024:初めての株モンバトル③
024:初めての株モンバトル③
「撃てぇ! ゼロぉぉぉッ!!」
俺は重いエーツーの胴体を抱え直し、カッパ蟹せんの射線を切るように大理石の瓦礫を飛び越えて死角へ全力疾走しながら、空中のゼロへ絶叫した。
上空のゼロは、俺とエーツーが射線に入らないよう超絶技巧で急旋回を重ねつつ、20ミリ翼内機関砲を絶妙な角度でカッパ蟹せんへ叩き込んでいく。
ドゴォォンッ! ドゴォォンッ!
大砲のような重衝撃を食らうたび、化け蟹の巨体がグラグラと激しくよろめく。
だが、相手も伊達に『メインスキル』を重ねていない。器用に巨ハサミを盾にして急所を守りつつ、着弾の反動を利用して破壊された床の瓦礫や散乱する宝飾品を豪快に蹴り飛ばし、散弾の雨として空中のゼロへとぶちまけてくる!
最悪なのは、エーツーのサブスキル【ゼロを切り開く黎明】の……あまりにも不便な「仕様」だ。
このスキルは、エリア内にいる味方株モンの未解放スキルを一つ強制解放してくれる超強力なものだ。だが、展開される効果エリアの広さは株モンの「レベル依存」。
初期レベルのエーツーが展開できるエリアは、半径わずか10メートル……つまり、エーツーがゼロの真下に肉薄しないと能力が適用されないのだ!
しかも、レベルが低い弊害で【ゼロを切り開く黎明】を発動している間、エーツー自身の機動力は完全にゼロになる。カッパ蟹せんからすれば、ただの動かない案山子(標的)だ。
――じゃあ、どうすればいいか?
答えはシンプルだ。
俺がエーツーを抱えて走り回り、ゼロを常にスキルエリア内に収め続ければいい!!
「ぬおおおおおッ! 重ぇぇぇッ!!」
カッパ蟹せんが俺たちに標的を変えて巨大な足を振り下ろしてくるが、その都度、頭上からのゼロのピンポイントな援護射撃が足を撃ち抜き、なんとか間一髪で回避できている。
(……おいおい、昨日までの俺に言ってみろよ?)
(『明日のお前、20ミリ機関砲の雨を避けながら、大型トラック並みのカニに襲われて走り回るんだぜ』って言ったら、果たして俺は信じるだろうか?)
――いや、信じない!(反語)
「ははははッ!! なんだか楽しくなってきたぞ、この野郎ぉぉッ!!」
全身の死線センサーがバグり、脳内麻薬がどばどばと噴き出してくるのを感じる。
俺は再びゼロに20ミリ機関砲を連射させるため、エーツーを抱え直してカッパ蟹せんの足元を強行突破しようと踏み出した。
その時だった。
「鈴木良平! 聞きなさい!!」
甲高いアリエルの叫び声が、爆音が轟く玉座の間に響き渡った。
ハッと目を向けると、アリエルの周囲の空間に、青いネオンの複雑な立体計算式とカウントダウンタイマーUIがズラリと展開されていた。
現役天使の頭脳が弾き出した、残酷なまでに正確な攻略の限界証明――。
『残り時間:10分00秒』
「あと、10分……!?」
「はい! あと2回、カッパ蟹せんのメインスキルが発動したら、ゼロの20ミリ機関砲すら完全に無効化されます!」
「カッパ蟹せんのメインスキル発動周期は『5分』! つまり、あと10分以内にケリを付けないと、私たちが今持っているすべての手札が、あの敵に対して一切の意味をなさなくなります!」
足元に泥臭い絶望が迫ってくる。だが、俺はすぐに両頬を叩いて意識を繋ぎ止めた。
立ち止まっている時間なんて、1秒だってねぇ!
「エーツー! ゼロ! 押しまくるぞぁぁぁッ!!」
ズガガガァンッ!!
