78.守り神
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光はゆっくりとこちらへ近づいてくる。
敵意は感じない。
ただ。
観察されている。
そんな感覚だけがあった。
そして。
空気が震えた。
『…………』
声ではない。
だが意味だけが直接流れ込んでくる。
「“壊れずここまで来た”……か」
光が揺れる。
驚いている。
そんな感覚が伝わってきた。
『…………』
「“なぜ存在を維持できる”」
俺は静かに周囲を見る。
暴走する波長。
高密度魔力波。
可視光を超えた危険領域。
普通の生物なら、近づくだけで神経が焼ける。
「防いでいる」
『…………』
「“理解しているのか”」
「ああ」
俺は頷く。
「観測できる現象は、干渉可能だ」
数秒。
沈黙。
その後。
光がゆっくりと明滅した。
まるで思考しているようだった。
『…………』
「“昔、似た人間が一人いた”」
俺は目を細める。
「人間?」
『…………』
「“お前ほどではない”」
「“だが、近づくことはできた”」
森の空気がわずかに揺れる。
「そいつはどうした」
光が静かに揺らぐ。
『…………』
「“壊れた”」
短い返答だった。
だが。
そこに含まれる感情は重かった。
寂しさ。
後悔。
諦め。
『…………』
「“皆、壊れる”」
「“近づこうとした者は、例外なく”」
俺は周囲を見る。
変異した森。
茸。
魔物。
全てが、この存在の影響下にある。
そして理解する。
こいつは壊したくて壊しているわけじゃない。
ただ、存在しているだけだ。
『…………』
「“人間は我を崇めた”」
光がわずかに暗くなる。
『…………』
「“精霊”」
「“神”」
「“守り神”」
「“好きに呼んだ”」
森の空気が静かに揺れていた。
『…………』
「“だが、そんなものは望んでいなかった”」
俺は黙って聞いていた。
『…………』
「“ただ、友が欲しかった”」
光が小さく揺らぐ。
それは呼吸にも似ていた。
『…………』
「“だが近づく者は皆壊れていく”」
「“触れれば崩れる”」
「“会話すら長く続かない”」
周囲の魔力波がわずかに乱れる。
悲しんでいる。
そう感じた。
『…………』
「“だから遠ざけた”」
「“壊れる前に”」
「“鹿も”」
「“森の生物も”」
「“皆、我へ生物を近づけぬよう動いていた”」
俺は静かに光を見る。
なるほど。
あの鹿は守り神ではない。
門番だ。
この存在へ誰も近づけないための。
『…………』
「“お前は初めてだ”」
光がゆっくりと俺の周囲を漂う。
『…………』
「“壊れず、会話を続けている”」
俺は少し考える。
そして静かに答えた。
「慣れている」
『…………』
「“何に”」
「光に触れることへ」
短く答える。
光が揺れる。
まるで笑ったみたいだった。
『…………』
「“変な人間だ”」
「よく言われる」
その瞬間。
初めて。
光が少しだけ楽しそうに明滅した。
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