71.ルクシア村
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ルクシア村方面へと向かう馬車に揺られて数時間。
街道は徐々に細くなり、周囲の景色も寂れていっていた。
畑は痩せ、草木も少ない。
家々の間隔も広い。
ミハイルは窓の外を見ながら呟く。
「……本当に田舎なんですね」
「東側はあまり人が寄りつかねぇからな」
ヴェルナが荷台の端で答えた。
「土地も痩せてるし、街道も整備されてない」
「商人泣かせだ」
その言葉通り、道はかなり揺れる。
ミハイルは何度か頭をぶつけそうになっていた。
俺はそんな二人をよそに、静かに外を見ている。
草木、森、湿った地面。
そして、遠くに見え始めた小さな集落。
「着いたか」
やがて馬車が止まる。
三人は荷台から降りた。
村は静かだった。
人はいる。
だが、妙に活気が薄い。
こちらを見る視線にも歓迎の色はない。
「……なんか嫌な感じですね」
ミハイルが小声で言う。
「よそ者嫌いなんだろ」
ヴェルナは肩をすくめた。
俺は周囲を見渡す。
その中で、一番大きな建物へ視線を向けた。
「あれだな」
「村長の家でしょうか?」
「恐らく」
三人は建物へ向かう。
扉を叩く。
少しして、中から低い声が返ってきた。
「……誰だ」
「冒険者ギルドから来た冒険者だ」
扉が開く。
中にいたのは、白髪混じりの老人だった。
深い皺。
鋭い目。
露骨な警戒。
「依頼で来た」
俺は依頼書を見せる。
「立ち入り禁止区画について聞きたい」
その瞬間、村長の表情が険しくなった。
「帰れ」
即答だった。
ミハイルが少し困った顔をする。
「いや、調査依頼で――」
「帰れと言った」
空気が重くなる。
ヴェルナが小さくため息を吐いた。
「まあ、そうなるよな……」
だが俺は続ける。
「何がある」
「知らん」
「ならなぜ立ち入り禁止にする」
「昔から決まっている」
「理由になっていないな」
村長の眉間に皺が寄る。
「余所者が入っていい場所じゃない」
「危険なのか」
「……だから帰れと言ってる」
会話は平行線だった。
ミハイルが困ったように視線を彷徨わせる。
ヴェルナも「駄目だこれ」という顔をしていた。
その時だった。
俺の視線が、部屋の奥で吊るされているものを捉える。
乾燥された茸。
青白い斑点。
少し肉厚な傘。
俺はそちらを見ながら呟いた。
「……うまそうな茸だな」
沈黙。
村長の目が細くなる。
「やらんぞ」
「食用か?」
「違う」
「たしかあの種類には幻覚作用があったはずだな」
一瞬。
空気が変わった。
ミハイルが目を丸くする。
「えっ」
俺は構わず続ける。
「マジックマッシュルームと言って、幻覚作用などもある種だったと記憶している」
「それ、大丈夫なやつなのか?」
「医療用か、娯楽用といったところか」
村長はしばらく黙っていた。
やがて低く答える。
「……儀式用だ」
「成人の儀式など祈りを捧げる時に使うのだ」
ミハイルが固まる。
「た、食べるんですか?」
「口を出すな」
村長が鋭く睨む。
だが。
さっきまでより、明らかに会話は成立していた。
俺は乾燥茸を見上げながら続ける。
「幻覚だけではないな」
「微弱な鎮静作用もある」
「不安軽減」
「恐怖感の抑制……」
村長の眉がわずかに動く。
「……詳しいな」
「冒険者だからな」
「理由になっとらんじゃろ」
村長は俺をじっと見る。
警戒は消えていない。
だが、“追い返すだけの相手”ではなくなっていた。
ヴェルナが小さく呟く。
「なんでキノコの話になると急に会話が進むんだよ……」
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