第40話 連戦
グレド直属の兵たちは、明らかに他の魔族兵とは動きが違っていた。
常に全身へ魔力を流しているわけではない。
攻撃する瞬間だけ腕や武器へ。
受ける瞬間だけ必要な部位へ。
踏み込む、その一歩だけ脚へ。
必要な場所へ必要な分だけ魔力を通し、役目が終わればすぐに切る。その繰り返しで、余計な消耗を徹底的に削っている。
だから疲れない。
いや、正確には違う。
消耗はしている。
ただ、その速度が人間側より明らかに遅かった。
「右、二人来るぞ!」
兵士の声が飛ぶのとほぼ同時に、崩れかけた戦列の裂け目へ二人の魔族兵が入り込んできた。
一人は剣。
もう一人は細身の短槍。
どちらも速い。
だが、単純に身体能力が高いわけではない。
踏み込む瞬間だけ脚へ黒い光が走り、その一歩だけ速度が跳ね上がる。攻撃へ移れば今度は腕や武器へ魔力が集まり、防御では必要な箇所だけが一瞬強化される。次の動作へ移る頃には、その光はもう消えていた。
「おおっ!」
人間側の冒険者が全身へ身体強化をかけ、そのまま剣を横薙ぎに振るう。
重い一撃だった。
だが、魔族兵は真正面から受けなかった。
短剣を剣の腹へ添え、接触する瞬間だけ前腕から武器へ魔力を通す。
カンッ!
剣の軌道が僅かに上へ逸れた。
「なっ――」
開いた懐へ魔族兵が滑り込み、そのまま肩、腹と続けて打撃を叩き込む。
刃ではない。
それでも鎧越しに衝撃が身体の奥へ抜け、冒険者の呼吸が止まった。
膝が落ちる。
「殺してない」
ジンが戦場から視線を外さないまま呟くと、隣のアインがすぐに首を振った。
「全部じゃないぞ」
少し離れた場所では、別の魔族兵が兵士の剣を弾き、そのまま肩口へ斬撃を入れていた。
血は出る。
だが、首も胸も腹も外している。
「殺さないようにしてる奴はいる」
アインが目を細める。
「でも、全員じゃない」
「向こうにも考え方の違いがある?」
「軍だぞ。そりゃあるだろ」
◇
「押されてる!」
人間側から叫び声が上がった。
一人の魔法使いが杖を振り上げる。
「炎よ!」
火球が生まれた。
だが、その大きさは戦闘開始直後とは比べものにならないほど小さい。
魔力の消耗が、戦場全体へはっきりと現れ始めていた。
放たれた火球を一人の魔族兵が横へ跳んでかわすと、着地した瞬間だけ脚へ黒い光を集中させ、その一歩で一気に魔法使いとの距離を詰めた。
「まずい!」
ジンが間へ入る。
魔族兵は構わず剣を振り下ろした。
ジンも逃げない。
右腕を上にして、剣を握る相手の腕へぶつけるように受ける。
直後。
「……重っ」
想像以上だった。
剣を振り下ろす瞬間だけ、相手の右腕へ魔術による強化が集中している。
このまま正面から受ければ押し切られる。
そう判断した時には、もうジンは力比べをやめていた。
相手から見て右側へ身体を捌き、剣を握る右手の親指の付け根へ小指、薬指、中指の三本を引っ掛ける。
「な――」
腕を止めるのではない。
振り下ろしてきた力を、そのまま相手の前方へ流す。
同時に左手を二の腕の下へ差し込み、身体を下から持ち上げる方向へ力を加えた。
前へ。
上へ。
二つの力が重なった瞬間、魔族兵の足が地面から離れた。
「――っ!?」
身体が宙を一回転し、そのまま仰向けに落ちる。
ドンッ!