「ぐわっ……!?」
直後、至近距離で弾けた瓦礫の衝撃波を受け、俺はエーツーもろとも何十メートルも吹き飛ばされた。
大理石の床をゴロツと無様に転がり、玉座の残骸へと激しく激突する。
「ガハッ……っ、ゲホッ……!」
肺の中の酸素が吐き出され、視界がチカチカと明滅する。
痛む身体を叩き起こそうとした、その時だった。
手元に、硬くて冷たい『禍々しい感触』が触れた。
吹き飛ばされた衝撃で転がり込んだ、玉座の残骸の脇。
そこにポツンと転がっていた『それ』と、装飾用に散らばっていた頑丈なカーテン留めの絹紐を目にした瞬間――俺の口元が不敵に吊り上がった。
「……クククッ! ビフロンスの野郎、なかなか面白いおみやげ残してるじゃねぇか……!」
俺は速攻で紐をひったくると、動けないエーツーの身体を自分の背中にしっかりと巻きつけ、固く結び合わせた。
重い。だけど、これで両手が完全にフリーになる!
そして――重厚な漆黒のオーラを纏う、その歪な死神の鎌を両手で力任せに掴み取った。
ドクンッ……! と禍々しい威圧感が腕を通して全身を駆け巡る。
そういえば、あのビフロンスの奴――最初に現れた時は見上げるような巨大な骸骨だったのに、消滅する間際はいつの間にか俺たちと同じ人間サイズまで縮んでいた。
ってことは、奴が持っていたこの禍々しい大鎌だって、サイズが固定なわけがねぇ!
(ダメもとだ……試してみる価値はある!)
柄に刻まれた怪しいルーンへ親指を叩きつけると、骨の柄がジャキンッ! と音を立てて数メートル一気に伸び上がった。
「ハッ、伸びるじゃねぇか! 腐っても魔王の武器、これならば俺でも戦える!」
間合いが一気に広がる! 俺は大鎌を構え直し、上空へ絶叫した。
「ゼロ! 奴の顔面に弾幕を張れ! 視界を奪え!!」
「キュウゥゥッ!」
上空のゼロが限界を超えた過給機音を響かせ、残弾僅かな機銃をカッパ蟹せんの複眼へ向けて全弾乱射する!
激しい着弾のスパークと黒煙が爆ぜ、化け蟹がたまらずハサミで顔を覆った。
――その濛々と立ち込める煙を突き抜けて、俺は覚悟を秘めて一直線に突撃した!
「カッパ蟹せんぇぇぇッ!!」
伸びた長柄を槍のように繰り出し、カッパ蟹せんの射程外から足元へ一直線に滑り込む。背中のエーツーと共に低姿勢から、伸びた『巨大な漆黒の鎌』を力任せに振り抜く!
ガキィィィィンッッ!!!
強烈な火花が散り、禍々しい鎌の刃がカッパ蟹せんの関節の隙間を深く切り裂いた!
「キ、キュウゥゥゥーッ!?」
巨体が大きく傾く。俺は一瞬で柄を元の長さに戻すと、そのまま慣性で床を滑り、間一髪で反撃のハサミをかわして一撃離脱を決めてみせた。
「ハぁーッ……ハぁーッ! カッパ蟹せん! ゼロとお前が暴れて地面をほじくり返しまくったせいで、油で滑れなくなったみたいだな!」
転がりながら体勢を立て直し、俺は大鎌を肩に担いでニヤリと笑った。
「氷の上のスケートが出来ねぇ今のお前なら……ひ弱な俺でも、なんとか回避くらいは出来そうだぜッ!」
俺の背中には、頑丈な紐でがっちりと固定された三河犬『エーツー』。
ポータブルバッテリーのように密着し、継続バフを放ち続けながら、背中でどことなく嬉しそうにパタパタと尻尾を揺らしている。
「ゼロ! 上からだ! 交互に畳み込むぞ!!」
ここからの俺たちの連携は、自分でも恐ろしいほど噛み合っていた。
俺は足元を滑らせながら『死神の鎌』の柄をグンと数メートル伸ばし、身体を独楽のように大回転させた。
柄が伸びたことで生まれる破壊的な遠心力――それによって増幅された超重量級の一撃を、カッパ蟹せんの懐へ叩き込む!
その瞬間――カッパ蟹せんは大鎌が放つ不気味な威圧感に恐れおののいたのか、大きく身体をこわばらせ、逃げることも忘れ頑丈な巨ハサミを交差させて固くガードを固めた。
(死神の鎌の威圧感に気圧されたか……!?)
「叩き折れぇぇぇッ!!」
ガキィィィィンッ! と激しい火花が散り、遠心力を乗せた刃が硬い甲殻を叩く。
巨体が耐えかねて姿勢を大きく崩した、その瞬間――頭上からゼロが爆音と共に舞い降り、無防備になった背甲へ20ミリ機関砲をゼロ距離で叩き込む!
