06.踊り輝くミニクラーケン
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空は朝からどんよりとしていた。
灰色の雲が街の上を覆い、空気まで湿っている。
まだ降ってはいない。
だが、いつ雨が落ちてきてもおかしくない空だった。
「……微妙な天気だな」
石畳の道を歩きながら、俺は小さく呟く。
露店の店主も暇そうに頬杖をついていた。
街全体が、雨を待っているみたいに静かだった。
その時。
「うわっ!?」
小さな悲鳴。
少し先で、子供が石畳に足を取られて転ぶ。
勢いよく膝をぶつけたらしい。
「いっ……ぅ……」
まだ幼い。
買い物帰りなのか、小さな紙袋が地面へ転がっている。
周囲の大人が一瞬だけ見る。
だが、誰もすぐには動かなかった。
子供は唇を震わせ、目に涙を浮かべ始める。
「……」
俺は少しだけ立ち止まった。
別に放っておいてもいい。
そのうち泣き止むだろう。
だが。
「……はぁ」
小さく息を吐く。
俺はしゃがみ込み、転がった紙袋を拾った。
「ほら」
子供へ渡す。
少年は涙目のまま、ぽかんと俺を見上げた。
「あ……」
「膝擦りむいただけだ。死んでない」
ぐす、と鼻を鳴らす。
だが、まだ泣きそうだった。
「……面倒だな」
俺は空を見上げた。
曇天。
空気中の水分量は多い。
光も散りやすい。
悪くない条件だった。
俺は指を軽く動かす。
次の瞬間。
空中へ、小さな光の珠が浮かび上がった。
「……え?」
少年が目を丸くする。
光は一つではない。
二つ。
三つ。
四つ。
数珠繋ぎみたいに連なりながら、空中を滑り始める。
さらに形が変わる。
伸びる。
曲がる。
触手のように。
やがて。
光でできたミニクラーケンが完成した。
「おお……」
周囲の通行人が足を止める。
半透明の身体。
青白い触手。
光の粒が連結し、ゆっくり蠢いていた。
まるで本物だった。
しかも。
ふよふよ浮いている。
「…………」
だが、少年はまだ少し涙目だった。
俺は少し考える。
「……色が悪いか」
光量を調整。
波長変更。
次の瞬間。
光のミニクラーケンが七色へ変化した。
赤。
青。
緑。
紫。
虹色の触手が、空中でゆっくり揺れる。
「わぁ……!!」
少年の顔が一気に明るくなった。
虹色のミニクラーケンは、くるくる回りながら少年の周囲を踊り始める。
石畳へ虹色の光が反射した。
周囲から歓声が漏れる。
「綺麗……」
「なんだあれ……」
「魔法か?」
虹色のミニクラーケンは、まるで機嫌が良さそうに空中を泳ぎ回っていた。
その時だった。
「危ないッ!!」
怒声。
振り向く。
街の警備兵だった。
槍を構えている。
「魔物だ!! 子供から離れろ!!」
「いや違――」
言い終わる前に。
ブンッ!!
槍が振り抜かれた。
直撃。
虹色のミニクラーケンが、ぐにゃりと歪む。
光が弾け飛んだ。
赤。
青。
緑。
砕けた虹色が、雨みたいに周囲へ散乱する。
「…………」
静寂。
俺は、その光景を見上げた。
槍で貫かれた虹色の触手。
砕け散る七色の光。
曇り空を背景に広がる色彩。
「……おお」
思わず声が漏れる。
「芸術的だな……」
「は?」
警備兵が固まる。
少年もぽかんとしていた。
だが、本当に綺麗だった。
破壊された光が、雨粒みたいに空中で散っている。
偶然にしては完成度が高い。
少年が目を輝かせる。
「もう一回やって!」
「槍ありで?」
「ありで!!」
警備兵の顔が引き攣った。
「待て待て待て!! なんだその遊び!?」
騒がしい。
だが、少年はもう泣いていなかった。
俺は空を見上げる。
ぽつ。
頬へ冷たいものが落ちた。
雨だ。
続けて、もう一滴。
「……降ってきたか」
その瞬間。
空中へ残っていた虹色の光が、雨粒に反射して一斉に輝いた。
七色の雨だった。
周囲から小さく歓声が漏れる。
「おお……」
「すげぇ……」
俺も少し見上げる。
「……悪くないな」
そんなことを考えながら、雨の街をゆっくり歩き出した。
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