72.守り神
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村長はしばらく俺を見ていた。
警戒。
探るような視線。
だが、先程までの“追い返すだけ”の空気とは違う。
「……お前、本当に冒険者か?」
「そうだ」
「医者じゃなくて?」
「違うな」
短く答える。
村長は鼻を鳴らした。
「変な奴じゃな」
「よく言われる」
「否定せんのか」
ヴェルナが横で小さく呟く。
「否定できる要素ねぇからな……」
ミハイルも頷いていた。
村長は吊るされた茸を見上げる。
「これは昔から村にあるもんでな…儀式にも使うし、痛み止め代わりにも使う。量を間違えれば頭がおかしくなるがな」
「合理的だな」
俺は静かに頷いた。
「精神に作用するものとしては比較的安定している」
「乾燥処理も丁寧だ」
村長の眉がわずかに動く。
「……分かるのか」
「保存状態が良い」
「胞子もほとんど死んでいない」
「下手な薬師より扱いが上手いな」
その瞬間。
村長が初めて少しだけ笑った。
「ほっほ……」
「お前、本当に変な奴じゃな」
ヴェルナが腕を組む。
「俺もそう思う」
ミハイルだけが少し困惑していた。
「なんで急に仲良くなってるんですか……?」
村長は椅子へ深く座り直す。
そして、小さく息を吐いた。
「……立ち入り禁止区画についてだったな」
空気が少し変わる。
俺は黙って続きを待った。
「あの森には、この茸がそこら中に生えておる」
「地面にも、木にも、倒木にもじゃ」
「知らずに口へ入れれば危険だ」
「幻覚だけで済めばまだマシ」
「量によっては戻ってこれん」
ミハイルの顔が引きつる。
「そんなに危ないんですか……」
「昔、余所者が勝手に入ってな」
「笑いながら森の奥へ消えていった」
静かな声だった。
だが妙に現実感がある。
村長はさらに続ける。
「それだけではない」
「森の奥には守り神様がおる」
「近づかん方がいい」
ヴェルナの表情が少し険しくなる。
「……守り神?」
「昔からおる」
「だから村では近づくなと言い聞かせておるんじゃ」
数秒の沈黙。
その後、俺は静かに聞いた。
「依頼として調査することは可能か?」
村長は嫌そうな顔をした。
「やめておけと言いたい」
「だが、お前らはどうせ行くんじゃろ」
「可能性は高い」
村長は深いため息を吐いた。
しばらく考え込む。
そして。
「……自己責任なら好きにしろ」
小さな木札を取り出した。
古びた許可証。
「森の入口に見張りがおる」
「これを見せろ」
ヴェルナが受け取る。
「いいのか?」
「止めても無駄じゃろ」
村長は俺を見る。
「特にお前のようなやつは」
「好奇心で死ぬタイプじゃ」
俺は少し考えた。
「否定はできんな」
ミハイルが遠い目をした。
「先生、ちょっと自覚あったんですね……」
その後。
三人は村長の家を後にした。
外へ出ると、この地方特有の匂いの乗った風が吹いている。
村人たちは相変わらず遠巻きにこちらを見ていた。
ヴェルナは木札を眺めながら呟く。
「……なんだかんだ許可出たな」
俺は静かに南の方角を見る。
森。
立ち入り禁止区画。
木々の奥は薄暗く、昼間なのに妙に暗い。
「行くぞ」
「本当に行くんですね……」
「許可もある」
「そういう問題じゃねぇ気がするんだがな……」
そう言いながらも、ヴェルナは歩き出す。
三人は村の南側へ向かった。
やがて。
粗末な柵と見張り台が見えてくる。
槍を持った男が、こちらへ鋭い視線を向けた。
「止まれ」
ヴェルナが木札を見せる。
「村長の許可だ」
見張りの男は顔をしかめた。
嫌そうな顔。
だが、やがて道を開ける。
「……後悔するなよ」
「努力する」
「だからその返し怖ぇんだよ」
ヴェルナの声を背に。
三人は静かな森へ足を踏み入れた。
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