ドゴォォンッ!!
重光弾の衝撃で巨体が激しく沈み込む。
だが、化け蟹もただでは倒れない。衝撃に耐えると、激怒の咆哮と共に振り下ろされた巨大な左ハサミが、俺の頭上から迫ってきた!
「しまっ――!?」
大鎌を振り抜いた体勢のままじゃ、かわしきれねぇ!
俺は間一髪、大鎌の鉤爪状の刃を近くの大理石の太い柱へ引っかけ、柄の伸縮ルーンを強打した。
ガコンッッ!!!
一瞬で柄が縮み、その強力な引き寄せの力で、俺の身体がフワリと宙を舞う!
ワイヤーアクションのように俺の身体が後方へ弾き出され、直一秒前まで俺がいた床を、巨ハサミが豪快に粉砕した!
「ハっ……あぶねぇ! だけど、使える……!」
着地と同時に柄を元の長さに戻す。
伸びる時の『遠心力』で重い一撃を叩き込み、縮む時の『牽引力』で一瞬で死角へ離脱する。
このイカれた伸縮ギミックを駆使すれば――ただのひ弱な人間である俺でも、あの怪物(株モン)と対等に渡り合える!!
空中からの重砲撃と、地上からの超至近距離のトリッキーな変則斬撃。
一切の逃げ場を与えない、完全な立体挟撃!
カッパ蟹せんは完全に金縛りにあったかのように身を固め、一方的に俺たちの猛攻を全身で受け止め続けていた。
(いける……! 鎌の威力とこの立ち回りなら! このまま押し切れば、勝てるぞ――!)
確信めいた手ごたえが胸を満たした、まさにその瞬間だった。
ピリリリリリリリッ!!!
無情な警告音が、玉座の間に冷たく響き渡る。
『カウントダウン:5分経過』
『カッパ蟹せん:メインスキル【やめられない! とまらない!】(4回目)適用』
『効果:防御力に継続補正が入ります』
「……は……?」
カッパ蟹せんの全身を覆う漆黒の甲殻が、重厚で不気味な鈍色に光り輝く。
直後、ゼロが上空から解禁した20ミリ重光弾の掃射と、俺が体重のすべてを乗せて振り下ろした大鎌の渾身の一閃が、同時に化け蟹の胸元へ叩きつけられた!
ドゴォォォンッ! ガギャギャァァンッッ!!!
周囲の大理石の床が吹き飛ぶほどの激しい爆音と、目が眩むほどの火花の嵐!
さっきまでなら、この一撃で巨体を大きく傾かせ、後方へ大きくのけぞっていたはずだ。
――だが!
ググググググッ……ッ!!!
カッパ蟹せんは多脚を深く床へと突き立て、強烈な衝撃のすべてを正面から力任せに受け止めた。
土煙と火花が散る中、巨体はビクともせず、その場にどっしりと仁王立ちしたまま耐え切って見せたのだ!
「嘘……だろ……!?」
のけぞりもしない。
体勢すら崩れない。
衝撃すら殺してその場に踏み潰した化け蟹の複眼が、赤黒い光を増して俺を見下ろしている。
一撃を叩き込んだ俺の手首には、まるで巨大な岩盤を叩いたような痺れるような反動だけが残っていた。
「鈴木良平! 残り時間、あと5分です……! 4回目の強化で耐久値と質量補正が上乗せされてしまいました! 次(5回目)のスキルが発動したら、完全にこちらの攻撃が通用しなくなります!」
アリエルの悲痛な叫びが突き刺さる。
さっきまでの手ごたえが、嘘のように消し飛んだ。
ダメージが通りにくくなっただけじゃない。攻撃を食らってもびくともしない『動かない要塞』と化したのだ。
あと5分。5回目の強化が入った瞬間――間違いなく完全な『詰み』だ。
「くそっ……! 何か、何かないのかよッ!?」
冷や汗が全身から吹き出し、焦りで脳が焼けそうになっていた、その時だった。
ちゃ〜らちゃ〜らちゃららら〜♪
ポケットの中で、俺のスマホからこの場にそぐわない気の抜けるような呼び出し音が響き渡った。
スピーカーから、ノイズ混じりのどこか聞き覚えのある声が焦ったように響き渡る。
『マスター!! 私を召喚してください!!』