「ぐっ!」
だが、右腕はまだジンに取られたままだった。
魔族兵はすぐに上体を起こそうとする。
ジンはそれを見て、掴んだ腕の向きを僅かに変えた。
「それっ」
「――っ!?」
立ち上がろうとした身体が横へ崩れる。
もう一度。
魔族兵が起きる。
ジンが腕を動かす。
倒れる。
また起きる。
倒れる。
「貴様……!」
「やめた方がいいよ」
「黙れ!」
苛立った魔族兵が、今度は腕を振りほどくつもりで強引に身体を捻る。
だが、腕を取られたままでは、その力を支える場所がない。
「あ」
ゴッ。
頭から落ちた。
「……」
魔族兵がそのまま動かなくなる。
ジンは手を離し、少しだけ身を屈めて顔を覗き込んだ。
「……気絶した」
「お前がやったんだろ!」
少し離れたところからアインの声が飛ぶ。
「最後のは違う」
「お前が腕持ってただろ!」
「でも自分で無理したから」
「そういう問題じゃねえ!」
◇
そのやり取りが終わるより先に、細身の短槍を持つ魔族兵がジンの前へ出た。
「次は俺だ」
「いいね」
槍先が走る。
ジンは避けた。
もう一度。
避ける。
突き。
横薙ぎ。
切り返し。
だがジンは一度もまともに付き合わず、槍の届く位置から外れながら距離と場所だけを少しずつ変えていく。
「貴様!」
短槍の男の顔に苛立ちが浮かぶ。
「逃げるな!」
「逃げてないよ」
「なら戦え!」
さらに突きが来る。
ジンはまた外す。
「逃げているだろうが!」
「そう見える?」
「見える!」
右へ。
後ろへ。
また右へ。
何度も位置を変えるジンを追い、短槍の男もそのたびに向きを変えていく。
そして。
ようやくジンが止まった。
「やっと――」
男も踏み込もうとして、直前で足を止めた。
「……」
二人の間。
そこには、先ほどジンに投げられ、そのまま気絶した魔族兵が横たわっている。
「貴様……!」
「だから逃げてないって」
倒れた味方を挟んだまま短槍で踏み込めば、攻撃の軌道はどうしても狭くなる。
無理に突けば、味方へ当てる可能性もある。
回り込めば、その分だけ時間がかかる。
ジンはしゃがみ込み、倒れている魔族兵が持っていた剣を拾い上げた。
一度握る。
重心を確かめる。
「いい剣だな」
「返せ!」
「うん」
ジンが投げた。
「――は?」
剣が回転しながら一直線に飛んでくる。
「おわっ!」
短槍の男が咄嗟に槍を振った。
ガンッ!
剣が弾かれる。
その瞬間には。
ジンが目の前にいた。
「――!」
槍は外へ流れている。
引き戻す時間はない。
両手も槍を握ったまま塞がっている。
その空いた中央、胸元へ、ジンの右拳が真っ直ぐ伸びた。
直突き。
「ぐっ!」
呼吸が詰まる。
続けて、重心が乗っている側の膝関節へ横から短い蹴りが入った。
「がっ――!」
脚が支えを失い、魔族兵が片膝をつく。
すぐに立とうとするが、膝へ力が入らない。
「……貴様」
「少し休んでれば戻ると思う」
「……」
「多分」
「多分だと!?」
◇
一方。
アインの前にも、一人の魔族兵が立っていた。
長剣を持ち、体格もアインより一回り大きい。
「お前か」
「……何が?」
「妙な魔力の使い方をしている人間は」
「そっちに言われたくねえよ」
長剣が振り下ろされる。
アインは正面から受けず、短刀を添えるように合わせた。
接触。
その一点だけへ魔力を集中する。
カンッ!
短刀が長剣を外へ滑らせる。
「……」
魔族兵の目が僅かに変わった。
「やはり、人間の魔法とは違う」
「俺は人間だよ!」
アインは長剣が流れた隙へ潜り込み、短刀の柄を顎へ叩き込む。
ゴッ。
「ぐっ!」
さらに腹へ一撃。
体勢が崩れた瞬間、足元に張られていたワイヤーが踵へ絡みついた。
「――!」
魔族兵が地面へ倒れる。
だが、そこで終わらない。
「捕まえた」
アインはワイヤーを引き、倒れた相手が腕をつくより早く次の一本を回す。
片手首。
肘。
胴。
反対側の腕。
さらに脚。
一本ずつ別々に縛るのではなく、相手が起き上がろうとする動きへ合わせながら、逃げ道そのものを消すようにワイヤーを回していく。
「なっ――貴様、何を!」
「動くな」
「この程度!」
魔族兵が力任せに引き千切ろうとする。
その瞬間だけ。
アインの指が動いた。
力が集中した箇所へ魔力を流す。
ギンッ!
