029:株モン THE WORLD 〜Those Who Walk Beside You〜
029-06:株モン THE WORLD 〜Those Who Walk Beside You〜
全てが終わり、俺は力なく横たわるカッパ蟹せんの元へ歩み寄っていた。
カッパ蟹せんの輪郭は薄れ始めており、消滅が近いことが痛いほど伝わってくる。
「カッパ蟹せん……」
俺は出来るだけ優しく、その巨大な甲羅にそっと触れた。
少しでもいい、何かコイツの苦痛を和らげることは出来ないのか。何か、コイツのために出来ることは無いのか。
気がついた時には、視界が涙でぐしゃぐしゃに歪んでいた。
「お前……消えかけの最後の力を使って、俺たちに稽古をつけてくれてたんだな……? 敵に操られ、存在が消えてしまうと分かっていて……それでも、俺たちのためにその命を使ってくれていたんだな……!」
喉に引っかかる言葉を、なんとか搾り出す。
一度こぼれ落ちた感情はまるで決壊したダムのように、涙と言葉となって後から後から溢れ出してきた。
「ありがとう……! 小さい頃からお前が大好きだった! 婆ちゃんと一緒に笑いながら食べた! 友達の鼻に突っ込んでいっぱい笑った! 勉強で眠くなった時、ワサビをつけて眠気を飛ばした! 金が無い時、味噌とかつけて味変しながらしのいだ!! ありがとう……本当に、ありがとう!!」
今の俺にできるのは、もう、感謝を伝えることだけだった。
ふと、カッパ蟹せんの大きなハサミが静かに差し出される。
思わずそのハサミに両手を添えた。
――その瞬間、カッパ蟹せんの果てしない感情と記憶が、俺の脳裏へ直接流れ込んできた。
何十回、何百回と繰り返される商品開発の試行錯誤。
泥臭く全国を駆け回る営業マンたちの姿。
ある人は叱られ、ある人は感謝され……気が遠くなるほどの数の人間が、カッパ蟹せんにかかわってきた記憶だった。
もっと古い記憶も映し出される。
小さな子供が、母親が作ってくれたえびのかき揚げを笑顔で食べている光景。
戦後の何もない焼跡で、腕まくりをして立ち上がる男の背中。
経営が上手くいかず、諦めかけた絶望の夜。
「誰もが手軽に買えて、栄養があって、一口食べたらやめられなくなるようなお菓子を作りたい」と、泥まみれになりながら鮮度の良い海老をかき集めた男たちの執念。
新しい工場に、焼き立ての商品を奪い合うようにして押し寄せるトラックの群れ。
そして――最後に届いた記憶は、7色の光で眩しく輝いていた。
お母さんが小さな赤ちゃんに、嬉しくそうにカッパ蟹せんを食べさせている光景。
疲れた男が、夜の部屋で酒の肴に寂しくカッパ蟹せんをかじっている姿。
小さな子供たちのパーティーで、みんなが笑顔で奪い合って食べている瞬間。
世界中のありとあらゆる人々が、サクサク、カリカリと、幸せそうにカッパ蟹せんを口に運んでいる。
その一つ一つに寄り添い、ある時は共に喜び、ある時は共に悲しみ……このカッパ蟹せんは、俺たちが気づかないところで、ずっと俺たち人間を見守り続けてくれていたのだ。
最後に俺の胸を包み込んだ暖かな感情。
それは、このカッパ蟹せんが、俺たち人間を心の底から『大好きだ』という、純粋すぎる愛だった。
「ッ……ぅ……あああああッ!!」
気がついた時には、俺は恥も外聞もなく声を上げて泣いていた。
「俺も……! 俺もお前が大好きだ! 忘れない……! たとえお前が消えたとしても、絶対に忘れないから!!」
嗚咽が混ざり、自分の声が大きかったのか小さかったのか、言葉として意味をなしていたのかも分からない。
