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008:証券口座を開設しよう

008:証券口座を開設しよう


「最高に狂ったマネーゲームの始まりだ!!」


次の瞬間、玉座の間の空気が一変した。

ビフロンスが指をパチンと鳴らした瞬間、空間全体に赤い亀裂が走り、重力そのものが変質する。

漆黒のローブが意志を持つかのように逆立ち、ビフロンスを中心に「黄金の貨幣」と「燃え盛るチャート」の幻影が竜巻となって巻き上がった。


俺たちが次の瞬間に立っていたのは、足元から天井まで、世界中の金貨と宝石、そして輝く電子データが山積みになった、目も眩むような「黄金の宝物庫」だった。


「う、うおおお……!!」


俺は震える手で、足元にこぼれ落ちていたダイヤモンドを拾い上げる。

VRゲームの中のはずなのに、ズッシリ重く冷たく光輝いている。

ダイヤモンドを通って来た光が、俺の網膜で七色にはじけた。


ここにある財宝の数々が、もし現実のものだったら……。

俺の脳裏でありとあらゆる欲望を満喫し、札束風呂で美女達と笑う、俺の姿がリアルに浮かんできた。


「鈴木良平! 俺が作った『株モンワールド』は、何故だか地球の株式と繋がってしまった。これは地球の危機であり、おまえにとってのチャンスでもある」


ビフロンスが鎌を突き上げ、黄金の光の中で高らかに宣言する。


「この世界で呼び出した株モンのレベルが上がれば、現実の株価も上がる。つまり、おまえが投資家として成長することは、そのまま地球の危機を救うことと同意なのだ! 運命の風が、今まさにおまえの帆を打っているぞ!!」


「マジか……マジで俺の人生、黄金期突入じゃねーか……!!」


俺の胸が熱く滾る。

ずっと惨めで、薄暗いボロアパートでカッパ蟹せんを啜っていた俺の人生が、ついに報われる。

やるぞ。やってやる!

俺の「利益カネ」を邪魔する奴は、この俺が全員ロスカットしてやるッ!


「……っ! 感じるぜ! 人生の追い風をッ!!」

「ははは! いい目だ、投資家の目だぜ!」


テンションは最高潮。

俺のボルテージはメーターを振り切っていた。

魔王も、俺も、最高に熱い。


このまま世界を救う伝説の戦いに身を投じるんだ!


「さあ! 鈴木良平よ! 世界を救い、富を得るために……お前にやってもらわなければならないことがある!!」


ビフロンスの眼窩の炎が、ドラマチックな紫光を放つ。

俺も拳を握りしめ、叫び返す。


「言えッ! なんだ! どんな過酷な試練でも受けてやる!!」


ビフロンスは神妙な面持ちで、俺の肩に骨の指を置いた。


「……まずは、【証券口座の開設】だ」


玉座の間が、しん……と静まり返った。


「え?」


「どこか推しの証券会社はあるか? 会社によってポイントが貰えたりするが、自分の取引スタイルに合った手数料で選ぶのがおススメだ」


「……あ、はい?」


壮大な冒険の予感が、スマホの登録フォームによって綺麗さっぱり消し飛んだ。



俺はソファーの隅で、無表情にスマホを操作し始めた。

正直、どの証券会社を選べばよいか分からなかったので、ネット検索でトップに出てきた大手ネット証券を選んでやった。


それを見て、ビフロンスは訳知り顔で「ほう、そこを選んだか……。まあ悪くない選択だ。ククク」とか何かほざいていた。


ビフロンスがホログラムでリアルタイム解説を始める。

「まずはメールアドレス登録→氏名・フリガナ・性別・生年月日・国籍・現住所・電話番号をポチポチ入力しろ。職業は正直に『無職』でいい。次に『特定口座(源泉徴収あり)』を選べ。税金自動で引かれるから初心者安心だ。ついでに『新NISA口座』も同時申込のチェック忘れるなよ。非課税枠がデカいからな!最後に取引手数料の設定も見ておけよ、最近はゼロ円コースとかもあるからな!」


「住所は……よし。あ、マイナンバーカード。そんなのボロアパートのどっかだぞ。持ってきてねーよ」


「しょうがないな、ほら魔王の力で取り寄せてやったぞ」

「おい! 個人情報保護法って知ってるか!? コンプライアンスゼロかよ! 魔王の力で他人のマイナンバーカード窃盗するな!」


「残念だったな。魔王に日本国憲法は適用されない。いいからスマホカメラで表面と裏面をパシャパシャ撮れ! 厚みも撮るんだぞ! あとは自撮りもしてeKYC(顔認証)完了だ。全部入力したら『申込』ボタンを押せ!」


「あ、はい。押しました」


「よし、普通なら審査待ちで1〜2日かかるが……今回は特別だ!! 魔王の力の片鱗をみせてやろう!よく見ておけ!鈴木良平!【たった一度だけ、真なる魔法を見せてやる!!】」


