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【完結】その真実の愛とやらで、自滅の道をお進み下さい  作者: 逆立ちハムスター


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8/11

東方領を長く閉ざしていた分厚い雪雲が、まるで畏れをなして道を譲るかのように裂け、一条の鋭い陽光が白銀の大地を射貫いた。

それは、長きにわたる凍てつく冬の終わりを告げる光であると同時に、腐敗しきった王都に粛清の嵐をもたらす「黒鉄の進軍」の幕開けであった。


先陣を切るのは、東方大公レオンハルト・フォン・ドラグノフ率いる「東方黒狼騎士団」一万の精鋭である。彼らの纏う甲冑は、見栄えのための金銀の装飾など一切施されていない。幾多の魔獣の血と脂を吸い、幾度も鍛え直された黒鉄くろがねのみで構成された、純然たる「殺戮と守護」のための武具である。一万の軍馬が雪解けの泥を蹴立てて進む地鳴りは、王国の東半分を揺るがし、高く掲げられた「隻眼の黒狼」の軍旗は、北風を受けて禍々しくも誇り高く翻っていた。


そして、その漆黒の軍勢の中央、レオンハルト大公の傍らを並んで進むのは、純白の駿馬に跨るわたくし、エレノア・フォン・アージェントであった。

防寒と機能性を極めた濃紺の乗馬服に身を包み、長い漆黒の髪を銀の紐で束ねたわたくしの姿には、もはや王太子に付き従っていた頃の、窮屈な籠の鳥のような気配は微塵もない。わたくしの背後に掲げられているのは、実家であるアージェント公爵家の「剣を抱く銀狼」の旗印である。

王弟たる大公の軍勢と、王国最強の武門たる公爵家の令嬢。この二つが完全に結びつき、明確な殺意と大義を持って王都へ向かっているという事実は、道中に点在する諸侯の領地を、文字通り恐怖のどん底に陥れた。


「……エレノア。見ろ、あのような見苦しい姿を。これが、我が国の貴族どもの実態だ」

レオンハルト大公が、馬上から顎で前方をしゃくり、黄金の隻眼に冷酷な嘲笑を浮かべた。

彼の視線の先、街道の脇には、この地を治める子爵とその家臣たちが、泥土に額を擦りつけるようにして平伏していた。彼らは、わずか数ヶ月前の降誕祭において、ユリアン殿下に媚びへつらい、わたくしを「氷の魔女」と嘲笑っていた者たちの一部である。

彼らは、東方の軍勢が自らの領地を通過すると知るや否や、抵抗するどころか武器を捨て、震えながら許しを乞うために這い出てきたのだ。


「武門の誇りも、領民を守る気概も、すべて王都の甘い毒酒に溶かしてしまったのでしょう」

わたくしは、馬上から彼らを一瞥しただけで、微塵の同情も示さずに馬を歩ませた。

「大公閣下。彼らの首を刎ねる価値すらありません。我らの目的は、このような枝葉の腐敗を切り落とすことではなく、病の根源たる王都の玉座を浄化することにあります。進軍の歩みを止める必要はございません」

「違いない。貴女のその氷のように冴え渡る冷徹さ、実に好ましいぞ」

大公は喉の奥で低く笑い、我が軍は平伏する諸侯を一顧だにすることなく、ただ粛々と、重厚な軍靴の音を響かせて街道を踏み荒らしていった。


東方領の過酷な気候から離れ、王都のある中央平原へと近づくにつれ、空気は次第に生ぬるく、甘やかな春の匂いを帯びてきた。

沿道には色とりどりの花が咲き乱れ、小鳥たちが長閑に囀っている。しかし、その平和な風景は、わたくしたちの目にはひどく虚ろで、欺瞞に満ちたものに映った。この柔らかな陽光の裏で、どれほどの領民が重税に喘ぎ、どれほどの国境警備の兵士たちが物資不足の中で命を落としているか。玉座で微睡む者たちは、その真実から目を背け続けているのだ。


王都まで残り三日の距離に迫った、ある十字路でのことである。

前方より、凄まじい土煙を上げて接近してくる別の一軍があった。東方の黒鉄とは対照的な、白銀の甲冑に身を固めた重装騎兵の集団。その数はざっと五千。高く掲げられた旗印には、吹雪をまとう銀狼の紋章が鮮やかに描かれている。


「……ほう。北方の親虎が、自ら牙を剥いて出向いてきたか」

大公が手綱を引き、軍の足を止めた。

白銀の騎兵の先頭を駆けてきたのは、筋骨隆々たる巨躯を持つ、白髪混じりの初老の騎士であった。歴戦の猛者であることを示す無数の傷跡と、わたくしと同じ氷のように青く鋭い瞳。