それでも、俺の想いは届いたはずだ。
カッパ蟹せんはすでに半透明になり、光の粒子となって崩れかけていた。
巨大なハサミが、まるで俺の頬の涙を拭うように、優しく、柔らかく動く。
『――アリガトウ……偏食ニハ、キヲツケテネ――』
最後の最後、消えゆく間際の言葉。
それが俺の不摂生を心配する言葉だなんて……そうか、お前は……こんな俺のことまで、ずっと見ていてくれたんだな。
込み上げた感情に胸が詰まり、別れの言葉が口から出るのが一瞬だけ遅れた。
その僅かな間に、カッパ蟹せんは光の粒子となって、俺の目の前から文字通り消え去ってしまった。
「あっ……」
天へと昇っていく眩い光の粒子。
それを見つめているうちに、心と体の疲労が限界を超えたのだろう。
緊張の糸がプツリと切れ、俺の意識は深い闇の中へと落ちていった。
◇
◇
◇
真っ暗な意識の底から、ゆっくりと浮上していく感覚。
全身の骨が軋むような激痛と、魂が擦り減ったような深い疲労感。
だが同時に、思考の輪郭すらぼやける微睡みのなかで、身体全体がじんわりと暖かな何かに包まれているのを感じていた。
カッパ蟹せんやゼロ、エーツーたちが命がけで遺してくれた想いの温度と、胸の奥で静かに脈打つ、今までにない確かな熱。
その愛おしい余韻に浸りながら、俺は静かに現実へと意識を戻していく。
俺は重い瞼をうっすらと開けた。
視界に飛び込んできたのは、柔らかそうな光と――目の前に立ちはだかる、2つの圧倒的な『山』だった。
(山……? 天井に、あんなでかい山なんてあったか……?)
ぼやける視界を凝視する。
その2つの巨大な山の間から、こちらを見下ろす美しい顔と目が合った。
どこかエキゾチックな整った顔立ちと凛とした不思議な色の鋭い瞳。
俺の頭には、なぜか信じられないほど上質な柔らかくて温かな太ももの感触が伝わっていた。
あ、これ……膝枕だ。
つまり、俺の目の前にあるこの膨大な質量の正体は――
「――っ!!? おっぱい!! デッケーーーーー!!!???」
「っ……!?!? ひゃ、ひゃあぁっ!???」
あまりのインパクトにガバッと跳ね起きると、膝枕をしてくれていたPAC-3の美女が、見たこともない奇声を上げて大きく後ろへ跳びのいた!
「オ、オーナー様!? な、何を……何を叫んでおられるのですかッ!!?」
さっきまで凛としていた隙のない自衛官風の面影はどこへやら。
彼女は耳まで真っ赤に染め上げ、豊かな胸元を両腕でぎゅっと隠すようにして、モジモジと身体を縮こまらせていた!
「で、デカい! デカすぎるだろ何なんだその胸部装甲!!? 一体何から日本を守る気だ!!」
「わ、わたしだって好きでこんな胸をしているわけじゃありません!! セクハラです! セクハラで訴えますよ!!」
普段の固い口調を必死に保とうとしながらも、潤んだ瞳で顔を真っ赤にしてモジモジと身をよじるPAC-3。
そのあまりのギャップと破壊力に、俺が「お、おう……すまん……」と気押されていると――背後から、氷点下を遥かに下回る凄まじい極寒の視線が突き刺さった。
「……最低です、鈴木良平。PAC-3ちゃんが、床で放置はあんまりだって、膝枕しててくれたのに……」
「やっぱり、マスターは床に放置が正解だったんですよ〜」
「カメぇ……(ゴミを見る目)」
振り向くと、そこにはぐったりと身体を寄せ合いながら、完全に引き切った冷ややかな瞳で俺を睨みつけるアリエル、ルミナススライム、そして亀ちゃんの姿があった。
あまりにも冷徹なトリプル冷眼。
刺さる。
心の傷口に塩を塗られるレベルで刺さる。
