなものが埋め込まれていた。
「触るなよ」
「まだ何もしてない」
「先に言っとく」
「信用ないな」
「あるから言ってんだよ」
ジンは装置の前へしゃがみ込んだが、手は伸ばさずに周囲を観察した。
黒い板には何も映っていない。文字も模様もなく、今は完全に沈黙している。
ただ、その周囲へ刻まれた細い溝は、床や壁から伸びてきた線と繋がっていた。
「これ、全部ここに集まってる」
「床の線か?」
「うん」
ジンは視線だけで線を追う。
床から壁へ。
壁から天井へ。
部屋の各所を走る溝の多くが、最後にはこの装置へ繋がっているように見える。
「ここが中心ってことか?」
「かもしれない」
そう答えながら、ジンは装置から部屋全体へ視線を広げた。
「でも……」
「今度は何だ?」
「少なすぎる」
「何が?」
「設備」
アインも改めて周囲を見る。
「前に見つけた遺跡には、もっと色々あった。何に使うのか分からないものばっかりだったけど、部屋も装置もここよりずっと多かった」
「単純に小型の遺跡なんじゃないのか?」
「それならそうなんだけど」
ジンは部屋全体を見回した。
狭い。
設備もほとんどない。
人が生活していた痕跡もなければ、物を保管していたようにも見えない。何かを研究する場所と考えるには、使えそうなものが少なすぎる。
「……ここだけで完結してない気がする」
「どういう意味だ?」
「うまく言えないけど、この部屋だけで何かするための場所じゃないように見える」
「じゃあ何なんだ?」
「それが分からない」
アインはしばらくジンを見ていたが、やがて肩をすくめた。
「分からないなら今はそれでいい。俺たちの目的は遺跡調査じゃなくて人探しだ」
「そうだった」
「忘れんなよ」
二人は一度装置から離れ、床に残っていた傷へ目を戻した。
倒れていた男が剣でつけたと思われる跡は、装置のすぐ手前まで続いている。
しかも、傷があるのは床だけではなかった。
「ここもだな」
アインが装置の側面を指差す。
石の表面には何本もの傷が重なり、同じ場所へ何度も刃を叩きつけた跡が残っていた。
「これを壊そうとした?」
「そう見えるな」
「なんで?」
「それは本人に聞くしか――」
「アインさん! ジンさん!」
外からフィナの声が飛んできた。
二人はすぐに顔を見合わせ、そのまま遺跡の外へ出た。
◇
男が目を覚ましていた。
「大丈夫ですか?」
フィナが身体を支えながら声をかける。
男は木の幹へ背を預け、荒い呼吸を繰り返しながら、ぼんやりと周囲を見ていた。
「ここ……は……」
「北の森です」
「森……」
男の視線がゆっくりと動いていく。
木々。
フィナ。
アイン。
ジン。
そして、背後にある石造りの建物を見た瞬間。
「――っ!」
男が無理やり身体を起こそうとした。
「待ってください!」
フィナがすぐに肩を支える。
「まだ動かない方がいいです」
「離れろ……」
「え?」
「あそこから……離れろ……!」
三人の表情が変わった。
アインはすぐに男の前へしゃがみ込み、刺激しないよう声を落とす。
「俺たちはベルクの冒険者だ。あんたたちを探しに来た」
「ベルク……」
「ああ。五人で森へ入ったんだろ?」
その言葉を聞いた瞬間、男の目が大きく見開かれた。
「みんなは……」
「それを聞きたい。あんたしか見つけてない」
「……」
「残り四人はどこだ?」
男の顔から、見る見る血の気が引いていった。
「いない……?」
「ここにはな」
「そんな……一緒だった……」
「ここまで?」
「ああ……」
声は弱い。
それでも、少しずつ記憶を辿るように男は話し始めた。
「光を……見つけたんだ」
「夜に森の奥で見えるっていう?」
男が頷く。
「調査範囲を越えるつもりはなかった。でも……確認するだけならって」
「それでここまで来た」
「ああ」
五人で森の奥へ向かい、途中で魔物に襲われた。
戦闘にはなったものの全員で切り抜けており、外に散乱していた荷物や途中で見つけた血痕も、その時のものらしい。
「全員生きてた?」
「ああ。怪我はした。でも死んじゃいない」
フィナが僅かに息を吐いた。
「そのあと、ここを見つけたんですね?」
「光ってた。壁が……光ってたんだ」
三人が最初に見たものと同じだろう。
「扉は?」
「閉まってた」
「どうやって入った?」
「分からない」
「分からない?」
「近づいたら……勝手に開いた」
ジンとアインが顔を見合わせる。
「誰か触った?」
「いや」
「魔法を使ったとか?」
「何もしてない」
「じゃあ、勝手に?」
「ああ」
話を続けるほど男の呼吸は少しずつ荒くなっていったが、アインは必要な部分だけを慎重に確認していく。
「中に入ったのは?」
「全員だ」
そこでアインの表情が変わった。
「五人全員?」
「ああ」
「でも、中にはあんたしかいなかった」
男は答えなかった。
いや。
答えられない。
