80.崇拝
読んでいただきありがとうございます!
『光の勇者ソロモン』毎日更新中です。
森を出た瞬間。
眩しい朝日が視界へ差し込んだ。
ミハイルが思わず目を細める。
「……朝?」
ヴェルナも空を見上げた。
「もうそんな時間かよ……」
森の中は常に薄暗かった。
光の精霊の影響があったのだろう。
夜だと思っていた空は、既に白み始めている。
冷たい朝の風が吹き抜けた。
後ろでは、白銀の鹿――ルクス=アルヴァが静かにこちらへ続いている。
夜空みたいな角が、朝日に照らされ淡く輝いていた。
やがて。
村の入口が見えてくる。
粗末な柵。
見張り台。
そして、槍を持った門番。
最初にこちらへ気付いたのは、その門番だった。
「おーい、生きて――」
言葉が止まる。
視線が、ソロモンの後ろへ向く。
白銀の鹿。
夜空みたいな巨大な角。
漂う光。
門番の顔色が、一瞬で変わった。
「……は?」
槍が手から落ちる。
次の瞬間。
門番はその場へ尻もちをついた。
「ま、ま、ま……」
声が震えている。
そして。
ぶわっ、と地面へ染みが広がった。
ミハイルが目を逸らす。
「あっ……」
ヴェルナが露骨に嫌そうな顔をした。
「漏らしたな」
門番は完全に腰が抜けていた。
震えながら、鹿を指差す。
「守り神様……」
その声は、村へ瞬く間に広がった。
騒ぎになるのは早かった。
家々から村人たちが飛び出してくる。
最初は様子見だった。
だが。
鹿を見た瞬間。
空気が変わる。
「……あ」
「守り神様だ……」
「本当に……?」
一人。
また一人。
村人たちが膝をつく。
平伏。
祈り。
誰も顔を上げようとしない。
ミハイルが困惑していた。
「えぇ……」
「なんかすごいことになってません?」
「なってるな」
ヴェルナも若干引いていた。
だが。
その中心で。
ルクス=アルヴァだけは、妙に落ち着かなさそうだった。
角の光が微妙に揺れている。
『…………』
「“なんだこれは”」
「崇拝だな」
俺は短く答える。
『…………』
「“怖い”」
「同感だ」
村人たちは既に半狂乱だった。
「守り神様がお戻りになった!」
「お導きだ……!」
「儀式を!」
「村長を呼べ!!」
数分後。
息を切らしながら村長が駆けてきた。
そして。
鹿を見た瞬間。
固まった。
「…………」
震えている。
ゆっくりと膝をつく。
「本当に……おられた……」
次の瞬間。
村長は懐から乾燥茸を取り出した。
あのマジックマッシュルームだ。
それを躊躇なく口へ放り込む。
ミハイルがぎょっとする。
「食べた!?」
「儀式用だろ」
ヴェルナが呆れたように言う。
村長は涙を流しながら平伏した。
「守り神様……!」
ルクス=アルヴァは困惑していた。
完全に。
『…………』
「“なぜ食べた”」
「知らん」
俺は正直に答えた。
『…………』
「“怖い”」
「それも同感だ」
鹿の角が落ち着きなく明滅する。
どうやら本気で困っているらしい。
村長は震える声で言う。
「長年……お守りいただき……」
『…………』
ルクス=アルヴァがこちらを見る。
「感謝しているらしい」
『…………』
「“何故?”」
「お前を神だと思っているからだ」
数秒。
沈黙。
そして。
『…………』
「“違う”」
空気が震える。
魔力波が広がる。
だが当然、村人たちには意味が分からない。
むしろさらにざわめいた。
「おぉ……!」
「守り神様が……!」
「奇跡だ……!」
ルクス=アルヴァの困惑が強くなる。
『…………』
「“帰りたい”」
「だろうな」
俺は小さく息を吐いた。
そして村長を見る。
「騒ぎを止めろ」
村長が顔を上げる。
「し、しかし……!」
「そいつは神ではない」
村全体が静まり返った。
村長の顔が引きつる。
「な、何を……」
「ただの光だ」
ヴェルナが吹き出しかけた。
「説明雑すぎるだろ」
ミハイルも困っていた。
「いや先生、それで納得する人いませんって……」
だが。
ルクス=アルヴァだけは、少しだけ嬉しそうに光を揺らしていた。
『…………』
「“ただの光”」
その響きだけは、どこか満足そうだった。
やがて。
騒ぎを半ば無理やり収めた三人は、村を後にする。
朝日が街道を照らしていた。
その後ろを。
白銀の鹿が静かについて歩いていた。
面白い、続きが気になると思っていただけたら、
評価・ブックマーク・いいねなど頂けると嬉しいです!
あなたのワンクリックが作者のモチベーションにつながります。
評価はこの下の星マークをクリック(タップ)するだけ!
星一つからでも大歓迎です!