「ち、違うんだアリエル! これは不可抗力というか、起きた瞬間に目の前にあの2つの山が迫ってたら誰だって――!」
「言い訳は見苦しいぞ、鈴木良平。」
必死に弁明する俺の横で、腕を組んだビフロンスがフッと鼻で笑い、ニヤリとニヒルなしたり顔を浮かべた。
「……まあ。PAC-3の驚異の技術力は、控えめに言っても超プライム級だ。投資家として先っちょだけでもつまんでおきたい気持ちもわからんでもない……」
「最低です、ビフロンス! さすがゲームで女の子キャラに際どい衣装を着せて喜ぶ変態クソ魔王です」
「なっ……私を誰だと思っている! 地獄の公爵に対してなんという不敬な口を――」
ギャーギャーと騒がしくなり始める玉座の間。
顔を真っ赤にして胸を隠したままプイッと横を向くPAC-3と、呆れ果ててため息をつくアリエル。
さっきまでの死闘と、カッパ蟹せんとの涙の別れが嘘のような騒がしさだった。
だが、このアホみたいなやり取りのおかげで、俺の胸の奥に澱んでいた冷たい悲しみが、少しだけ柔らかく解けていくのを感じていた。
「それにしても、良いのか鈴木良平? そろそろPAC-3を引っ込めないと、この前みたいにナイアガラ(暴落)に突入するかもしれないぞ?」
ビフロンスが不吉なことを言い出し、俺は慌ててスマホの画面を確認した。
透過UIに映る三菱重工のチャートが、不穏な微振動を始めている……!
「おいビフロンス! なんかヤバそうだぞ!? でも良いのか? ここでPAC-3を売却してしまって……」
「ゼロやエーツーと違って、PAC-3は通常のプライム体だ。売却しても、再度市場で買い直せばいつでも再召喚が可能だ」
それを聞いて胸をなでおろした。
PAC-3を見てみると、耳まで真っ赤にしてモジモジとこちらをうかがっている。
正直、可愛すぎる。
おっぱいもデカいし。
だが――このまま召喚を維持し続けて資産を溶かすわけにはいかない!
俺は泣く泣くPAC-3を売却(SELL)することにした。
「PAC-3、今回は本当に助かった! また機会があったら必ず呼び出すから、それまでまたな!」
「はい! お役に立てて光栄です!! 本来なら私のような兵器が活躍するような事態が起きないのが一番ですが……もしその時が来たら、全力でお力になります!!」
そう言って、彼女は胸を張って完璧で美しい敬礼を返してくれた。
俺は理性を総動員して胸元から視線を外し、全力でカッコいい笑顔を作ってみせる。
PAC-3は俺の顔に満足したように、柔らかく微笑んで敬礼を解いてくれた。
(あぁぁぁちくしょう、かわいいな!! 亀ちゃんとルミナスを売り払ってPAC-3と旅してぇぇぇぇ!!)
一瞬だけ最低な思考が頭をよぎったが、背後に言い知れぬ極寒のプレッシャーを感じ、俺は慌てて売却ボタンをスワイプした!
『ピコリン♪ 三菱重工銘柄:PAC-3を売却しました』
次の瞬間、透過UIのチャートがカクンと垂直落下を始めた。
アッブネーーーーー!!! 間一髪セーフだ!!
俺がスマホを見て冷や汗を拭っていると、背後からカタカタと骨を打ち鳴らす拍手の音が聞こえてきた。
「鈴木良平!! この度は、本当によくやってくれた!!」
骨魔王のビフロンスだ。
「想定を超える大成果だ! 正直、お前くらいは途中で死んでいると思っていたのだがな! 戻ってきたら変異体株モンの撃退どころか、敵の黒幕の撃退まで成し遂げていたとは! 愉快! まことに愉快である!!」
豪快に笑っているが、コイツ……俺が死ぬのを前提に無茶振りしやがってたんだな!
粉々にして、カルシウムとして製菓会社に売り込んでやろうか!!