「ぐっ!?」
ワイヤーが硬く張る。
腕を動かそうとすれば胴が締まり、身体を捻ろうとすれば脚側が固定される。
どこか一箇所を無理に動かそうとするほど、別の場所が動きを止める。
「だから」
アインがしゃがみ込んだ。
「動くなって」
「……」
完全に身動きを封じられた魔族兵が、地面の上から睨み返す。
「殺さないのか」
「そっちも殺してないだろ」
「……」
「それに」
アインは立ち上がった。
「殺すより捕まえる方が難しいんだよ」
◇
続いて。
別の魔族兵がアインの前へ出る。
今度は片手剣。
先ほどの戦いを見ていたらしく、足元と周囲へ視線を配りながら慎重に距離を詰めてくる。
「今度もワイヤーか?」
「どうだろうな」
アインは短刀をしまった。
代わりに腰から抜いたのは、細い革鞭だった。
「……」
魔族兵が少しだけ眉を上げる。
「いろいろ持っているな」
アインは軽く手首を回し、鞭を一度しならせた。
「器用な男だ」
「逆だ」
「何?」
「不器用だからこうなった!」
手首を返す。
革鞭が走る。
狙いは顔。
「フン!」
魔族兵が瞬時に顔の前に片手剣を立てた。
バシッ!
鞭が剣身へ当たり、そのまま絡みつく。
「……!」
アインが引けば、魔族兵も剣を握り直して引き返す。
鞭と剣。
互いに張った状態で動きが止まった。
「武器を奪おうというのか!」
魔族兵が剣へ力を込める。
「そのつもりだったが」
「……?」
「今、やめた」
「どういう――」
バチッ!
魔族兵の顔の前。
鞭の先端だけが白く弾けた。
「なっ――!?」
至近距離。
視界いっぱいを覆う強烈な閃光。
「ぐああっ!」
魔族兵が反射的に剣を手放し、両手で目を押さえながらその場へ蹲る。
「目が……!」
「悪い」
アインはすでに鞭を腰へ戻していた。
「ちょっと眩しいぞ」
「〜〜ちょっとだとッ!?」
「多分すぐ戻る」
「貴様ぁ!」
怒鳴る余裕はまだあるらしい。
その間にアインはワイヤーを回す。
手首。
胴。
脚。
「……?」
視界が利かないまま魔族兵が違和感へ気づいた頃には、すでに何本ものワイヤーが身体へ回されていた。
「またこれか!」
「便利だからな」
最後の一本を締める。
「二人目」
「お前も数えてるじゃん」
少し離れたところからジンが言う。
「うるせえ!」
◇
「退け!」
人間側の隊長が叫ぶ。
「魔力の切れた者は後ろへ! 動ける者と交代しろ!」
だが、命令だけでは追いつかない。
後方へ下がった魔法使いたちも十分に魔力を取り戻せておらず、交代して前へ出せる人数そのものが減り始めていた。
「くそ……」
一人の魔法使いが杖を握り直す。
「あと一発なら……」
「撃たないでください!」
フィナが声を上げた。
「でも前が!」
「ここで倒れたら、もっと邪魔になります!」
「……っ」
魔法使いはしばらく前線を見たあと、悔しそうに歯を食いしばって後ろへ下がった。
フィナはそのすぐ横で、負傷した兵士へ駆け寄る。