我が父、北方の絶対防壁たるアージェント公爵その人であった。


公爵は、我々の陣の手前で馬を降りると、東方の軍勢を恐れる様子もなく、ただ一人、堂々たる歩みでわたくしと大公の御前へと進み出た。

「父上……」

わたくしも馬を下り、大公と共に父の前に立つ。

公爵の青い瞳が、わたくしの濃紺の乗馬服姿と、その隣に並び立つレオンハルト大公を交互に見据えた。

降誕祭の夜、わたくしが王太子から一方的な婚約破棄を受け、大公と共に東方へ去ったという報告は、当然ながら父の耳にも届いているはずである。アージェント家の長女として、王家に嫁ぐという一族の悲願を断たれたことに対し、父がどのような感情を抱いているのか。わたくしは背筋を伸ばし、いかなる叱責も受け止める覚悟で、父の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。


しかし。

父・アージェント公爵は、突如としてその巨体を折り曲げ、泥に汚れることも厭わずに、わたくしと大公の前に深く、深く片膝を突いたのである。

「……公爵よ。それは何の真似だ。貴公ほどの武将が、我らに容易く膝を屈するとはな」

大公が、興味深そうに隻眼を細めた。

父は、大地に響くような重々しい声で答えた。


「東方大公閣下。此度は、我が愚娘の窮地をお救いいただき、アージェント家当主として、幾重にも御礼申し上げます。……そして、エレノアよ」

父の顔が上がり、その鋭い瞳がわたくしを射抜いた。そこに怒りはなく、あるのは、深く、熱烈なまでの「誇り」であった。

「よくぞ、狂人どもの巣窟にて、ただ一人アージェントの矜持を守り抜いた。あの場に留まり、恥辱に塗れて偽りの妃となることなど、我が一族の歴史に対する冒涜であった。お前が自らの意志で大公閣下の手を取り、己の魂を汚さなかったこと、父として、これ以上誇らしいことはない」

「お父様……」

わたくしの胸の奥底で、熱いものが微かに込み上げるのを感じた。常に厳格であり、わたくしを「王家のための道具」としてのみ育ててきたと思っていた父が、わたくしの個としての決断を、これほどまでに全面的に肯定してくれたのだ。


「北方の五千の騎兵は、これより東方軍の傘下に入ります。王家の腐敗、もはや座視するに堪えず。我らアージェントは、大公閣下の覇道にこの命を捧げ、共に王都の膿を出し切る覚悟で参陣いたしました」

「……ははははっ! 見事だ、アージェント公爵! 北の盾と東の矛が交われば、もはやこの大陸に我らを阻むものなど存在せぬ!」

レオンハルト大公が高らかに哄笑し、父の手を力強く握りしめた。

わたくしは、東方と北方が完全に融合したこの絶対的な軍勢を前に、勝利の確信とともに、王都に待つ哀れな者たちの運命に、極寒の憐憫を抱かずにはいられなかった。



それから三日後の昼下がり。

グラン・ロヴェール王国の王都は、未曾有の恐慌状態に陥っていた。

王都を囲む白亜の城壁の外には、地平線を埋め尽くさんばかりの黒鉄と白銀の軍勢が、一糸乱れぬ完璧な陣形をもって展開していた。総勢一万五千の精鋭部隊。彼らは一切の雄叫びを上げることもなく、ただ無言のまま、圧倒的な圧力と殺気を王都へと放ち続けている。

その沈黙の威圧は、どのような怒号よりも雄弁に、「抵抗すれば塵一つ残さず蹂躙する」という意思を伝えていた。


王都の城壁の上では、華美な装飾が施された鎧を着た近衛兵たちが、恐怖で顔を引き攣らせ、槍を持つ手すら震わせていた。彼らは、儀礼用の剣を振るうことはできても、真の死線を潜り抜けてきた本物の戦士たちの放つ「死の匂い」には、到底耐えることができないのだ。

攻城兵器すら展開していないにもかかわらず、王都の戦意はすでに完全に喪失していた。


「開門」


わたくしが、馬上から静かに、透き通るような声で命じた。

ただそれだけである。特別な合図を送ったわけでもない。しかし、わたくしのその声は、魔法のように城壁の上の近衛隊長の耳に届き、彼の心を完全にへし折った。

ギィィィィ……という悲鳴のような音を立てて、王都の巨大な正門が、内側からゆっくりと開かれていく。一矢報いることすらなく、王都は自ら、その喉首を東方の狼たちに差し出したのである。


「あまりにも呆気ない。張り合いのないことだ」

大公が、つまらなそうに鼻を鳴らした。

「温室の薔薇は、嵐が吹けば散るほかに術を知らないのです。参りましょう、レオンハルト様。哀れな玉座の主が、震えながら我々をお待ちですわ」

わたくしたちは、軍の主力は城外に留め置き、数百の近衛騎士のみを引き連れて、無抵抗の王都の大通りを悠然と進んだ。

通りに面した窓という窓は固く閉ざされ、市民たちは息を潜めてこの歴史的瞬間を見つめている。かつてわたくしを「冷酷な女」と噂した彼らは今、本当の「恐怖と威厳」を体現するわたくしたちの姿に、ただひれ伏すことしかできなかった。

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