028:初めての株モン?バトル⑦
028:初めての株モン?バトル⑦
オリハルコンコアの前にある召喚陣から、天を穿つほどの膨大な【黒金】の光柱が立ち昇る!
ゼロとエーツーがその身を賭して遺してくれた、俺たちの起死回生の希望。
眩い光の奔流の奥底に、息をのむほど凛とした『誰か』のシルエットが、確かに揺らめき始めていた。
――だが。天の化け物は、その光が完全に形を成すのを黙って待ってくれるほど甘くはなかった。
天に浮かぶ巨大な単眼が、不快そうにグニャリと歪んだ。
『――ソノ ヒカリ ヲ ツブセェ!!――』
直後、カッパ蟹せんの身体から解き放たれていた『白い手』の5本指が、一斉にあべこべの方向へ『バキバキバキッ!』と折り曲がった!
病気のように膿んで斑状に爛れた肌の下で、どす黒い血の管がウジ虫のように蠢き、這い回る。
指先からは、黒く煤けた爪が硬質な甲殻の音を立てて凶悪に削り出され、関節を無視して不気味に歪み跳ねた。
メリメリと薄気味悪い甲殻を割って膨張する肉塊。何本もの粘着質触手状へと歪に異形化していく様は、まさに古来の祟りがそのまま肉の形をとったかのような、禍々しい狂気そのものだ。
触れた者すべてを死に腐れさせそうな、狂った白い大蛇と化した腕が、未だ現界しきっていない光の柱を粉砕せんと、猛烈な速度で襲いかかってきた!
「させるかよぉぉぉぉッッ!!」
俺は歯を食いしばり、大鎌を振り回して光柱の前へと滑り込んだ!
迫る肉の蛇を強引に一閃で切り払う!
ズバァァァンッッ!!!
「ガァ……ッ!?」
切り飛ばした断面から噴き出したのは、青黒い不快な液汁。
だが、斬られた腕は激痛にヒステリックな悲鳴をあげながら、さらに気味悪く増殖!
数本に分裂した指先が俺の『死神の鎌』の刃を絡め取り、そのまま強烈な力で俺ごと壁際へ投げ飛ばした!
ドガァァァンッ!!
「グハッ……!? しまっ……鎌が……っ!」
壁に激突し、手から弾き飛ばされる大鎌。
体勢を崩した俺の眼前に、爪を凶悪な針のように尖らせた白い手が、光柱を潰すついでとばかりに首元へ迫る!
万事休す――視界を埋め尽くす死の爪。
「鈴木良平!! 伏せなさいっ!!」
ズガギィィィィィィンッッ!!!!
直後、紫紺の極大雷光が室内を真っ白に染め上げた。
俺の頭上をかすめ飛んだ激震の稲妻が、迫る白い手を真っ芯から穿ち、激しい爆破音とともに叩き落とす!
『ギイィィィッ!? ギガガガガガッッ!!?』
雷撃の直撃を受け、全身を紫煙とスパークに包まれながら床でのたうち回る『白い手』。
黒焦げた肉を痙攣させ、なおも怨嗟の爪を俺へと向けようともがいている。
一瞬、声の主であるアリエルに視線をやった。
片手を突き出したまま、膝を折り、真っ青な顔で俺を見つめている。
これはアリエルが作ってくれたチャンス!!
俺は床を転がりながら、弾き飛ばされていた『死神の鎌』の柄を必死に掴み直した!
両手に伝わる、冷たく重い金属の感触。
「うぉぉぉぉぉッッ!!!!」
喉が張り裂けるような咆哮と共に、全身の体重を乗せて鎌を力任せに叩きつける!
俺の叫びに呼応するように、ビフロンスの大鎌がぐにゃりと巨大化し、禍々しい黒い炎を噴き上げながら『白い手』の甲を貫通――そのまま床へと力任せに縫い付けた!
ズバァァァァァァンッッ!!!!
『キィィィィイキィィィィィイ!!!??』
地面に縫い留められた白い手が、大鎌から溢れ出す黒い炎に一気に包み込まれていく。
どこから発しているのかも分からない甲高い悲鳴をあげながら、鎌の刃から逃れようと必死に悶える白い手。
だが、死神の刃は微動だにしない。
黒い炎は容赦なくその肉を飲み込み、焼き尽くしていく。
狂暴だった手が全身の炎から逃れようと惨めに苦しむその姿は、いっそ哀れですらあった。
「ハァ……ハァ……! 鈴木良平……あとは、頼みました……」
アリエルは俺がトドメを刺したのをその目で見届けると、安堵したように糸が切れたようにその場へ倒れ込んだ。
「アリエル……ッ!?」
全員が倒れ、手負いの俺一人だけが取り残された戦場。
だが、手先を完全に撃破された天空の目が、怒りで血走り、狂気的に見開かれた。
『――ムカツク! ムカツクムカツク!! シンジャエぇぇぇっ!!――』
ねっとりとした不気味さを完全に捨て、狂乱した声援と共に、天を埋め尽くすほどの『黒い槍』が一斉に生成される!