「座ってください」
「いや、まだ――」
「座って!」
「はい!」
勢いに押されるように兵士が腰を下ろした。
フィナはその前へしゃがみ、呼吸を整えて傷口へ手を向ける。
足裏から。
脚。
腰。
背中。
肩。
腕。
掌へ。
一つずつ別々に動かすのではなく、身体全体を一本の螺旋として繋ぎ、その流れへ魔力を沿わせる。
淡い光が傷口を包み、裂けていた皮膚が少しずつ閉じていった。
「すげえ……」
兵士が目を見開く。
「これ、回復魔法だよな?」
「はい」
「こんな強かったか?」
「最近」
フィナは少し困ったように笑った。
「ちょっと変わりました」
◇
だが。
そのフィナの前にも、一人の魔族兵が立った。
左右に短剣。
二本。
相手はフィナを見る。
杖。
後方に横たわる負傷者。
そして、ついさっきまで回復魔法を使っていた姿。
「後衛か」
「……」
魔族兵はそのまま双短剣を構えた。
「女」
一拍。
「悪く思うなよ」
「え」
次の瞬間には、もう目の前にいた。
「ちょっ――!」
右。
フィナが杖で受ける。
すぐに左。
反対側で受ける。
さらに右。
下。
斜め上。
「っ……!」
速い。
考えている暇がない。
短剣が杖へ当たるたびに腕へ痺れが走り、そのまま少しずつ後ろへ押し込まれていく。
「フィナ!」
ジンの声が飛んだ。
「大丈夫です!」
反射的に返したものの。
全然大丈夫ではない。
また一撃。
「くっ!」
杖で受けながら後ろへ下がる。
相手の方が速い。
武器も二本。
今は何とか防げている。
だが、このまま守り続ければ、いずれ必ず間に合わなくなる。
「……」
フィナは杖を握り直した。
頭に浮かんだのは、回復魔法で使っている身体の感覚だった。
足から。
腰。
背中。
肩。
腕へ。
一本の螺旋。
魔力を効率よく流すために覚えた身体の使い方。
でも。
「……これ」
双短剣が迫る。
フィナは受けながら考える。
魔力を流すためだけじゃない。
身体そのものも。
繋がっている。
「攻撃にも……?」
「何をぶつぶつ言っている!」
魔族兵が一気に踏み込んだ。
今度は左右同時。
「……っ」
考えている時間はない。
「とりあえず」
フィナが杖を下げる。
「やるしかない!」
「何?」
低い位置から杖を振り上げる。
足裏。
膝。
股関節。
腰。
背中。
肩。
肘。
手首。
そして杖へ。
一つずつ順番に動かすのではない。
全部を一本の螺旋として繋げる。
双短剣の魔族兵は、その動きを見ても避けなかった。
ただの杖。
しかも相手はヒーラー。
両手の短剣を交差させれば止められる。
「フン!」
受け止めた。
つもりだった。
ゴンッ!!
「――!?」
短剣ごと。
両腕が跳ね上がる。
止まらない。
杖はそのまま防御を押し破り。
顔面へ届いた。
グシャッ!
「――っ」
魔族兵の足が地面から浮いた。
身体がそのまま宙へ持ち上がり、後ろへ弾き飛ばされる。
ドサッ!
