89.人体実験
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地下施設。
薄暗いコンクリートの部屋。
三人の吸血鬼が転がされていた。
全員、鎖でぐるぐる巻きにされている。
手足どころか胴体まで完全拘束。
まるで大型魔物の捕獲後だった。
「"何をした!?"」
「"なぜ変身できない!?"」
「"霧化もできないぞ!!"」
吸血鬼たちが叫ぶ。
俺は机の上へ器具を並べながら答えた。
「こいつらがコウモリや霧へ変化する能力は特殊能力に見えなくもない。だが、本質的には魔法だ」
ミハイルが首を傾げる。
「魔法なんですか?」
「ああ」
俺は頷く。
「魔法を発動するには魔力波を束ねる必要がある。つまり術式の構築だな」
「それを妨害すれば魔法は発動できない」
鎖の向こうで暴れる吸血鬼を見る。
「この通りな」
「なるほど……」
ミハイルが感心したように呟く。
ヴェルナは呆れていた。
「いや、なるほどじゃねぇよ」
「そんなこと出来る奴がおかしいんだ」
「そうか?」
「そうだよ」
吸血鬼たちは何を言われているのか分からないらしい。
怒鳴り続けている。
「"何を話している!?"」
「"答えろ!!"」
「"貴様ら何者だ!?"」
俺は無視した。
答える必要がない。
試験管を並べる。
採血器具を並べる。
記録用紙を置く。
そして。
一本の注射器を手に取った。
吸血鬼たちの顔色が変わる。
「"待て"」
「"その針はなんだ"」
「"何をするつもりだ!?"」
俺は静かに近づく。
「"来るな!!"」
「"近づくな!!"」
暴れる。
だが逃げられない。
鎖はびくともしなかった。
俺は鎖の隙間から腕に狙いをつけて針を刺す。
「"ギャアアアア!!"」
「うるさいな」
血液が試験管へ溜まっていく。
黒ずんだ赤。
人間とは微妙に異なる色だった。
一本。
二本。
三本。
採取完了。
机の上へ並べる。
そして棚から別の試験管を取り出した。
ヴェルナの血液サンプル。
古くなっているが、以前採取したものだった。
「比較対象だ」
「まだ持ってたのかよ……」
ヴェルナが嫌そうな顔をする。
「当然だ」
俺は四本の試験管を光へ透かした。
しばらく観察する。
沈黙。
そして。
「なるほど」
ミハイルが身を乗り出した。
「何か分かったんですか?」
「ああ」
俺は頷く。
「やはり別物に近いな」
「別物?」
「ヴェルナとこいつらは同じ吸血鬼ではない」
ヴェルナが眉をひそめる。
「どういう意味だ?」
「お前は光魔法を扱うだろ?あれはおそらく、お前の中に吸血鬼化に対する抗体があったのだろう」
ヴェルナを指差す。
次に試験管を見る。
「だがこいつらは違う」
「構造がお前の血液より複雑になっている」
ミハイルが聞いてくる。
「つまり、どういうことですか?」
「ヴェルナは吸血鬼に近いが、別の生き物ということだ」
「こいつらの吸血鬼化は病気に近いな」
吸血鬼たちは相変わらず怒鳴っていた。
「"何をしている!?"」
「"何を調べている!?"」
「"答えろ!!"」
俺は記録を続ける。
「感染経路から血液の変質」
「魔力反応に再生能力…」
そして。
次の器具を手に取った。
吸血鬼たちが凍り付く。
「"ま、待て"」
「"まだやるのか?"」
「"血は取っただろ!?"」
俺は頷いた。
「そうだな」
一瞬だけ希望が浮かぶ。
だが。
次の言葉で消えた。
「血液検査は終わった」
「次は組織サンプルだ」
地下施設に悲鳴が響き渡った。
場所は変わる。
吸血鬼たちの拠点。
グランは片膝をついていた。
「報告します」
玉座の男。
レオニスが目を開く。
「話せ」
「例の空間異常より来訪者が現れました」
「三人と一匹」
レオニスは興味なさそうに聞いていた。
だが。
次の言葉で空気が変わる。
「その中に――例の光を操る男がいます」
沈黙。
レオニスの瞳が細められた。
「……来たか」
グランは頷く。
「はい」
「ソロモンです」
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