95.人攫い
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ノクタリア。
賑やかな大通りを離れた路地裏。
俺達は聞き込みを続けていた。
「人攫い?」
「知らねぇな」
「そんな奴見たこともねぇ」
「他を当たってくれ」
返ってくる答えはどれも同じだった。
ヴェルナがため息を吐く。
「まぁそうなるわな」
「仮に知ってても話すわけねぇ」
エドも頷く。
「裏社会の連中だからな」
「喋れば次は自分が消される」
俺は少し考えた。
そして。
「なら本人を探す方が早いな」
「嫌な予感しかしねぇ」
ヴェルナが呟いた。
数十分後。
俺達は人気のない路地裏を歩いていた。
周囲には誰もいない。
建物も古い。
治安の悪さがよく分かる場所だった。
そして。
案の定だった。
「おい」
背後から声が掛かる。
振り返る。
三人組だった。
全員武器を持っている。
目付きも悪い。
典型的なならず者だった。
その視線は。
ルクスへ向いていた。
「その鹿」
「高く売れそうだな」
男が笑う。
ルクスは静かに男を見つめていた。
『……』
「怒ってるぞ」
俺が通訳した。
「鹿が怒るかよ」
男は笑う。
「お前ら運が悪かったな」
武器を抜く。
仲間達も続く。
「その鹿を置いていけ」
「命だけは助けてやる」
エドが苦笑した。
「やれやれ」
ヴェルナも肩を竦める。
「お前ら、本当に運が悪いぞ」
男達は気付かなかった。
目の前の連中が。
吸血鬼の群れを壊滅させてきたことを。
数秒後。
三人とも地面へ転がっていた。
「ぎゃあああ!!」
「目が!!」
「目がぁぁぁぁ!!」
俺は男の胸を踏みつける。
「質問だ」
「攫った連中はどこにいる」
男は歯を食いしばった。
「だ、誰が話すか!」
俺は少し考えた。
そしてルクスを見る。
白銀の体毛。
巨大な角。
普通の鹿ならあり得ない美しさだった。
「情報を話したら毛皮をくれてやろう」
男達の目の色が変わる。
「本当か!?」
「その鹿のか!?」
「ああ」
俺は頷いた。
「毛皮だ」
男達は顔を見合わせた。
この鹿なら一生遊んで暮らせる。
そう思ったのだろう。
「わ、分かった!」
「話す!」
「全部話す!」
男達は必死だった。
取引場所。
仲介人。
地下通路。
知っていることを全て吐き出した。
やがて。
沈黙が訪れる。
「以上だ!」
「もう何も知らねぇ!」
俺は頷く。
「なるほど」
男達の顔へ希望が浮かぶ。
「じゃ、じゃあ約束だ!」
「情報は話した!」
「その鹿の毛皮をよこせ!」
俺は頷く。
「約束だな」
ルクスを見る。
そして。
白銀の毛を一本摘まんだ。
男へ差し出す。
「毛皮だ」
沈黙。
「……は?」
「毛皮だ」
俺は首を傾げる。
「約束は守った」
ヴェルナが頭を抱える。
「お前ほんとそういうところだぞ……」
男達は激怒した。
「ふざけるな!!」
「殺せ!!」
三人が飛び掛かる。
だが。
遅かった。
光が走る。
一瞬だった。
男達が崩れ落ちる。
動かない。
静寂。
エドが引き攣った笑みを浮かべた。
「容赦ねえなぁ……」
俺は気にした様子もない。
「聞きたいことは聞けた」
それだけだった。
ヴェルナは死体を見下ろす。
「まぁ」
「人攫いなら誰かに恨まれて死ぬ運命だったろ」
ルクスは静かに歩き出す。
俺も後に続いた。
向かう先は一つ。
男達が吐いた取引場所。
そして。
ミハイルへ繋がる手掛かりだった。
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