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【完結】その真実の愛とやらで、自滅の道をお進み下さい【◐】  作者: 逆立ちハムスター


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2/11

「……見たか、アージェントの『氷の令嬢』だ」

「今宵の降誕祭という晴れ舞台においても、殿下に置いてけぼりにされたらしいぞ」

「なんという惨めな姿か。あの冷徹な鉄仮面のような顔……殿下が、愛らしいセリア嬢に心惹かれ、お側から離れられないのも無理からぬことだ」

「武骨な北方の熊の血筋など、王室には相応しくないのだよ」


広間のあちこちから、扇の陰や酒杯の陰に隠れて漏れ聞こえる囁き声は、毒を帯びた蛇の舌打ちのように不快な響きを持っていた。

しかし、わたくしの歩みは、一寸たりとも、ただの一度たりとも乱れることはなかった。

わたくしは背筋を凛と張り、顎をわずかに引き、王国において最も美しく、最も格式高いとされる完璧な作法で、大階段を一段、また一段と静かに下りていく。

群青色の重厚なベルベットの裾が、大理石の階段を滑り降りるたびに優雅な弧を描き、銀狼の紋章がシャンデリアの光を反射して鋭く輝く。そのあまりにも堂々たる、完成された美しさと、他者を寄せ付けぬ峻烈な威厳の前に、嘲笑を浮かべていた貴族たちの顔から、次第に下劣な余裕が消え去っていくのをわたくしははっきりと感じ取っていた。

彼らは、本能的に悟らざるを得ないのだ。どれほど陰口を叩き、わたくしを貶めようとも、自らがわたくしの足元の泥にすら及ばない、精神的に下等な俗物であるという圧倒的な事実を。わたくしが広間の中央へと進むにつれ、彼らは恐れをなし、まるで波が割れるように自然と道を空けていった。



わたくしが広間の中央に立ち、静寂を纏ったまま数分が経過したその時であった。

突如として、広間の奥にある黄金の扉の前で、耳をつんざくような高らかなファンファーレが鳴り響いた。

宮廷筆頭家令が、手にした杖を床に強く打ち鳴らし、大声で宣言する。


「王太子ユリアン・フォン・ロヴェール殿下! 並びに、セリア・フォン・ローズ男爵令嬢、ご入場!」


その場違い極まりない紹介の言葉に、広間は一瞬にして凍りついた。

本来の王国の法と厳格なる宮廷儀礼に照らし合わせれば、公的な大夜会において王太子と並び立ち、手を取って入場することが許されるのは、正当なる婚約者であるわたくしのみである。一介の男爵令嬢風情が、王太子と共に入場するなど、王国の秩序と歴史に対する重大な冒涜であり、決して許されることのない反逆的行為に等しい。

しかし、大扉が開かれ、姿を現したユリアン殿下は、自らが犯している罪の重さに微塵も気づいていない様子であった。それどころか、まるで凱旋する英雄のように堂々と胸を張り、セリア嬢の細い腰をしっかりと抱き寄せて入場してきたのである。


金糸の精緻な縫い取りが施された白亜の礼服に身を包む殿下は、確かに外見だけは王族にふさわしい見事な美男子であった。だが、その青い瞳には、国を背負う王者の風格や知性は微塵もなく、ただ自己陶酔と、隣の少女への盲目的な熱情だけが宿っていた。

そして、彼の腕の中にいるセリア嬢は、過度なフリルとレースがあしらわれた桃色の可憐なドレスを身に纏い、周囲の視線に怯える小鳥のように、大袈裟に肩をすくめて殿下の広い胸にすがりついている。


二人は、貴族たちの間を抜け、わたくしの目の前、わずか数歩の距離で歩みを止めた。

再びの静寂。先ほどよりもさらに重く、張り詰めた、剣の切先を突きつけられているかのような沈黙が広間を支配する。音楽すらも完全に鳴り止み、何百人もの貴族たちが、息を呑んでこの歴史的な茶番劇の行方を見守っていた。


わたくしは、表情一つ変えることなく、静かに、そして完璧な角度でカーテシー(臣従の礼)を行った。

「ご機嫌麗しゅう存じます、ユリアン殿下」

わたくしの声は、広間の隅々にまで透き通るように響き渡った。そこに怒りはない。悲哀もない。ただ、王族に対する静かなる絶対の礼節のみが存在した。


「……顔を上げよ、エレノア」

ユリアン殿下の声には、どこか不自然な力みと、微かな震えがあった。わたくしの圧倒的な品格と、その底知れぬ静けさを前に、彼の中にある卑小な自尊心が本能的に怯えを抱いたのだろう。しかし、彼はすぐに自らを鼓舞するようにセリア嬢を強く抱き寄せ、広間全体に響き渡るように声を張り上げた。