ビフロンスが骨の指を天高く突き立てると、玉座の間の空間がビリビリと悲鳴を上げた。

轟音と共に、床と天井を繋ぐ無数の漆黒と真紅の魔法陣が複雑に展開し、古代の契約文字が空間を埋め尽くしてゆく。


「な、なんだこれ……っ!?」


部屋を支配する重力が狂った。

足元が浮き上がり、台風のような暴風が俺とアリエルの髪を逆巻かせる。

部屋全体が激しく発光し、青白い雷光が乱舞した。光の奔流が空間を切り裂き、俺の網膜を焼き焦がさんとばかりに閃光を放つ。


「ただのWeb審査の短縮に高次元エネルギーを無駄遣いしないでください!」

吹き飛ばされないよう俺の腰に必死にしがみつきながら、アリエルが金切り声を上げる。

「だからあなたの魔界はエネルギー収支が赤字になるんですよ!」


俺もソファーの肘掛けに爪を立て、何とか身体を沈めた。


目の前で、ビフロンスが凄まじいエネルギーを一点に凝縮しているのが見える。


その中心には、放電する『黒い特異点』が回転し、現実世界へと伸びる赤い光の鎖をねじ伏せている。


黒い特異点が周囲の空気を吸い込んでいく。

床の宝石たちが空気と共に吸い込まれていっている中、ビフロンスは両手を広げ、古い形の英語で何かを呟いていた。


“Those who weepeth for the tide that hath passed, shall never behold the dawn”

「流れ去る時を嘆く者に、新たな夜明けは訪れない」

“Without the grief of loss, thou shalt never touch the truth”

「消失の悲しみを知らずして、真理には至らず」

“When the frost of thine eyes commandeth the flame within thy chest, a hero shall be born”

「胸に灯る炎を、瞳の霜が制する時、英雄は生まれる」


「……ABRACADABRA」

(世界よ、我が言葉に答えよ)


ビフロンスが魂を振り絞るような叫びを上げ、

その巨大な魔力をスマホに向かって叩き込んだ。


直後――。


……ピコリン。


スマホが、のんきな通知音と共にブルブルと震えた。

画面には『【自動送信】証券口座開設手続き完了のお知らせ。平素は格別のご愛顧を賜り……』という、あまりに事務的なポップアップが浮かんでいる。


ログインIDと初期パスワードがメールで届き、本来なら3日くらいかかりそうな審査が無事に完了したようだ。


ビフロンスは消耗が激しいのか、片膝をついて骨の癖に荒い息を吐く。


「ハァハァハァ!! どうだ鈴木良平! これが魔王の絶大なパワーだ!! 怖かろう? 恐ろしかろう!? 矮小な人間よ! 我が威光にひれ伏せ!!はははははは!!」


肩で息をしながら、それでも何かやり遂げた感で笑うビフロンス。


「……っす」


俺は届いたログインIDと初期パスワードをメモしながら、遠い目をした。





◇教えて!株モン博士!! ~証券口座を開く時の注意~


博士:「やぁやぁ、投資家諸君! 私がこの世界の真理(と爆益)を説く、謎の株モン博士だゾ☆」


助手:「……明らかにビフロンスですよね? その安っぽいカツラと白衣は何ですか?」


博士:「細かいことは気にするな! さて、第8話の復習だ。株取引をするための特別な口座! それが『証券口座』だ!


正直、大手の証券口座を選べば最低限の株取引は出来るし、後から移動することも出来る。口座を開く時の4つの鉄則はこれだッ!」


① マイナンバーカードを準備せよ!


理由: スマホで撮るだけの審査(eKYC)なら爆速で終わるゾ! 写真付きカードがないと、通知カード(ペラペラの紙)と免許証を組み合わせて郵送したり、認証まで時間がかかるから注意だ。


② 特定口座(源泉徴収あり)を選べ!


理由: 証券会社が税金の計算を全部代行してくれる。これを選ばないと、一年に一度「確定申告」という名の最強のボスモンスターと戦うハメになるゾ!


③ 新NISA口座はセットで申し込め!


理由: 本来、株の利益には約20%の税金がかかるが、NISAならそれが『0円(無効)』になる! 日本人のみが使える最強のバフスキルを使わない手はないゾ。


④口座を開いたら手数料コースを確認せよ!


助手:「SBIや楽天なら、設定を変えるだけで取引手数料がゼロになるんですよね」


博士:「そうだ! 証券会社によって名前は違うが『ゼロコース』とか『ゼロ革命』とか呼ばれる手数料無料プランが大手には用意されている。口座を開いたらまず確認して切り替えるのだぞ! 初心者がうっかり手数料コースを変え忘れて、知らぬ間に手数料を払い続けるのはよくある話じゃからな!」


助手:「証券口座を決める時、確認しておきたい項目ですね」


博士:「普通の銀行口座を開いたことがあるなら、証券口座も楽勝のはずだ! さて、口座ができたら次は軍資金の入金だ。 それでは、次のマーケットで会おう!」


助手:「え? これ、シリーズ化するつもりなんですか?」


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