「さて鈴木良平! お前は気づいていないと思うが、いくつか偉業を成し遂げた。一つ、オリハルコンコアを死守して世界を救ったこと。一つ、今まで不明だった本当の敵の尻尾を掴めたこと。そして最後の一つ――株モンに、本当の意味で認められたことだ」
そう言うと、ビフロンスはローブの胸元から何かを取り出し、俺の前へと差し出した。
そこにあったのは――2つの虹色に輝く美しい結晶と、1つの青く輝くホープストーンだった。
「これは……?」
「ごく一部の株モンが稀に生成する『ホープクリスタル』だ! 株モンが自らの想いを本当に託したいと認めた相手に贈る、超高純度の結晶だな。一つはゼロ、もう一つはカッパ蟹せんからの贈り物だ。アンド最後の一つはエーツーのホープストーン……まぁ、エーツーは『まだまだ精進が足りん! 頑張れ』という激励の証だと思うぞ」
「ははは……なんだよそれ。でも、エーツーらしいな」
俺は骨の手から、2つのホープクリスタルと1つのホープストーンを大切に受け取った。
手のひらの上で、冷たくも温かい光が網膜を熱く焦がす。
それは、世界中のどんな高価な宝石よりも価値のある、俺たちの『絆』の証明だった。
「よし、それでは今後の話をしよう。正直、あまり時間が無い。真の敵の尻尾は掴んだが、逆を言えばこちらもオリハルコンコアという切り札の存在を敵に晒してしまったわけだ。よって私は、オリハルコンコアと共に世界の裏側に潜ることにする。したがって、お前たちに対する直接支援が難しくなる。本当にすまない」
ビフロンスが真摯に頭を下げてきた。
良い奴過ぎる、コイツ……本当に魔王か?
「まぁ、まったく支援ができないわけではないが、私が世界に干渉すればするほど、敵側はこちらの位置を把握しやすくなってしまう。今回の件は『潜水艦ゲーム』みたいなものだ。相手にこちらの場所を特定されないように潜伏しつつ、敵本体の居場所を特定してトドメを刺す……そういう戦いになる」
「結局、私たちは何をすればいいのですか?」
アリエルが尋ねる。
「うむ。基本的には今までの方針と変わらん。普通にゲームを進めておかしい所を見つけ、万が一敵が現れたら私を呼び出すのだ。ただし、私が外に出るということは、それだけコアが危険に晒されるということ。本当に敵が目の前に居る時以外は呼び出さないでくれ」
そこまで話した時、空間全体にゴーン……ゴーン……と重厚で低い鐘の音が響き渡った。
ゴゴゴ……と、玉座の間の天井や壁が、眩い金の光の粒子となって端から静かに解け始めていく。
透過UIの時計が示している刻限は、刻一刻と迫っていた。
「どうやら15:30(大引け)になったようだな。このチュートリアル空間が閉じてしまう」
骨の身体を煙のように揺らめかせながら、ビフロンスが寂しげに、だがどこか満足そうに呟いた。
「もう……行ってしまうのですか……?」
アリエルが切なそうに胸の前で両手をギュッと握りしめる。
「あぁ。アリエル、後の事は頼む。俺を呼び出す時は、いつもの秘匿回線を使ってくれ」
消えゆく光の中で、ビフロンスの姿が徐々に透けていく。
これが彼と話せる最後のチャンスになる、そう直感した俺は、覚悟を決めてその骨の背中に向かって声を張った。
「なぁ、ビフロンス……ッ!」
振り返るビフロンスの眼胞に、ゆらりと蒼い鬼火が灯る。
俺はカッパ蟹せんが消えていった場所に一瞬だけ視線を落とし、すがるような想いで言葉を紡いだ。
「お前なら……お前なら、カッパ蟹せんを……」
「なぁ、鈴木良平。前にも話したよな?」
俺の悲痛な問いかけを、ビフロンスは骨の指先を口元に立てて静かに遮った。
「……?」
「とある精霊が、ツボに封じられた話……」
唐突な問いかけに、俺は思わず眉をひそめた。
(ツボの精霊……? なんだよ急に……?)
脳裏を掠めたのは、俺が初めてビフロンスに会った時のシーンだ。
あの時は、俺の到着が遅すぎて、俺を殺すって……
(……あっ! まさか、お前――!!)
