応援の魔法
「わあ、素敵!ノエルさん、これ、新デザインですよね?」
「流石陽菜ちゃん、お目が高い。綺麗でしょう?昨日入荷したところなの。だからまだ魔法をかける前なのよ。」
ここは魔法文房具店。
モノに魔法を付与することが出来るノエルが、魔力を付与したペンやノートを販売している。
人気商品は恋を叶える『恋文セット』だ。
とは言え、魔法をかけていない普通の文房具も販売している。
客の希望を聞きながら魔法をかけることもあるし、普通の文房具を買いに来る人もいる。
せっかく魔法をかける特別な文房具なのだから、デザインや使い心地にはこだわった文房具ばかりだ。
陽菜のように新作デザインを求めて度々チェックに訪れるお客さんもいるのだ。
「陽菜ちゃん、何か願い事はないの?お得意様だからサービスしちゃうわよ?」
「えーどうしようかなあ……」
そう提案してみると、陽菜ははにかんでおっとりと笑った。
陽菜はふわっとした綿菓子みたいな女の子。
これでも冒険者ギルドの受付をしている。
ノエルからすると、よくこんなたおやかな女の子が、武装した物騒としか言い様のない面々相手の仕事が出来るものだと、感心もし、心配もしている。
「願い事って、自分のこと以外でもいいんでしょうか?」
少し考えたあと、陽菜が言った。
「え?どういうこと?」
「…もうすぐね、管理職試験があるんです。」
「ああ、漣途くんが受けるって言っていたわね。」
漣途は冒険者ギルドの広報官。
魔法文房具店のお得意様の1人だが、魔法をかけていない普通の文房具ばかり買って行く。
曰く、魔法の力で成功しても自信にならない、と言うストイックさ。
当然のように優秀で、魔法の力など使わなくても合格するだろう。
「……合格…したらいいなって思って…。魔法の力なんて、きっと要らないかもって思うんですけど……」
終わりの方はやっと聞こえるくらい小さな、囁くような声。
耳まで真っ赤。
ーーなるほど、そういうことね。
「それよりも『恋文セット』はいかが?」
「え…ええ!?」
今日一番の大きな声。
何を驚いているのやら。
「ち……違…違うんです、そんな…!わたし、ただ尊敬してるだけで…!」
手まで赤い気がする。
ノエルから見れば一目瞭然なのだけど。
「……わたし…こんな風にふわふわしてて、仕事も柑奈さんみたいにテキパキ出来なくて…いつも助けてもらっていて…」
「あのね、柑奈ちゃんと比べたら誰だってふわふわよ。あの子はそういう種類の化け物だと理解しなさい。」
同じく冒険者ギルドの受付の柑奈は、受付に置いておくのが惜しいレベルのシゴデキ女子だ。
「そう、漣途さんもそう言ってくれています。気にしなくていいって。優しいんです、とても。あと、柑奈さんも。」
流石は漣途。そして柑奈。
「わたしが漣途さんに何かしてあげられることがあるとしたら、応援……ていうか、それしか思い付かないんです…」
漣途はなんでも自力でなんとかしちゃう人だから。
ああ、まったくもどかしい。
なんて罪作り。
「……分かったわ。」
「本当ですか?」
「『合格ノート』を陽菜ちゃんに渡すわ。」
「わたしに?」
「そう。漣途くんは自分の力でどうにかしたい子だから、私としては余計なことはしたくないわ。」
「あ…そうですよね……」
「でもね、陽菜ちゃんの応援はそれとは違う魔法だと思うのよ。」
「そうでしょうか…」
「だからね、陽菜ちゃんはこの『合格ノート』を必ず漣途くんに渡すのよ。」
「え…」
「漣途くんはね、応援してくれている人がいるってことを知るべきなのよ。」
漣途が魔法文房具店を訪れたのはその5日後だった。
「で?どうだった?管理職試験。」
「受かりました。」
まあそうでしょうとも。
「ノエルさんの入れ知恵ですよね。」
「あら、なんのこと?」
漣途がポケットから出したのは、陽菜に渡した『合格ノート』だ。
ちゃんと渡すことが出来た。
陽菜は頑張ったのだ。
「なんの魔法をかけたんですか?」
「分かっているくせに。」
「…まあ、そうですよね。」
魔法を必要としないと言う漣途。
だけど知っていて欲しい。
この先、どうにもならないことがあった時、最後の手段に魔法があることを。
漣途にはその資格があることを。
「受け取ってくれて良かったわ。あなた、なんでも実力で頑張る人だものね。」
「まあ…いつもだったら受取りませんね。」
「え?」
漣途のしたり顔。
「あ!」
まったくこの男は!
「僕が誰にでも優しくするようなヤツだと思います?」
ーー思いませんとも。
この男には『恋文セット』すら必要ない。
本当の本当に憎たらしいったら!




