美人の魔法
「だからあたしは彼氏が欲しいんだってば!!」
ノエルは思わず耳を塞いだ。
それほど大きな声だったのだ。
「ちょっと、ちゃんと聞いてよノエルさん、あたしは超真剣だよ!」
「聞いてるわよ…瑠璃ちゃん。てか聞こえてる。耳を塞いでちょうどいいくらいよ。」
瑠璃はバンバンとカウンターを叩く。
細身に見えて瑠璃はもうすぐ中級に昇格出来そうな冒険者。
破壊力はそれなりに強い。
ノエルはカウンターの耐久性が心配になる。
「事務の奏音に聞いたの!クエスト受注に行ったらさ、めっちゃ可愛いくなってたからどうしたのって。そしたらノエルさんの魔法のお陰って言うじゃない?」
ここは魔法文房具店。
モノに魔法を付与することが出来るノエルが、魔力を付与したペンやノートを販売している。
人気商品は恋を叶える『恋文セット』だ。
「奏音ちゃんは元から可愛いわ。」
「そうだけどさー、只事じゃない可愛いさなの。そら彼氏もできるわって感じ!」
「で、瑠璃ちゃんは?お目当ての男の子でもいるの?」
「いない!」
「そっかあ…」
好きな相手がいるならノエルにも手の貸しようがあるが、いないのではどうしようもない。
「〜〜とりあえずモテたい!」
おっとこう来たか。
瑠璃は元気いっぱいで賑やかで、誰に対しても物怖じしない性格なので、誰とでも友だちになれるが、彼氏となるとなかなか苦戦するタイプ。
いっしょにいると楽しいので人気者ではあるのだが…。
「それならば『美人ノート』はどう?」
「あたし、美人だよ。」
「はいはいそうね。」
軽く受け流しながら『美人ノート』を広げる。
「美人とモテるとは違うでしょ?」
「ノエルさんみたいに?」
「……」
ノエルは白に近いプラチナブロンドに紫の瞳の紛れもない美人だが、残念さを隠し切れていない。
「奏音ちゃんには効いたのよ。」
「奏音は元から可愛いじゃん。」
「その可愛いさにパワーを付与するのが魔法なのよ。」
魔法はそれだけで効果を発揮するような便利で万能なものではない。
努力して、頑張って、その後のあと一歩を叶えるものなのだ。
「まずはこのノートになりたい自分を書いてみて。思い付く限りいくつでも。」
「なりたい自分?」
「そうよ。ただ、自分を否定するようなことは書かないでね。今の瑠璃ちゃんだって素敵なんだから。モテないけど。」
「ちょっと!何それ、仕返し?」
「あら、事実だわ。」
「もー!見てな!その『美人ノート』でモテモテになっちゃうから!」
豪快な笑い声。
瑠璃は楽しくて素敵な女の子。
ノエルは思う。
本当、男って見る目ない。
数日後、瑠璃が女の子を連れて店に来た。
前来た時はボサボサだった髪をキレイに結んでいる。
「あら?イメージチェンジ?」
「そう!このヘアアクセ、琴音モデルなんだよ。」
「ああ、あの人キレイよね。」
「そうそう。」
全体的にスッキリとしている。
『美人ノート』の効果だろうか。
「でね、この娘は柑奈。冒険者ギルドの受付の子。超シゴデキ。ノエルさんに相談なんだって。」
「あら、いらっしゃい。」
「こ…こんにちは。」
瑠璃に紹介された柑奈は、少し緊張しているようだ。
おとなしそうだが芯の強さを感じる。
「あたしもさ、最近キレイになったって言われててさ、この前ナンパとかされちゃったぜ!好みじゃないからフッてやったけどね!」
「…そう。」
調子に乗っている。
でもまあこれが瑠璃の良いところだ。
「それで相談って?」
柑奈に問いかけると、少し迷ったような表情を見せたあと、意を決したようにノエルに言った。
「こ…『恋文セット』を…!」
まあ、そうだよね。
「うっそ!マジ?好きな人いるの?言ってよー!あたしめちゃくちゃ応援するのに!」
「だからよ。瑠璃に言ったら大騒ぎするんだもん。」
拗ねたように俯く柑奈。
「えー?だってさ、柑奈ってめちゃくちゃいい娘なんだよ?幸せになって欲しいじゃん!ねえ、ノエルさん、その魔法マジ効くんだよね?」
柑奈の顔が耳まで赤くなった。
…そういうことね。
「…さあ?瑠璃ちゃん次第じゃない?」
「あたし?だから言ってんじゃん、超応援するって!」
そう言うことじゃないんだけどね。
ノエルは知っている。
瑠璃はモテモテだ。
瑠璃が思っているのとは違うけど。
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