「なんだ、察しが悪いな。俺は短気だからな……俺をツボから出した時に俺に殺されないよう、早めに出してくれよ!!」
少し遠回りなビフロンスの軽口は、きっと骨なりの激励でもあるのだろう。
まったく、めんどくさい奴だ!
でも、その言葉の裏側で、お前なら出来るだろ? って確かな信頼を感じることが出来た。
胸の奥から、何か熱い物があふれてくる。
俺はその信頼に応える為に、ニッと歯を見せて笑い飛ばした。
「へっ! 最短ボーナスで、四つの願いを叶えてもらうぜ!!」
ビフロンスが「クックック……」と喉を鳴らし、高く骨の手をあげる。
俺はその手のひらに向かって、迷いなく自分の手を全力で叩きつけた!
パシィィィィンッッ!!!!
静まり返った玉座の間に、乾いたハイタッチの音が力強く響き渡った。
◇
あの後、ビフロンスの向かう逆の方にあった木製の扉を超えて俺はこの株モンワールドに降り立った。
どこまでも広がる草原に、心地よいそよ風が流れている。
相変わらず感触が、VRゲームのそれじゃない。
グリグリと地面の感触を確かめていると、アリエルが近づいてきた。
「鈴木良平。すいません、大変なことに巻き込んでしまったかもしれません、もし、貴方が望むなら、今ならまだ…」
「なぁ、アリエル。さっきカッパ蟹せんと繋がった時、少しだけど色々な思いに触れることができたんだ、そこら辺のコンビニに売ってる一個のスナック菓子なのに、本当にすごい人数の人間が怒ったり笑ったりしながら……」
「……鈴木良平」
「俺さ、婆ちゃんと食べてた時も、友達とふざけてた時も……ただ『うまい』としか思ってなかった。けど違ったんだ。あの小ちゃなお菓子一つに、どれだけの人が想いを込めて、何十年も俺たちを笑顔にし続けてくれたのか……カッパ蟹せんの記憶に触れて、知っちまったんだよ」
手の中にある虹色のホープクリスタルを、壊れないよう、だけど絶対に解かないように強く握りしめる。
手のひらから伝わるのは、あたたかく、どこか愛おしい結晶の重みだ。
「あいつらのそんなあたたかい想いが……あんな化け物に踏みにじられて、操られて……。なのにカッパ蟹せんは、最期まで俺たちを守って、命がけで背中を見せてくれた。ゼロもエーツーも、俺を信じてバトンを託してくれたんだ」
ぐっと奥歯を噛み締めて、少しだけ緩くなった涙腺を引き締める。
「みんなの想いを知っちまったのに、ここで俺が背中を向けたら……あいつらに合わせる顔がねぇだろ。あいつらが俺に命を預けてくれたんだ。……ここで止まったら、男がすたるって奴だ」
アリエルの心配を受け止めつつも、俺の決意は揺るがない。
アリエルの瞳を見つめる。
「引き返す? 無理無理。こんな面白くて、熱い想いが飛び交う世界、ここで俺が降りたら、一生後悔するよ。それに……」
俺は、少し照れくさそうに、でも真剣なトーンで笑った。
「叶えてほしい願いも、できちゃったからさ」
アリエルは、俺の言葉をじっと聞いていたが、俺の最後の言葉を聞いて、全てを察したように柔らかく微笑んだ。
彼女の視線は、俺が握るホープクリスタルに、そしてもう一度俺の目へと向けられた。
「願い、ですか……? うふふ。そうですね」
彼女は、俺の願いの中身を察し、同意と期待を込めて言った。
「彼らにまた会えると、良いですね。……鈴木良平」
「ああ! 当然だ! 株モンでガッポガッポ稼いで、絶対にもう一度買い戻してやるからな!!」
俺は不敵にニヤリと笑うと、どこまでも青い空に目を向けた。
草原のそよ風が、俺の決意を祝福するかのように吹き抜ける。
「さて! 世界を救うトレードをはじめますか!」
◇
株モン THE WORLD 〜Those Who Walk Beside You〜
【 ▶ スタート 】
【 コンティニュー 】
【 設定 】
ピコリン♪
◇
『Soaring to the Moon!』
(月まで駆け上がれ!)