そんな顔をしていた。
「何があった?」
アインが尋ねる。
男の手が僅かに震え始めた。
「最初は……何もなかった。中にあったのは、あの狭い部屋と奥の装置だけだった。みんなで一通り調べて、何もねえし帰ろうって……そう話してた」
「それで?」
「光った」
「何が?」
「床だ」
その言葉に、ジンの視線が遺跡へ向く。
床に刻まれていた、あの細い溝。
「あれが……全部光った。そのあと急に身体がおかしくなった。力が入らなくなって、立っていられなくなって……」
フィナが反応する。
「魔力……」
男がフィナを見る。
「分かるのか?」
「あなたの身体には、今ほとんど魔力が残っていません」
「……そうか」
男は乾いた笑いを漏らした。
「だからか」
「その後は?」
「みんな倒れた」
「全員?」
「ああ。俺も意識が遠くなった。でも、その前に……」
右手が僅かに動く。
何かを握るように。
「剣を抜いた」
ジンは部屋の中に残っていた傷を思い出す。
「装置を壊そうとした?」
「あれが原因だと思った」
「それで?」
「何度も斬った。壊れなかったけどな」
「そのあとは?」
「覚えてない」
アインが静かに尋ねた。
「残りの四人がどこへ行ったかも?」
「……知らない。気づいたら、お前たちがいた」
そこで会話が途切れた。
五人で入った。
全員が同じ部屋の中で倒れた。
なのに今、残っているのは一人だけ。
「外へ出た可能性は?」
フィナが言う。
「意識を取り戻したあとなら、自分たちで――」
「荷物を全部置いたままか?」
アインの言葉に、フィナが黙る。
「周囲にも、それらしい足跡はなかった」
「じゃあ……」
ジンは背後の遺跡へ視線を向けた。
「どこに行ったんだ?」
誰も答えられなかった。
◇
男にはそのまま外で休んでもらい、フィナが付き添うことになった。
「中へ戻るのか?」
男が不安そうに尋ねる。
「少しだけ調べる」
ジンが答える。
「やめた方がいい」
「分かってる」
「分かってない顔してるぞ」
「よく言われる」
「ジン」
アインが横から睨む。
「大丈夫。触らない」
「本当だな?」
「多分」
「戻るぞ」
「分かったって」
結局、言い直させられてから、二人はもう一度遺跡の中へ入った。
今度は何か異変が起きてもすぐ外へ出られるよう、入口の石扉が開いたままであることを確認してから奥へ進む。
内部は先ほどと何も変わっていない。
石造りの壁と床を無数の細い溝が走り、その先には黒い板を埋め込んだ装置が沈黙したまま置かれている。
ただ、男の話を聞いたあとでは。
同じ景色でも見え方が違った。
「四人が消えた」
ジンが部屋全体を見渡しながら言う。
「そうだな」
「出口は一つ」
「ああ」
「隠し通路かな」
「それなら探せば分かる」
二人は入口側から順に壁を調べ始めた。
石材を押し、軽く叩いて音を確かめ、床の継ぎ目や壁際も一つずつ調べる。
だが、動く場所もなければ、その奥に空洞があるような音もしない。
部屋の広さも、外から見た建物の大きさとほぼ一致している。
人が四人。
誰にも見つからず。
どこかへ消えられるような場所はなかった。
ジンは部屋の中央へ戻ると、男たちが倒れた時に光ったという床の溝へ視線を落とし、そのまま線を追って奥の装置まで見た。
「……転移?」
「何?」
壁を調べていたアインが振り返る。
「可能性の話。四人だけ、別の場所に移動したとか」
「転移魔法で?」
「魔法かどうかは分からない」
「じゃあ、なんで一人だけ残った?」
「分からない」
「本当は五人とも移すつもりだったのに失敗した、とか?」
「それも分からない」
「分からないだらけだな」
「だから調べるんだろ」
「触るなよ」
「分かってる」
ジンは装置へ近づかず、床を走る溝だけを目で追っていった。
壁から降りてきた線が床へ入り、別の線と合流する。天井から伸びるものもあり、それらが部屋の奥へ集まって、最後は装置へ繋がっている。
最初は。
そう見えた。
だが。
先ほどから感じていた違和感を意識して見直すと、別の見方もできる。
「……いや」
「今度は何だ?」
アインが壁際から戻ってくる。
「逆かもしれない」
「何が?」
ジンは装置のすぐ近くから伸びる一本の溝を指差した。
「最初は、全部ここに集まってると思った。でも、向きがあるなら逆かもしれない」
「向き?」
「ここへ集まってるんじゃなくて、ここから伸びてる」
ジンは装置から床へ続く線を視線で追い、そのまま壁際まで辿る。
溝はそこで終わらず、石材の下へ潜り込むように消えていた。
「この建物の外まで?」
「かもしれない」
「どこへ?」
「それが分からない」
アインが何か言おうとしたが、ジンはそのまま部屋全体を見る。
これまで小さな遺跡だと思っていた。
狭い部屋。
少ない設備。
用途の分からない装置。
だが。
もしこの場所が単独で機能する施設ではなく、別の何かへ繋がるための一部分だとしたら。
