07.アンデッド討伐依頼
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ギルドの空気は、いつもより少し重かった。
酒の匂い。
笑い声。
誰かの怒鳴り声。
騒がしさ自体は変わらない。
だが、その奥に妙な緊張が混じっている。
掲示板の前には、いつもより人が集まっていた。
「また帰ってきてねぇらしいぞ……」
「昨日のパーティも全滅寸前だったとか」
「旧墓地の依頼、マジでやべぇな……」
そんな声が聞こえる。
俺は人混みの隙間から依頼書を引き抜いた。
『旧墓地のアンデッド討伐』
「……再生するのか、興味深いな」
小さく呟く。
その瞬間。
周囲の冒険者達が嫌そうな顔をした。
「おい曲芸師」
近くの冒険者が眉をひそめる。
「そこ普通、“危険だな”って感想になるところだろ」
「危険なのは分かる」
俺は依頼書を眺めながら答える。
「だが、切断後にどのように再結合するのかは興味あるな」
「受けんな受けんな受けんな!!」
騒がしい。
俺は依頼書を持ったまま受付へ向かった。
カウンターでは、いつもの受付嬢が書類を整理している。
栗色の髪を揺らしながら顔を上げた。
「あ、ソロモンさん――」
そこまで言って、俺の手元を見る。
笑顔が止まった。
「……その依頼、受けるんですか?」
「これでいい」
依頼書を置く。
受付嬢は紙を見て、小さく息を吐いた。
「一応言っておきますけど、ソロ討伐推奨外ですよ?」
「そうか」
「そうです」
即答だった。
「再生速度が異常なんです。腕を斬っても動きますし、焼いても立ち上がる個体までいます」
「面白いな」
「面白くないです」
真顔だった。
周囲の冒険者達も頷いている。
「なので、最低でも四人以上で――」
「誰か組むか?」
俺は振り返った。
ギルドが静まる。
「…………」
誰も目を合わせない。
一人、また一人と視線を逸らした。
奥で酒を飲んでいた冒険者など、露骨に席を移動している。
するととある冒険者と目があった。
ガタイの良い槍使いが顔を引き攣らせた。
「絶対嫌だぞ」
「なんでだ」
「なんでってお前……!」
別の冒険者が口を挟む。
「前に組んだ奴が言ってたんだよ!! “敵より曲芸師の方が怖かった”って!!」
「あと“気づいたら囮にされてた”とも言ってたな……」
失礼な連中だ。
俺は小さく息を吐く。
「合理的な判断だと思うが」
「その合理性が怖ぇんだよ!!」
ギルド中から同意の声が飛んだ。
受付嬢が疲れ切った顔でこちらを見る。
「……ほら、こうなるので」
「なるほど」
つまりパーティは組めないらしい。
少し考える。
「では依頼は諦めるか」
その瞬間。
ギルド全体の空気が少し軽くなった。
「おお……」
「助かった……」
「墓地が消し飛ぶ未来しか見えなかった……」
何なんだこいつら。
俺は依頼書を受付へ戻す。
「残念ですけど、それがいいと思います」
受付嬢も露骨に安心していた。
「再生型アンデッドは本当に危険ですから」
「そうか」
俺は適当に頷く。
そして、そのままギルドを出た。
外の空気は冷たい。
空は曇っている。
陽も落ちかけていた。
「……さて」
俺は街外れの方向を見る。
旧墓地。
依頼を受けなければ行ってはいけない、なんて規則は特にない。
討伐報酬が出ないだけだ。
「観察くらいなら問題ないな」
小さく呟く。
風が吹く。
妙に冷たい。
俺はポケットへ手を突っ込み、そのまま街外れへ歩き出した。
ちなみに。
ギルドの窓から受付嬢が墓地に向かう俺のことをを見ていたらしい
怒った受付嬢はアンデッドより怖かった。
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