(Verse / Aメロ)
Raging like a Bull, roaring like a Bear!
(猛る雄牛のように、吼える大熊のように!)
A Falling Knife comes dropping from the air!
(空から鋭く振り下ろされる落ちるナイフ!)
Danger on the chart, but we’re a world apart,
(チャートは危険でいっぱいだが、俺たちはへこたれない)
Catch it with your soul, make a brand new start!
(魂で受け止め(掴み取り)、ここから新しい伝説を始めるんだ!)
(Pre-Chorus / Bメロ)
Diamond hands! We will never let it go!
(ダイヤモンド・ハンド(解けない固い絆)! 絶対にこの手を離さない!)
Side by side with my Kabumon, watch us glow!
(相棒の株モンと肩を並べ、光を放て!)
Through the red and green, we’re gonna break the wall,
(赤と緑の嵐(ローソク足)を抜け、壁をぶち破れ!)
Standing by my buddy, yeah, we conquer it all!
(最高の相棒とともに、世界のすべてを掴み取るんだ!)
(Chorus / サビ)
1, 2, 3! Soaring to the Moon!
(1, 2, 3! 月まで届く(To the Moon)高みへ駆け上がれ!)
Grab the Ten-Bagger glory coming soon!
(誰もが夢見る栄光のテンバガー(10倍の奇跡)を掴み取れ!)
Even if the market’s falling down,
(たとえ世界(市場)が暴落しようとも)
We’re gonna wear the ultimate crown!
(俺たちが最後に栄光の王冠を戴くんだ!)
I CHOOSE YOU! Into the light!
(君に決めた! 光の中へ飛び込め!)
Our future’s shining ten times bright!!
(俺たちの未来は、10倍の輝きで燃え上がる!!)
◇
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◇
「それにしても、本当に綺麗な石ですねぇ〜」
俺の頭の上に居座るルミナススライムが、太陽の光にホープクリスタルを透かしながら、うっとりと呟いた。
「おい! お前がどうしても近くで見たいって言うから見せてやってんだからな! 絶対落とすなよ!」
「わかってますよマスター! でも、なんでしょうね〜……この輝きが私を狂わせるのです〜」
「なんか変なこと言い出したぞ!? おい返せ! そして俺の頭から降りろ!!」
「ちょちょちょ! やめてください! 落ちますぅ! 落ちちゃいますぅ!! 良いじゃないですか! 人間と歩幅合わせるの大変なんですよ! そこの亀ちゃん様みたいに運んでくださいよ!!」
「うっさい! あの亀は非常食だからいいんだよ! お前、いざって時に食えねぇじゃねえか!!」
「ちょっと鈴木良平! 冗談でも非常食なんて言わないでください!!」
アリエルが悲鳴をあげて亀ちゃんをギュッと抱きしめる。
「考えてみたら、ゼロとエーツーみたいに、そこの亀を売り払う時、ホープクリスタルを残してもらって現金化出来れば一石二鳥じゃね? おい亀! ちょっとこっち来い!」
「カメぇぇぇッ!!(怒)」
俺がアリエルから亀を強奪しようとした瞬間、ブフォッ! と亀の口から勢いよく小便水鉄砲が顔面に直撃した!
「ぶへっ!?? 痛っ、目がァァッ!?」
「きゃあっ!? マスター暴れないで! 落ちちゃう、クリスタルが落ちちゃ――あッ!!」
不意の攻撃で俺が頭を激しく揺らした瞬間、ルミナスの体からニュルッニュルと滑り落ちた2つの虹色のクリスタルが、放物線を描いてパカッと開いたルミナスの口の中へストライクインした。
――ごっくん。
静寂。
「「「あーーーーーーーーーッッ!!!!???」」」
俺たちの悲痛な絶叫が、どこまでも広がる快晴の草原に空しく響き渡ったのだった。
(第一章・完)




