08.墓地
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墓地は、妙に静かだった。
風は吹いている。
だが、その風が音を運んでこない。
湿った土の匂い。
苔の生えた石。
枯れ果てた花。
古い墓標が並び、細い霧が地面を這っている。
「……いるな」
小さく呟く。
探知魔法へ大量の反応が引っかかっていた。
この場所、死んだものが多すぎる。
俺は墓地の奥へ向かって歩き出す。
石畳を踏む。
その瞬間。
地面の下で、何かが動いた。
盛り上がる土。
割れる墓石。
白い腕が地中から這い出る。
次に頭。
腐りかけた顔。
空洞みたいな目。
アンデッド。
しかも一体じゃない。
周囲の墓から、次々と起き上がってくる。
「……なるほど」
俺は立ち止まった。
普通の冒険者なら剣を抜くだろう。
当然、俺もそうする。
俺はまず、一番近くにいたアンデッドの腕を斬り飛ばした。
ズバンッ!!
腐った腕が地面へ落ちる。
アンデッドは止まらない。
片腕のまま、こちらへ向かってくる。
「痛覚は弱い、と」
次は脚。
膝から下を切断する。
それでも這って進んできた。
「……興味深いな」
さらに別個体を見る。
今度は骨だけのスケルトン。
俺は少し考える。
そして。
切り落としたゾンビの腕を、スケルトンへ押し付けた。
普通なら繋がらない。
だが――。
ぐちゅ。
腐った肉が動いた。
骨へ絡み付く。
筋繊維が蠢き、無理やり接続を始めた。
「ほう」
動いた。
スケルトンが、ゾンビの腕を振り上げる。
骨格は合っていない。
関節位置もズレている。
それでも機能していた。
「生前の構造をそこまで重視していない……?」
面白い。
俺はさらに別の個体を引き寄せる。
今度は脚を切断。
腕の位置へ接続する。
逆側には脚。
アンバランスな怪物が完成した。
普通なら立てない。
だが。
腐肉が蠢く。
骨が軋む。
そして。
アンデッドは、四本の脚みたいに腕を使い始めた。
「……適応した」
速い。
異常な速度で動き始める。
墓地を這い回る異形。
少し感心した。
「神経伝達ではなく、魔力による擬似制御か?」
なら。
生体組織の欠損も補える可能性がある。
俺は少し考える。
もし、生きた人間にも応用できるなら。
欠損した腕。
潰れた臓器。
切断部位。
修復できるかもしれない。
「……いや」
そこまで考えて、止まる。
生者へ適用するには危険すぎる。
拒絶反応。
壊死。
アンデッド化。
課題が多い。
だが。
「理論上は可能か……?」
小さく呟く。
その時だった。
背後で、ぐちゃり、と音がした。
振り返る。
先程融合したアンデッド同士が、互いを取り込み始めていた。
「……ん?」
肉。
骨。
腕。
脚。
境界が曖昧になっていく。
まるで巨大な肉塊だった。
「おい待て」
流石に想定外だ。
融合速度が急激に上がっている。
複数のアンデッドが絡み合い、一つの塊へ変わっていく。
しかも。
速い。
異常なほど。
「ギ、ァァァァァ――」
耳障りな咆哮。
墓地全体が揺れる。
巨大化した異形が、こちらを見下ろしていた。
「……なるほど」
これは危険だ。
俺は少しだけ後悔した。
「実験環境は選ぶべきだったな」
その時だった。
「ここまで一人で来るなんて」
静かな声。
「命知らずね」
女――ヴァンパイアは、墓地を見下ろしながら笑った。
だが。
その視線が途中で止まる。
「…………ん?」
足元。
そこには。
腕が脚として生えたアンデッド。
骨へ腐肉を継ぎ接ぎされた異形。
互いを食い合うみたいに融合する死体。
そして、その中心で。
俺が真顔で観察していた。
「……再生速度が急激に上がってるな」
肉塊が蠢く。
骨が飛び出す。
眼球が増殖する。
非常に興味深い。
ヴァンパイアが数秒黙る。
「…………何をしてるの?」
「実験」
「いや見れば分かるけど……」
しばらくこちらを見ていたヴァンパイアは。
脱兎のごとく逃げ出した。
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