74.魔法生物
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カカカカッ!!
枝の上から笑うような鳴き声が響く。
一匹ではない。
二匹。
三匹。
いや――もっとだ。
「囲まれてる!?」
ミハイルが声を上げる。
木々の上。
茂み。
倒木の影。
赤い目が次々と浮かび上がっていた。
火吹きザル。
小柄な身体。
だが口元には赤い光が集まっている。
「来るぞ!」
ヴェルナが叫んだ瞬間。
ボボボッ!!
複数の火球が一斉に飛来した。
熱風。
爆ぜる炎。
ミハイルが反射的に盾を突き出す。
「くそ!」
火球がぶつかる。
衝撃。
熱。
「くっ……!」
ミハイルが歯を食いしばる。
盾越しでも熱が伝わってくる。
その間に。
ヴェルナが動いた。
「邪魔だッ!」
地面を蹴る。
凄まじい速度で木へ飛び乗った。
一匹目。
剣閃。
首が飛ぶ。
二匹目。
返す刃で喉を裂く。
火吹きザルが悲鳴を上げながら落下した。
「次!!」
だが数が多い。
別方向から火球。
ミハイルが防ぐ。
ヴェルナが斬る。
その繰り返し。
そして。
その後ろで。
「……ふむ」
俺だけが普通に観察していた。
「おい!!」
ヴェルナが叫ぶ。
「戦えこの研究馬鹿!!」
火球を避けながら、さらに怒鳴る。
「なんで観察優先なんだよ!?」
「興味深いからな」
「理由になってねぇ!!」
ミハイルも必死だった。
「先生!!」
「ちょっと本気で手伝ってください!!」
俺は少し考える。
周囲を見る。
火吹きザルの位置。
視線。
炎の軌道。
そして、光。
「……仕方ない」
俺は小さく呟いた。
次の瞬間。
空間がわずかに揺らぐ。
光の屈折。
周囲の景色が歪み始めた。
ヴェルナが眉をひそめる。
「何した?」
「位置をずらした」
「は?」
火吹きザルたちが一斉に別方向を見る。
そこには。
“俺たち”がいた。
木の横。
少し離れた場所。
完全に三人の姿へ見えている。
ミハイルが目を見開く。
「幻覚……?」
「違う」
俺は短く答える。
「光を曲げているだけだ」
次の瞬間。
火吹きザルたちが一斉に火球を放つ。
炎。
爆発。
だが。
狙われた“俺たち”は燃えない。
当然だ。
ただの投影だからだ。
だが火吹きザルたちは気付かない。
そして。
別のことにも気付いた。
火吹きザル同士へ炎が直撃している。
だが。
「効いてねぇ……?」
ミハイルが呟く。
火を浴びても、火吹きザルたちは平然としていた。
毛が少し焦げる程度。
動きは止まらない。
俺は静かに頷く。
「炎耐性まで獲得しているらしい」
「最悪じゃねぇか!」
ヴェルナが叫びながら飛び込む。
だが。
今度は違う。
火吹きザルたちの視線は偽物へ向いている。
隙だらけだった。
ヴェルナの剣が走る。
一匹。
二匹。
三匹。
首が落ちる。
ミハイルも剣を取り出し始末していく。
俺はその間も観察していた。
「お前も戦えよ!!」
ヴェルナが怒鳴る。
だが戦況は完全に傾いていた。
数分後。
森には静寂が戻っていた。
地面へ転がる火吹きザルの死体。
焦げた木。
漂う煙。
ミハイルがその場へ座り込む。
「はぁ……っ」
「つ、疲れた……」
ヴェルナも剣の血を払う。
「……なんだったんだ今の」
心底嫌そうな顔だった。
「猿が火を吐くとか聞いてねぇぞ」
俺は足元の茸を見る。
青白い斑点。
舞う胞子。
そして、この異常な魔力波。
「……おそらく、この茸だな」
「茸?」
ミハイルが顔を上げる。
「常食していた可能性がある」
「胞子による長期的な魔力干渉」
「環境適応による変異」
ヴェルナが眉をひそめる。
「つまり?」
「魔法を使えるようになった」
沈黙。
ミハイルの顔が引きつる。
「そんなこと……あるんですか?」
「あるから目の前にいる」
俺は火吹きザルの死体を見る。
「人間だけが魔法を扱える理由はない」
「適応条件さえ満たせば、他の生物も扱う可能性はある」
ヴェルナが深くため息を吐いた。
「……嫌な話だな」
「他にもいるかもしれん」
俺は静かに周囲を見る。
暗い森。
無数の茸。
漂う胞子。
「火だけとは限らんぞ」
「他の魔物も魔法を使う可能性がある」
森の奥から、遠く何かの鳴き声が響いた。
ミハイルがゆっくりと青ざめていく。
「……帰りたくなってきました」
「今さらだ」
ヴェルナが肩を回す。
だがその視線は、先程より遥かに警戒していた。
この森は、普通ではない。
そしてその異常は、まだ入口に過ぎなかった。
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