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魔法文房具店  作者: 十一


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恋の魔法

あとちょっと。

あとちょっとだけ背中を押して欲しいとき。

そんな時に思い出してください。


魔法文房具店。


ここは、そんなお店です。


「店長、本当に効果あるんですか、これ?」

「なになに、『恋文セット』?何、恋でもしてるの?氷河くん。」

店長、ノエル・アセンブラは商品に手を伸ばす。

北方エルフのノエルの髪はプラチナブロンドを通り越してほとんど白。

瞳は紫色で、間違いなく美人なのだが、何故か少し残念な感じがする。

「…いえ、別に。」

氷河はモゴモゴと返事をしながら商品を棚に戻した。

「ちゃんと効果あったでしょ?試験に合格するノートとペンとインクのセット。」

「まあ、確かに冒険者ギルドの会計科の入職試験は合格しましたよ。だけど、僕、めちゃくちゃ勉強しましたから。魔法のお陰がどうかは…」

「わあ…なんて恩知らずな…」

ノエルは思う。

だいたい魔法を誤解していると。

「そりゃあね、頑張るのが前提よ。魔法だけで合格くれるほど冒険者ギルドは甘くない。」

「…まあ…そうですが…」

「全員が努力してる中で選ばれる、そこが魔法の出番なのよ。」

「そういうものですか?」

「そうよ。ただのノートやペンじゃないのよ。魔法のノートとペンで勉強した、だから大丈夫って思えない?」

「ああ、なるほど。」

「魔法ってね、そういうことなのよ。」


ノエルの魔法は物に様々な効果を付与すること。

しかし、どういうワケか戦闘や冒険には向いている攻撃魔法はてんで駄目。

その反面、日常生活には役立つ魔法なら得意だったので、魔力を付与した雑貨を扱う魔法文房具店を始めた。

色々な魔法を閉じ込めたペンとインク、そして紙。

それを組み合わせて魔法をかける。

人気商品はなんと言っても恋愛成就を願う『恋文セット』だ。


「それで?今日は何?」

「あ…ああ、なんか、健康にいいものがあったら欲しくて。」

「健康?どこか悪いの?」

「あ…いいえ。親に手紙を書くので…いえ、別に両親も体調を崩してるわけではないけど、でも、元気なのが一番なので。」

「…そうね。」

氷河はこう言うところによく気付く。

彼の良いところだとノエルは思う。

氷河の両親の好みの色などを聞きながら紙やインクを選ぶ。

「それより顔を見せてあげるのが一番じゃない?」

「まあ、そうなんですけどね、そろそろ決算期に入るのでなかなか…」

冒険者ギルドの決算期は文字通り戦場だ。


「あの、すみません。」

「あら、奏音ちゃんこんにちは。」

もう1人のお客さん。

「あ、こんにちは氷河さん。」

「あ…ああ、こんにちは。」

奏音と氷河は冒険者ギルドの同僚だ。

氷河は会計科で奏音は事務員で所属は違うが。

「あら、『美人ノート』の効果あったわね、いつもよりさらに可愛い!」

「もう、ノエルさんったら!」

お世辞ではない。

奏音は可愛い。

ノエルは本人に何度も言ってはみたが、奏音本人だけはそれを認めない。

「あの…ノエルさん、相談なんだけど…」

と、耳打ちで買い求めたのは『恋文セット』だった。


「…で、氷河くんはいつまでここにいるつもり?早く帰ってご両親に手紙を書かなくていいの?」

「いや〜なんか…」

「何よ?」

「奏音さん、もしかして…『恋文セット』買ってました?」

「だったら何?」

「…いえ……」

「何よ?」

モゴモゴと歯切れ悪く俯く。

奏音が誰に『恋文セット』を使うのか気になるのだろう。

それを声には出さないが。

「…ノエルさんも『恋文セット』で手紙を書いたりしますか?もし、好きな人がいたら。」

「…書かないわ。」

「…え?どうして…」

「魔法で私を好きになってくれたとして、それを信じ続けられないからよ。本当に私を好きなのか分からなくなるもの。」

「『恋文セット』はどんな恋にも効果あるんですか?」

「…いいえ。」

「…ええ?」

「叶わない方が良い恋もあるし、例えば…そうね、勇者の蒼真・ペンドラゴンとかに『恋文セット』で手紙を書いても恋愛成就するわけないわよ。だってあっちはこっちを知らないもの。」

「まあ…それはそうですね…」

「魔法はね、いっぱい努力して頑張ったあとの最後の一押しなの。努力もせずになんでも叶えるような都合の良いものじゃないわ。」

氷河の手に『健康セット』を渡す。

「だから、これには効果あるわよ。心をこめて手紙を書いてね。」


氷河はとても優しい。

奏音もとても可愛い女の子。

ノエルは思う。


奏音は氷河に手紙を書く。

2人はきっと結ばれる。


ノエルは自分が恋しても魔法は使わない。

ノエルの魔法は効く。

それで恋が叶ってもそれを恋だと言えるだろうか。


奏音は違う。

努力したのだ。

話し掛けて、『美人ノート』で自分を磨いて、想いを伝える自信をつけて。

だから『恋文セット』の魔法は効く。

魔法を使ってでも手に入れたい人がいる。

それが恋。


「そんなの、お見通しよ。」

ノエルは笑った。


近いうちに氷河と奏音が揃って魔法文房具店へ来るだろう。

ー…きっと、手を繋いで。

お読み頂きありがとうございます。

更新は不定期ですが、お待ち頂けたら嬉しいです!

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