「皆の者、よく聞け! 余は今宵、この神聖なる降誕祭の場において、ここに立つエレノア・フォン・アージェント公爵令嬢との婚約を、白紙に戻し、破棄することを宣言する!」


その言葉が放たれた瞬間、広間は阿鼻叫喚の坩堝と化した。貴婦人たちの悲鳴に似た驚きの声、野心的な貴族たちの歓声、そして信じられないものを見るようなざわめき。広間の空気そのものが沸騰したかのように揺れ動いた。

しかし、わたくしは瞬き一つしなかった。ただ、背筋を伸ばし、氷のように冷たく、限りなく澄んだ瞳で、目の前の愚かな王太子を見つめ返した。


「……理由をお伺いしてもよろしいでしょうか、殿下」

「まだ白を切る気か、この恐るべき毒婦め!」

殿下は、わたくしの静かな問いかけに激昂し、狂乱したようにわたくしの顔に指を突きつけた。

「其方が、愛らしく心優しきセリアを妬み、数々の陰湿な嫌がらせを行ったことは、既に明白な事実として余の耳に入っている! 彼女のドレスを切り裂き、階段から突き落とそうと目論み、あろうことか、昨夜の晩餐においては彼女の特製のスープに毒を盛ったであろう! 幸いにもセリアが一口で異変に気づき、すぐさま吐き出したため大事には至らなかったものの……貴様のそのどす黒い嫉妬心と、冷酷非道なる所業、もはや王国の未来の国母として断じて看過できぬ!」


殿下の激しい言葉に合わせて、セリア嬢が「ひっ」と短い悲鳴を上げ、まるで耐え切れない恐怖に直面したかのように、両手で顔を覆って殿下の胸で泣き崩れた。

「ああ、可哀想なセリア。震えることはない、もう案ずることはないのだ。余が必ず、この恐ろしい北の魔女から、其方を命懸けで守り抜いてみせよう」


涙ながらに訴える二人を前に、周囲の貴族たちからは、わたくしに対する明確な敵意と軽蔑の眼差しが一斉に向けられた。

「やはり氷の令嬢は、中身も血も涙もない冷酷な怪物だったのだ」「公爵家の強大な権力を笠に着た、悪逆非道な女だ」「王太子殿下が真実の愛に目覚められて、本当に良かった」。

証拠すらない、根拠のない罵詈雑言が、嵐のようにわたくしに降り注ぐ。


しかし。

わたくしの内にあるのは、荒れ狂う周囲とは対極にある、不思議なほどの、恐ろしいほどの静寂であった。

怒りすら湧かない。悲しみなど、とうの昔に枯れ果てている。

ただ、己の感情に溺れ、真実を見極める知性すら持ち合わせていない目の前の男が、一国の王太子としてあまりにも小さく、あまりにも愚かであることが、心の底から哀れであったのだ。


「殿下」


わたくしの静かで、しかし凛と張り詰めた鋼線のような一言が、騒然としていた広間を一瞬にして再び完全なる沈黙へと引きずり込んだ。

わたくしは一歩、ゆっくりと前へ出た。その所作には、百の弁明よりも重い、絶対的な真実と気高さが宿っていた。


「一つ、お尋ねいたします。その『毒』とは、いかなる種類のものでありましたか?」

「な、なに……?」

「我がアージェント公爵家は、代々『北方の盾』として、外敵との戦いのみならず、あらゆる毒術、暗殺術、諜報戦の知識を徹底的に修めております。それは、王家を裏から守るための暗き盾としての役割があるからです。もし、仮にわたくしが本気でセリア嬢の命を狙ったのであれば、一口で異変に気づくような、そのような三流の遅効性の毒、あるいは味の強い毒など、決して用いはいたしません。血を吐く暇も、悲鳴を上げる暇すらも与えず、確実に、そして速やかに心臓の鼓動を永久に止める『沈黙のラクリマ』を、ただ一滴用いることでしょう。それが、我が公爵家の確固たる『作法』でございます」

冷酷なまでに理路整然とした、死の匂いすら漂うわたくしの言葉に、ユリアン殿下はサッと血の気を失い、思わず一歩後ずさった。セリア嬢のわざとらしい泣き声も、ピタリと止む。


「二つ」

わたくしはさらに一歩、前へ踏み出す。

「ドレスを切り裂く、階段から突き落とすといった、そのような市井の無教養な小娘が嫉妬に駆られて行うような真似を、このわたくし、エレノア・フォン・アージェントが、自らの手を下して行うと、本気でお考えですか? わたくしがもし、本気で彼女を宮廷から排除しようと決断したならば、手練れの暗部を動かし、明日には彼女の実家であるローズ男爵家そのものが、領地ごとこの王国の歴史から『完全なる病死』として消滅しております。疑いをかけられるような証拠など、一片たりとも残しはいたしません」

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