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光の勇者ソロモン 〜光を知り尽くした異端の冒険者〜  作者: カルロス
禁域

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79.ルクス=アルヴァ

読んでいただきありがとうございます!

『光の勇者ソロモン』毎日更新中です。

 光は静かに揺れていた。


 先程まで森全体を満たしていた圧迫感が、少しだけ薄れている。


 俺はその光を見つめる。


「お前は、ずっとここにいたのか」


『…………』


「“覚えていない”」


「“気付けば存在していた”」


 曖昧な返答だった。


 時間感覚そのものが、人間とは違うのだろう。


 だが。


 次に流れてきた感情は、先程までとは少し違った。


 興味。


 好奇心。


 観察。


『…………』


「“お前は面白い”」


「そうか」


『…………』


「“もっと知りたい”」


 光がふわりと浮かび上がる。


 周囲の魔力波が変化した。


 遠く。


 森の外側。


 あの鹿と繋がっているのが見える。


 魔力波の経路。


 神経のような接続。


 俺は小さく目を細めた。


「……なるほど」


『…………』


「“あれは器だ”」


「“人間と接触するための”」


 鹿。


 あれは別個体ではない。


 端末。


 意識投射用の媒体。


 だから会話できた。


 だから知性があった。


『…………』


「“本来の我は、人間へ近づけない”」


「“壊してしまう”」


「だから鹿を使っていたのか」


 光が揺れる。


 肯定らしい。


『…………』


「“お前なら近づける”」


「“だから興味がある”」


 俺は少し考える。


「つまり?」


『…………』


「“外へ行く”」


 短かった。


 だが意味は十分伝わる。


「ついてくる気か」


『…………』


「“駄目か?”」


 少しだけ間があった。


 妙に人間臭い沈黙だった。


 俺は小さく息を吐く。


「好きにしろ」


 その瞬間。


 光がわずかに強く明滅した。


 嬉しそうだった。


『…………』


「“昔の人間は、我に名前をつけた”」


 数秒。


 静かな揺らぎ。


 そして。


『…………』


「“ルクス=アルヴァ”」


 森の空気が震える。


 不思議な響きだった。


 神話みたいに古いのに、妙に澄んでいる。


「意味は?」


『…………』


「“夜明けの光”」


 なるほど。


 確かに、人間が勝手に神格化しそうな名前だ。


 だが。


 本人はあまり興味がなさそうだった。


『…………』


「“呼称に意味はない”」


「“だが、お前たち人間は名前を好む”」


「まあな」


 俺は静かに頷く。


 そして踵を返した。


「戻るぞ」


 光が揺れる。


『…………』


「“鹿を使う”」


 次の瞬間。


 森全体へ広がっていた魔力波が、ゆっくりと収束し始めた。


 奥の光は弱まっていく。


 代わりに。


 遠くの鹿との接続が強くなる。


 意識を移したのだろう。


 俺は森を戻り始めた。


 しばらく歩くと。


 ヴェルナとミハイルが未だ警戒したまま待機していた。


 ミハイルが真っ先に駆け寄る。


「先生!!」


「無事だったんですね!」


「問題ない」


 ヴェルナは露骨に怪訝そうな顔をしていた。


「……で?」


「何だったんだ、あれ」


「光の精霊らしい」


 沈黙。


「は?」


 ヴェルナが真顔になる。


「いや待て」


「どういうことだ?」


 その時だった。


 森の奥から、あの白銀の鹿が姿を現す。


 夜空のような角。


 淡い光。


 ミハイルが反射的に身構えた。


 だが鹿は襲ってこない。


 静かに俺の後ろへ並ぶだけだった。


「……え?」


 ミハイルが固まる。


 ヴェルナも嫌そうな顔をした。


「……どうしたんだ、その鹿は?」


「興味を持たれた」


「嫌な予感しかしねぇ」


 鹿の角が淡く明滅する。


『…………』


 ヴェルナがびくりと肩を震わせた。


「なんだ!?」


「魔力波によるコミュニケーションだ」


「わかるか!」


 ミハイルが恐る恐る聞く。


「せ、先生……まさか一緒に連れて帰るんですか?」


 俺は鹿を見る。


 鹿――いや、ルクス=アルヴァは静かにこちらを見返していた。


「そのつもりらしい」


「らしい、で済ませるなよ!?」


 ヴェルナの叫びが、静かな森へ響いた。

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