82.角
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夕方。
冒険者ギルド併設宿舎前。
俺たちは巨大な白銀の鹿――ルクス=アルヴァを見上げていた。
「……で、どうするんだこれ」
ヴェルナが言う。
ルクスは静かに首を傾げた。
その巨大な角が夕日に照らされ、淡く輝く。
神秘的ではある。
だが問題があった。
「住処がないな」
俺が言った。
「いやまあ、そうだけどよ……」
「宿舎を使えばいい」
「使えねぇだろ!」
ヴェルナが即座に突っ込む。
どう見てもデカすぎる。
普通の部屋へ入るサイズではない。
だが俺は気にしていなかった。
「俺の部屋はヴェルナがいる」
「嫌な言い方すんな」
「なのでミハイルの部屋を使えばいい」
「え?」
ミハイルが固まった。
「ちょっと待ってください」
「広いだろう」
「広い狭いの問題じゃないですよね!?」
ルクスは静かにミハイルを見た。
優しい目だった。
だがデカい。
圧が凄い。
「大丈夫だ」
俺が言う。
「ルクスは温厚だ」
「そういう問題でもなく――」
ルクスは宿舎入口へ近づく。
そして。
ガゴンッ!!
巨大な角が入口へ引っかかった。
沈黙。
「……」
「……」
「……入れませんね」
ミハイルが小声で言う。
ルクスは少し悲しそうだった。
俺は角を見上げる。
「邪魔か」
次の瞬間。
バキッ。
「え?」
俺は躊躇なく片方の角を折った。
「ええええええ!?」
ミハイルが叫ぶ。
ヴェルナも流石に引いていた。
「お前なにしてんだ!?」
だが。
ルクスは目を見開いた後――
ぶんっ、と軽く首を振った。
そして。
どこか嬉しそうに鼻を鳴らす。
「……?」
ミハイルが困惑する。
俺は折れた角を拾っていた。
「軽くなったらしい」
「そうなの!?」
ルクスは何度も首を動かしている。
明らかに動きやすそうだった。
「前から邪魔だったんだろうな」
俺が分析する。
「もっと早く折れば良かった」
「普通折らないんですよ!!」
ヴェルナは額を押さえた。
「いや待て……鹿って角生え変わるよな……?」
「そのうち再生するだろう」
「さらっと言うな……」
俺は折れた角を眺める。
「高純度魔力結晶に近いな」
「素材扱いすんな」
ルクスは満足そうに宿舎へ入っていった。
なお。
入口の幅はギリギリだった。
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