94.ノクタリア
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数日後。
南部街道。
俺達は台車へ揺られていた。
御者席にはエド。
相変わらず胡散臭い笑みを浮かべている。
「まさか本当に行くとはねぇ」
「当然だ」
俺は即答した。
エドは苦笑する。
「だと思ったよ」
ヴェルナは荷台の端で腕を組んでいた。
「まぁ行くしかねぇだろ」
ミハイルが攫われている。
選択肢はなかった。
ルクスも静かに横たわっている。
巨大な角が陽光を反射していた。
馬車は街道を南へ進む。
やがて。
俺が口を開いた。
「ノクタリアとはどんな街だ?」
エドは少し考える。
「行ったことはない」
「だが噂くらいは聞く」
「地下都市だ」
「地下都市?」
ヴェルナが眉をひそめた。
「ああ」
エドは頷く。
「巨大な空洞を利用して作られた街らしい」
「なんでも、元々は天然の洞窟だとか」
俺は黙って聞いている。
「治安は?」
「あまりよくはないな」
エドは答える。
「人攫いがいる」
「闇商人がいる」
「行方不明者も多い」
「正直、あまり近付きたくない場所だな」
ヴェルナが鼻を鳴らす。
「随分と胡散臭ぇな」
「そういう街だからな」
エドは肩を竦めた。
「まともな奴は近寄らない」
数日後。
ノクタリアへ到着した。
巨大な岩山。
その麓に広がる石造りの街。
入口には巨大な門。
無数の人々。
そして。
歓声だった。
「ようこそノクタリアへ!」
「宿はどうだい!?」
「こっちの酒は絶品だぞ!」
俺達は立ち止まる。
想像と違った。
もっと暗く。
もっと危険な街を想像していた。
だが現実は違う。
賑やかだった。
露店。
酒場。
劇場。
大道芸人。
人々は笑っている。
まるで祭りだった。
「……本当に治安悪いのか?」
ヴェルナが怪訝そうな顔をする。
エドは苦笑した。
「表向きはな」
「表向き?」
俺が聞き返す。
エドは声を潜めた。
「この街は賭博で有名なんだ」
「賭博?」
「ああ」
「観光客を呼び込む」
「賭けをさせる」
「勝たせる」
「気分良く金を持たせる」
そこまで言って。
エドは肩を竦めた。
「そして帰り道で襲う」
沈黙。
「……は?」
ヴェルナが固まる。
「回収事業ってやつだ」
エドは平然と言った。
「街全体でやってるって噂もある」
「勝っても負けても最終的には街が儲かる」
俺は周囲を見回した。
笑顔。
歓声。
賑わう観光客。
そして。
その全てが少しだけ不気味に見えた。
「なるほど」
俺は呟く。
「随分と合理的だな」
「褒めるところじゃねぇだろ」
ヴェルナが即座に突っ込んだ。
その時だった。
街の奥から鐘の音が響く。
ゴォォォォン――
人々の視線が一斉にある方向へ向く。
そして。
誰かが叫んだ。
「今日の目玉が始まるぞ!」
ノクタリア最大の見世物。
賭博闘技場。
俺達はまだ知らない。
その闘技場で。
俺達が見世物にされようとしていることを。
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