未だ召喚途中の光柱と、動けない俺たちを丸ごと消し飛ばそうと、絶望的な雨となって降り注ぐ!
ふざけんな……! なんだよあの数……! あんなの、どうやって防げってんだよ……!?
圧倒的な質量の暴力に、身体の芯が冷たく凍りつく。
だが――引くわけにはいかない。
逃げられるかよ……! ゼロとエーツーが命を賭けて遺してくれたバトンなんだぞ……っ!!
「畜生ぉぉぉぉッッ!!!」
俺は絶望的な頭上に向かって泥臭く構え直した!
勝算なんてゼロだ。
あんな物量防ぎきれるわけがないなんて、アホな俺にだって分かってる!
だけど、ここで俺が折れたら――全員死ぬ!!
来いよ化け物……ッ!! 俺が盾になってでも召喚は完了させてやるッッ!!
死を覚悟し、奥歯が砕けるほど噛み締めた――その時だった。
「カメぇぇぇぇぇッッ!!!!」
アリエルの腕の中で倒れていた亀ちゃんが、血の滲む瞳を見開いた!
甲羅が眩い深緑の光で激しく輝き、その背後に神話の霊獣『玄武』の巨大な幻影が浮かび上がる!
ドガガガガガガガガガッッ!!!!
な……っ!? 亀ちゃん……!?
亀ちゃんが展開した絶対不可侵の青白い障壁が俺たちと光柱を覆い尽くした!
降り注ぐ黒い槍の雨がバリアに激突し、玉座の間全体を吹き飛ばすような大爆発が巻き起こる!
ドカンッ! ドカァァンッッ!!!
「うおっ……!?」
嵐のような爆風と衝撃波が俺の体に襲い掛かる。
地面に叩きつけられ転がったが、俺の体は無事だった。
体を起こして、急いで亀ちゃんに視線をやる。
「ぷす〜……」
亀ちゃんは口から白い煙を吐き出し、限界を超えた反動で白目を剥いて完全にノックアウトした。
「亀ちゃんっ! よくやった……よく繋いでくれた!!」
全員が命がけでバトンを繋ぎ止めた、召喚の儀。
爆煙が風に吹かれて散っていくその中心で、ついに【黒金】の光が静かに弾け飛んだ。
◇
黒金の光が弾け飛んだ中心からあらわれたのは、自衛官の制服に似た漆黒のスーツを隙なく着込んだ、どこかエキゾチックな面立ちの凛とした佇まいの美女だった。
風に髪をなびかせながら、彼女は俺に向かってバシッと寸分の狂いもない完璧な敬礼を決めた。
「召喚コード:7011・6503。資本財(防衛)属・三菱アライアンス種 プライム体『PAC-3』――召喚に応じ馳せ参じました! オーナー様、ご命令を!!」
静寂を突く、通るような美声。
鋭く研ぎ澄まされた瞳と圧倒的な頼もしさに、俺の全身にゾクゾクと熱い鳥肌が立ち昇る。
俺はスマホを上空の化け物へ向かって力強く突きつけた!
「あのいけ好かない目玉野郎に、ぶちかませぇぇぇッ!!」
「了解!! 弾道目標、全弾ロックオン――交戦プロトコル開始! PAC-3、ファイヤ(撃て)!!」
きりりと眉を上げた彼女が不敵に口角を上げ、掲げた右手を鋭く振り下ろした!
背後の空間がバリバリと歪み、重厚な【黒金】の巨大な発射機群が展開される!
ドゴォォォォォォンッッ!!!
空気が一瞬遅れて破裂するほどの衝撃波が玉座の間を激しく揺らした!
空間から放たれた2発の超音速ミサイル弾頭が、真っ白な煙の尾を引いて天へと駆け上がる!
『――シンジャエ! シンジャエェェェッ!!――』
上空の単眼が狂乱し、急造した何本もの『黒い槍』を一斉に掃射した!
黒い雷撃を纏って降り注ぐ黒い槍たちが、天の目を狙って突き進むPAC-3を撃ち落とさんと空を駆ける。
だが――弾頭側面の微小ロケットがパパンッ! とパルス噴射を放つ!
