失恋の魔法
このお話だけでも分かるとは思うのですが、第2話から繋がるお話ではあるので、よろしければ、あわせてお読み頂けたらと思います。
「ノエルさん、『恋文セット』って効くんですよね?」
柑奈が色とりどりのレターセットを見比べている。
ここは魔法文房具店。
モノに魔法を付与することが出来るノエルが、魔力を付与したペンやノートを販売している。
人気商品はこれ、恋を叶える『恋文セット』だ。
柑奈はその『恋文セット』を先日1セット購入していたが……。
「なんでもかんでも効くわけじゃないわ。ちゃんと想いを伝えようと努力していれば、効くわよ。あと一歩を叶える魔法だもの。」
ノエルは答える。
そう、魔法は万能じゃない。
頑張ったあと、最後の一押し。
それが魔法だ。
「すみません、これ、一回り大きいノートありませんか?」
奥から声をかけられた。
「あら、漣途くん。それは魔法効果はないわ。」
魔法文房具店は冒険者ギルドの傍にあるので、普通の文房具もそれなりに売れる。
「分かってます。試験勉強用なんですが、こればかりは実力で受けたいんです。」
「なんだっけ?管理職試験だっけ?」
「口頭試問もうすぐですね。」
「そう。追い込みだよ。」
漣途は冒険者ギルドの広報官。ギルドの受付の柑奈の直属の上司にあたる。
「だったら『合格セット』もあるわよ。」
漣途は間違いなく努力しているから、この魔法は確実に効く。
「でもやっぱり魔法で受かっても自信にならないから。」
「真面目ねえ…」
「大丈夫ですよ、漣途さんだもの。」
「そうだといいけど。」
柑奈の励ましに淡く笑った。
勉強があると言って漣途は速やかに帰って行った。
「……漣途くんはお得意様でよくノートやペンを買ってくれるけど、魔法効果のないものばかり買ってくれるのよねえ…」
「それでもちゃんと結果出してますよね。」
それは確かにそうなのだ。
漣途は優秀だ。
“もう一歩”がなくても合格出来るのだろう。
「……私もね、使わなかったんです。」
柑奈がぽつりと呟いた。
「え?」
柑奈は恋をしていた。
だから『恋文セット』を買った。
「……そう…」
「だから……恋を終わらせる魔法…ありますか?」
これからも『恋文セット』は使わない。
柑奈はそう決めたということだ。
「好きだったから魔法を使おうって思っちゃったんです。」
「使っても良かったのよ。」
柑奈は頑張っていた。
恋を叶えようと頑張っていて、だから最後の一押しの『恋文セット』を使おうとした。
「ううん、駄目。」
「どうして?」
「魔法を使って私を好きになってもらったら、あの子に失礼だと思ったから…かな…」
「失礼?」
「私を好きになってくれたことに罪悪感を覚えると思ったから…それって私も……それ以上にあの子にとって幸せなことって思えないでしょう?」
「でも好きなんでしょう?」
「……好きだから、そう思ったんです。」
ノエルは思う。
柑奈は賢い。ノエルよりずっと。
「…だったら『縁切りノート』…使う?」
「縁切り?」
「このノートにね、縁を切りたいこととその理由を書いてみて。」
柑奈は今でも恋をしている。
「でも……いっしょにはいたいんです。」
だから苦しい。
「そうよ。そのためにこの魔法を使うのよ。」
今でもいっしょにいたいけど、傍にいればいるほど苦しい想いをする。
その苦しい想いと縁を切る。
そのための魔法。
「……ありがとう…ノエルさん…」
柑奈は本当に賢い。
だから、この魔法は柑奈を救うだろう。
「ちょっとノエルさん!柑奈がここにいるって聞いたんだけどー!」
「瑠璃ちゃん!何その恰好!」
”あの子”は今日も元気で賑やかだ。
しかし、せっかく『美人ノート』の効果できれいになったはずなのに今日はボロボロだ。
「クエスト帰りなの。ギルドに直行したのに柑奈いないんだもん。」
「今日は休みなの、瑠璃が帰るの明日って言ってたじゃない?」
「早く終わった!終わらせた!」
「それで探して来てくれたの?…ちょっと瑠璃、ケガしてる!」
「そー今回ちょっとヤバかったんだって!だから早く柑奈に会いたかったの!」
「分かった、分かったって。まず治療だよ…ノエルさん、ありがとうございます、また来ます!」
「え…ええ。瑠璃ちゃんお大事にね。」
「ノエルさんありがとーまたね~」
瑠璃は柑奈を攫って嵐のように去っていく。
嵐のあと、ノエルは笑ってしまった。
二人の間にあるものは恋ではないかもしれない。
だけどお互いにとって一番大切なひとは誰なのか。
「本当に手間がかかるんだから。」
いつか瑠璃は気が付くだろうか。
すぐに柑奈は気付くだろう。とても賢い娘だから。
「とっくに両思いなのにね。」
一番大切なひとが恋人とは限らないっていうことに。
お読み頂きありがとうございます。
更新は不定期ですがお待ち頂けたら嬉しいです。




