81.鹿の扱い
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『光の勇者ソロモン』ですが、現在続きを執筆中です。
続きは次の章が完成次第毎日投稿に戻ります。
街が近づくに連れ、通行人も増えていく。
そして通行人の視線は、全てこちらへ向く。
「……え?」
「鹿?」
「いや待て、あの角……」
ざわめきが広がる。
ルクス=アルヴァは静かにソロモンの後ろを歩いていた。
白銀の体毛。
夜空みたいな巨大な角。
淡く漂う光。
どう見ても普通の鹿ではない。
当然、目立つ。
というか隠しようがない。
ミハイルが小声で呟く。
「……めちゃくちゃ見られてません?」
「見られてるな」
ヴェルナは露骨に面倒臭そうな顔をしていた。
「そりゃそうだろ……」
通行人たちは距離を取っている。
怖がっている者。
拝み始める者。
子供を連れて逃げる親。
中には冒険者らしき男たちまで武器へ手をかけかけていた。
だが。
ルクス=アルヴァ本人は、周囲を興味深そうに見回しているだけだった。
『…………』
「“人間が多い”」
「街だからな」
『…………』
「“騒がしい”」
「そういう場所だ」
ミハイルが遠い目をする。
「先生、普通に会話しないでくださいよ……」
「余計怖いですからね?」
ヴェルナも頷いた。
「ただでさえヤバいのに」
そのまま三人と一匹は冒険者ギルドへ到着する。
扉を開けた瞬間。
ギルド内が静まり返った。
「…………」
酒を飲んでいた冒険者が止まる。
依頼書を見ていた受付嬢が固まる。
椅子を引く音すら消えた。
全員の視線が、ルクス=アルヴァへ集中していた。
数秒後。
「……は?」
誰かが呟いた。
その直後。
「えっ鹿!?」
「いや待て何あれ!?」
「魔物か!?」
「なんで普通に連れて歩いてんだよ!?」
ギルド内が一気に騒がしくなる。
ヴェルナが頭を押さえた。
「ほら見ろこうなる」
「予想通りだな」
「予想できてんなら何とかしろよ……」
ミハイルも完全に居心地悪そうだった。
「帰りたい……」
そんな中。
受付カウンターにいた女性が、ぎこちない笑顔を浮かべる。
「え、えっと……」
「本日はどのようなご用件で……?」
視線が完全に鹿へ吸われていた。
ソロモンは平然と答える。
「依頼達成の報告だ」
「あと、新規登録」
受付嬢が瞬きをした。
「……はい?」
「こいつだ」
ソロモンがルクス=アルヴァを見る。
受付嬢もつられて見る。
ルクス=アルヴァも静かに見返す。
数秒の沈黙。
「…………え?」
「話は通じる」
ソロモンは真顔だった。
「だから冒険者登録できるはずだ」
受付嬢の思考が止まった。
「えっ」
「いや」
「え?」
ヴェルナが横から口を挟む。
「気持ちは分かる」
「俺も同じ顔した」
ミハイルも小さく頷いていた。
「最初みんなそうなるんですよ……」
受付嬢は混乱していた。
「い、いえ、えっと……」
「すみません、冒険者登録は基本的に人間種のみで、獣を登録することは…」
「問題ない」
ソロモンは即答した。
「意思疎通可能」
「高知能」
「戦闘能力あり」
「条件は満たしている」
「そんな確認項目でしたっけ!?」
受付嬢が半分叫ぶ。
ギルド内の冒険者たちもざわついていた。
「いや無理だろ!?」
「鹿だぞ!?」
「でもめっちゃ神々しいぞ……」
「神獣じゃねぇのか?」
ルクス=アルヴァは周囲を静かに見回していた。
そして。
『…………』
角が淡く明滅する。
当然、誰にも分からない。
ソロモンだけが頷いた。
「自己紹介している」
「分かるか!!」
ヴェルナが即座に突っ込んだ。
だがルクス=アルヴァは続ける。
『…………』
さらに明滅。
『…………』
少し長い。
ソロモンが通訳する。
「“ルクス=アルヴァ”」
「“夜明けの光とも呼ばれている”」
「“よろしく頼む”だそうだ」
受付嬢が完全に固まっていた。
「えぇ……」
その時だった。
奥の部屋から、ギルドマスターが現れる。
大柄な男だった。
そして。
鹿を見た瞬間、動きが止まる。
「…………なんだこれは」
「新入りだ」
ソロモンが答える。
ギルドマスターがゆっくり3人を見る。
「説明しろ」
「俺も説明してほしいくらいだ!」
ヴェルナは真顔だった。
数十分後。
禁域の調査報告。
変異魔物。
光の精霊。
魔力波。
守り神。
その全てを説明し終えた頃には――
ギルドマスターは頭を抱えていた。
「……頭痛ぇ」
「同感だ」
ヴェルナが即答する。
受付嬢もまだ処理が追いついていない顔だった。
ルクス=アルヴァだけが静かに立っている。
『…………』
「“腹が減った”と言っている」
「鹿って飯食うんだな……」
ヴェルナが遠い目をした。
長い沈黙の後。
ギルドマスターが深くため息を吐く。
「……前例はねぇ」
「だが」
ルクス=アルヴァを見る。
鹿は静かに見返す。
妙に威厳があった。
「……害意はなさそうだな」
「ない」
ソロモンは即答した。
「多分」
「お前が言うと不安なんだよ」
ギルドマスターは再び深いため息を吐く。
「特例扱いだ」
「責任はお前が持て」
「問題ない」
「本当に問題ねぇんだろうな……?」
受付嬢が恐る恐る書類を取り出す。
「え、えっと……」
「お名前は……なんといいましたかね?」
『…………』
角が明滅する。
受付嬢が固まる。
ソロモンが代わりに答えた。
「ルクス=アルヴァだ」
受付嬢は震える手でペンを走らせる。
こうして。
史上初。
“鹿の冒険者登録”が行われることとなった。
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