空気抵抗を完全に無視した角ばった直角移動。
音速を超えたまま慣性を強引に殺し、2発の弾頭は幾重にも重なる黒い槍の隙間を、まるで縫い針のように滑らかにすり抜けていく!
「な……なんだあのミサイル!? 空中で滑るみたいにカクカク曲がってやがる……ッ!?」
俺が息をのんで見上げる中、黒い槍の弾幕を完膚なきまでに置き去りにした超音速の弾頭が、巨大な単眼の直前へと到達した。
追い詰められた単眼が、狂ったように瞳孔を歪ませて叫ぶ!
『――クルナ! ハジケロ!――』
バリバリバリィィィッッ!!!
単眼の前に、幾重にも重なる歪な『不可視の空間障壁』が展開された!
絶望的な絶対防御の壁。
だが――1発目のミサイルが、超音速の全質量と運動エネルギーの全てをその尖端に宿し、迷わず壁へと激突した!
ガカァァァァァァンッッ!!!!
音速を超えた凄まじい物理の圧力が、空間のバリアをまるで薄いガラス細工のように、木っ端みじんに叩き割る!
『――なッ……!? バ、バリアが……ッ!?――』
障壁を失い、完全に無防備になった巨大な単眼。
その目の前、目と鼻の先には――寸分の狂いもなく追従していた2発目の超音速弾頭が、凶悪なまでの直撃軌道で迫っていた!
『――クルナ! クルナァァァァッ!! ヒ、ヒィィィッ――』
さっきまでの不快な全能感はどこへやら、単眼は恐怖で涙目を浮かべ、惨めな悲鳴をあげて怯えた。
だが、容赦などあるはずがない。ゼロとエーツーのバトン、みんなの想いが乗った一撃だ!
ズバァァァァンッッ!!!!
爆発音はない。
あったのは、生々しい肉と硬質ガラスが砕け散る、耳を塞ぎたくなるような凄みのある直接打撃音!
超音速の質量の塊が、狂乱する巨大な単眼の『瞳孔の真っ芯』へ、一切の容赦なく深々とブチ込まれた!
『ギイァァァァァァァァァァァッッッ!!!???』
空間全体を揺るがす、耳を突くような絶叫。
あまりの激痛に、狂乱の言葉すら悲鳴へと変わる。
直撃を受けた瞳孔から青黒い体液――『血の涙』が滝のように噴き出し、白濁した角膜が肉の軋む嫌な音とともにズルズルと腐れ落ちていく。
空間全体を揺るがす、粘着質でドロドロとした断末魔の狂叫。
俺たちが息を呑んでその凄惨な末路を見つめていた、まさにその時だった。
ヌラリ……。
血の涙を撒き散らし崩壊していく単眼のすぐ横で、次元の空気が油のように歪んだ。
空間の裂け目がさらに大きく裂け、その奥から、もう一つの、全く同じ巨大な『目』がぬっと現れた。
な……っ!? もう一つ……目があったのか……!?
新たにあらわれたもう片方の目は、ズタズタに破壊された片目と並び、血走った巨大な瞳孔でまっすぐに俺を見下ろしていた。
そこにあったのは、もはや狂気すら通り越した、ドス黒く濁りきった底なしの『憎悪』。
背筋が完全に凍りつく。
やがて、新しく現れた目が、俺の姿を網膜に焼き付けるようにじっと見つめたまま頭蓋の奥に直接、ドロリとした怨念の声を響かせた。
『――オボエタカラネ……――』
次の瞬間。
激痛に悶える潰れた目と、憎悪に満ちたもう片方の目が、まるで重い瞼を閉じるかのように、ヌルリと同時に合わさり――そのまま次元の亀裂の奥へと引きずり込まれるように消え去った。
バツンッ!
世界の亀裂が完全に閉じ、不気味なほどの静寂が玉座の間に戻ってくる。
(……勝ち、なのか……?)
喉の奥がカラカラに乾いていた。
たしかに奴の攻撃を凌ぎ、撃退したはずだ。
だが、心に残ったのは勝利の達成感なんかじゃない。
とんでもない化け物の怨念を買い、命を狙われ続けることになったという、冷たく重い後味の悪さだけだった。
「……ふぅ」
静寂の中、PAC-3の美女は静かに一呼吸置くと、手元の透過UIを消去した。
そして、冷え切った空気など意に介さぬ様子で、何事もなかったかのようにバシッと完璧な敬礼を俺に向けてくれた。
「ターミナルフェーズでの迎撃に成功。オーナー様、絶対防衛ラインの維持を確認いたしました。」