ここだけを見ても用途が分からないことも。
設備が少ないことも。
少し違って見える。
「これ、遺跡そのものが小さいんじゃないのかもしれない」
アインが周囲を見る。
「どう見ても小さいだろ」
「建物はね」
「じゃあ何が小さくないんだよ」
「この場所が、もっと大きなものの一部だったら?」
その言葉に、アインの表情が僅かに変わった。
「……他の場所と繋がってるってことか?」
「そこまではまだ分からない。でも、この場所だけで終わってるようには見えない」
ジンがもう一度、装置から壁の向こうへ消えていく溝を目で追った。
「……繋がってる?」
小さく呟いた。
その瞬間。
装置の足元で淡い光が灯った。
「ジン!」
「触ってない!」
光は装置のすぐ脇を走る一本の溝から始まり、そのまま床の上を滑るように伸びていった。途中で二本へ分かれ、さらに別の溝へ伝わりながら、部屋の中へ次々と広がっていく。
ジンはその流れを追い。
すぐに気づいた。
「……やっぱり逆だ」
「何が!」
「光が装置に集まってない。ここから出てる!」
淡い光は黒い板の周囲から床へ流れ、そこから壁へ入り、さらに天井へ分かれながら石材の向こうへ消えていく。
「外に出ろ!」
アインの声と同時に、二人は入口へ向かって走った。
石の扉はまだ開いている。
あと数歩で外へ出られる。
その途中。
ジンの視界の端で、今まで沈黙していた黒い板に光が灯った。
足が僅かに止まる。
黒い板の上へ一瞬だけ浮かんだのは文字ではなく、いくつもの小さな点と、その間を結ぶ細い線だった。
「ジン!」
アインに腕を掴まれ、ジンはそのまま入口の外へ引っ張り出された。
二人は勢いを殺さず建物から距離を取り、フィナと男がいる木の近くまで下がってから、ようやく振り返った。
「何があったんですか!?」
「中がまた光った。今度は床から壁まで全部だ」
アインがそう答えながらジンを見る。
「何かしたか?」
「何もしてない」
「本当だろうな?」
「今回は本当に」
「今回はって言うな」
アインがそう返したところで、フィナの視線が二人から外れた。
「……待ってください」
その声に、ジンとアインも遺跡を見る。
内部で光っていた溝は、そこで止まっていなかった。
石造りの建物の外壁にも細い光が浮かび、その線は壁の下から地面へ続いている。草の間から半ば土に埋もれた石の表面へと光が移り、そこからさらに森の奥へ向かって伸びていた。
「遺跡の外まで……」
フィナがゆっくり立ち上がる。
三人が近づきすぎないようその場から目で追ってみると、地面を走っている線は一本ではなかった。
建物の下からいくつもの光が伸び、それぞれ別の方向へ分かれながら木々の間へ消えている。右へ向かうものもあれば、さらに奥へ伸びるものもあり、近くの地面だけを見る限りでも、この小さな建物の周囲だけで終わっているようには見えない。
「これ……どこまで続いてるんですか?」
フィナが尋ねる。
「分からない」
ジンはそう答えながらも、視線は地面を走る光ではなく、さっき黒い板に一瞬だけ浮かんだものへ向いていた。
いくつもの点。
それらを繋ぐ線。
最初に見た時は何を表しているのかまったく分からなかった。
だが今、目の前で建物から外へ伸びていく光を見たことで、さっきの表示がただの模様ではないように思えてくる。
もし。
あの点の一つが。
今いるこの場所なのだとしたら。
そして、そこから伸びていた線が、今地面の上を走っているものと同じ意味を持つのだとしたら。
「……一個じゃないのかもしれない」
ジンが呟いた。
「何が?」
アインが聞く。
ジンはすぐには答えず、木々の向こうへ消えていく複数の光を順番に目で追った。
「さっき、あの黒い板に一瞬だけ何か出た」
「何が出たんだ?」
「点がいくつかあって、それを線が繋いでた」
「地図みたいなものですか?」
フィナが尋ねる。
「分からない。でも」
ジンは目の前の建物へ視線を戻した。
これまでなら。
森の中に見つかった、小さな古代遺跡。
そう考えていた。
だが、建物の外まで続く光を見たあとでは、その見方では足りない気がした。
この場所が一つの遺跡なのではなく。
もっと広い範囲に存在する何かの。
ほんの一部分。
もしそうなら。
黒い板に見えた複数の点も。
そこから伸びる線も。
すべて繋がってくる。
「この遺跡」
ジンが言った。
「単独で動いてるんじゃないかもしれない」
アインとフィナが黙る。
ジンはさらに先へ続いている光を見た。
どこに繋がっているのかは分からない。
何のために繋がっているのかも。
四人の冒険者が消えたことと関係があるのかさえ、まだ分からない。
それでも。
この小さな建物だけを調べていれば答えに辿り着ける。
そんな単純な話ではない。
そのことだけは。
目の前を走る光が、はっきりと示していた。