「……」
フィナが固まった。
「……え?」
倒れた魔族兵も動かない。
ジンが振り返る。
「フィナ」
「はい!?」
「今の何?」
「私も分かりません!」
「お前がやったんだろ!」
アインが叫ぶ。
「やったんですけど!」
フィナは自分の杖を見つめた。
「こんなに飛ぶと思わなくて!」
◇
その頃には、戦場全体の形も少しずつ変わり始めていた。
人間側は魔力の消耗によって前線を維持しづらくなり、少しずつ北門側へ押し戻されている。
魔族側も同じように疲労していたが、消耗の速度には明確な差があった。
特に。
グレド直属の兵たち。
彼らだけは、まだ大きく動きが落ちていない。
「……あそこだけ別だな」
アインが前線を見ながら言う。
「グレドが教えたのかな」
ジンは少し離れた後方に立つ大男へ視線を向けた。
「多分」
「なんで分かる?」
「動きが似てる」
「グレドまだ戦ってねえだろ」
「立ち方」
「……立ち方?」
「うん」
巨大な盾。
長槍。
それだけの重量を持っているにもかかわらず、グレドの身体には不自然な固さがない。
前。
横。
後ろ。
どこへでもすぐに動ける。
重心は安定しているのに、足は地面へ貼りついていない。
攻めにも。
守りにも。
どちらへでも繋がる。
「多分」
ジンが小さく笑う。
「すごく上手い」
「嬉しそうに言うなよ」
「気になる」
「知ってる」
◇
その時。
グレド直属の兵が、さらに三人前へ出た。
長剣。
短槍。
双短剣。
三人とも、今度は最初からジンたちだけを見ている。
「来るぞ」
アインが構える。
「今度は」
ジンも視線を返した。
「俺たち狙ってる」
「そりゃそうだろ!」
「俺三人倒したし」
「二人だろ!」
「最初の人も入れれば」
「途中で勝手に気絶した奴まで数えるな!」
「アインも二人」
「合わせんな!」
三人の魔族兵が散る。
長剣はジン。
短槍はアイン。
双短剣はフィナ。
「また二本……」
フィナの顔が引きつる。
「人気だな」
「嬉しくありません!」
三人がほぼ同時に踏み込んだ。
◇
長剣がジンへ振り下ろされる。
ジンはその軌道を外へ導きながら身体を入れ、相手の重心を横へ崩した。
だが。
相手も直属兵。
簡単には倒れない。
足を踏み直す。
「アイン!」
「見えてる!」
その踏み直した先へ、アインと戦っていた短槍の男が入り込む。
ジンは長剣の男を崩したまま、ほんの僅かに方向を変えた。
「な――」
二人の魔族兵の進路が重なる。
「今!」
アインが短槍へ革鞭を絡ませ、そのまま引いた。
短槍の軌道がずれる。
そこへ。
「フィナ!」
「はい!」
双短剣の相手を一度押し返したフィナが杖を振る。
今度は先ほどのように大きく振り抜かない。
それでも。
身体は繋がっている。
螺旋。
ゴンッ!
「ぐっ!」
双短剣の男が横へ崩れ、その身体が短槍の男へぶつかった。
「――!」
二人の動きが一瞬止まる。
アインはすぐに鞭を放し、今度はワイヤーへ持ち替えた。
短槍の足を取る。
「ジン!」
「うん!」
長剣の男が体勢を戻そうとする。
ジンはその力へ逆らわない。
戻ろうとする方向へ。
さらに少しだけ送る。
身体が流れる。
その先には、まだ体勢を戻せていない二人。
「おい――」
三人が重なった。
ドサッ!
一瞬。
動きが止まる。
アインがすぐにワイヤーを投げた。
「フィナ!」
「はい!」
フィナは起き上がろうとする腕を杖で押さえ、ジンは長剣の男の肩を取る。
三人がそれぞれ一人ずつ動きを封じた。
◇
周囲にいた兵士や冒険者たちは、その光景を呆然と見ていた。
「今の……」
「あれ、グレド隊だろ?」
「三人まとめて?」
「しかも……」
一人が、地面へ押さえ込まれた魔族兵たちを見る。
「誰も殺してない……?」
◇
その様子を。
少し離れた場所からグレドが見ていた。
「……」
隣に控えていた直属兵が口を開く。
「グレド様」
「何だ」
「あの三人……」
「見えている」
グレドの視線は、その中でも特にジンへ向いていた。
魔力をほとんど感じない。
身体強化も使っていない。
魔法もない。
それでも。
直属の兵が何人も地面へ転がされている。
しかも。
ほとんど殺していない。
「妙な男です」
直属兵が言う。
グレドはしばらく黙ってジンの動きを追い、それから僅かに目を細めた。
「妙ではない」
「……?」
「理に適っている」
腕力で勝とうとしていない。
速度で上回ろうともしていない。
相手の武器。
相手の力。
相手の位置。
地面に倒れている人間すら。
その場にあるものを、必要なら全部使う。
「相手の力を」
グレドは静かに言った。
「そのまま、自分の武器にしている」




