69.普通?
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依頼自体は、驚くほど普通に終わった。
南の森。
増えすぎたオークの討伐。
よくある依頼。
本当に、それだけだった。
森へ入り、痕跡を追い、遭遇し、倒す。
無駄な戦闘もなく、危険な場面もない。
オークは確かに強靭だったが、対処不能な相手ではなかった。
俺が前へ出て。
隙を作り。
ミハイルが補助する。
時々、光で視界を奪う。
堅実。
安全。
教本通り。
新人を連れての依頼としては、むしろ理想的な内容だった。
――なのに。
「……これで終わり、ですか?」
帰り道で、ミハイルがそんなことを言い出した。
俺は思わず振り返る。
「終わりだが?」
「いや、でも……」
ミハイルは少し言いづらそうに続ける。
「なんというか、何もなかったなって」
「普通の依頼だからな」
「そうなんですけど……」
何かを悩んでいる顔だった。
俺は嫌な予感がした。
「お前、何期待してた?」
「え?」
「巨大変異種とかか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「毒持ちの珍味とかか?」
ミハイルが少しだけ目を逸らす。
図星だった。
「お前ほんとにソロモンの影響受けてんな……」
思わず頭を抱える。
普通はだ。
普通の依頼を普通に終えることは、良いことなんだよ。
怪我人なし。
消耗少なめ。
報酬も出る。
理想的だ。
なのにコイツ、“物足りない”って顔してる。
完全に感覚が壊れ始めていた。
ギルドへ戻る。
受付へ討伐証明部位を提出。
確認。
報酬受け取り。
何事もなく完了。
受付嬢が笑顔で言った。
「お疲れ様でした」
普通だ。
平和だ。
これでいい。
これが冒険者だ。
俺は少し安心していた。
だが。
「……これが普通なんですね」
ミハイルがぽつりと呟く。
なんか落ち込んでる。
「いや、良いことだぞ?」
「そう、ですよね……」
納得していない顔だった。
駄目だ。
完全に基準が狂ってる。
その時だった。
ギルドの奥。
普段あまり使われない搬入口付近が妙に騒がしい。
「おい暴れるな!!」
「拘束増やせ!!」
怒鳴り声。
金属音。
何かが壊れる音。
嫌な予感しかしない。
俺は反射的に顔をしかめた。
「……なんだ?」
視線を向ける。
そこにいたのは、数人の冒険者。
そして。
巨大な拘束台。
鉄鎖で縛られたサイクロプス。
生きたまま。
しかも。
額の中央とは別に、もう一つ巨大な目玉が横へ仮固定されていた。
「…………は?」
ミハイルも完全に固まる。
その前に立っていたのは、ソロモンだった。
白い布へ何かを書き込みながら、真剣な顔で観察している。
「あ、先生」
ミハイルが少し嬉しそうに声を上げる。
やめろ。
近付くな。
絶対ろくでもない。
ソロモンはこちらを見る。
「戻ったか」
「……何してる」
俺の問い。
ソロモンは平然と答えた。
「実験」
「何の」
「単眼生物へ第二の眼球を追加した場合の空間認識変化」
空気が止まった。
「……は?」
「立体視は脳処理の問題だ」
ソロモンは淡々と続ける。
「なら単眼種でも、視神経接続を補助すれば距離把握能力が向上する可能性がある」
サイクロプスが絶叫する。
暴れる。
拘束台が軋む。
ソロモンは観察をやめない。
「今は視界情報が競合して混乱している段階だな」
「段階じゃねぇよ!!」
俺は叫んだ。
周囲の冒険者たちもドン引きしている。
ミハイルが恐る恐る聞く。
「その目玉……どうしたんですか?」
「別個体から摘出した」
「摘出って言うな!!」
俺は頭を抱えた。
ソロモンは真面目だった。
「片目で生きる生物は死角が多い」
「なら眼球追加による知覚進化は理論上――」
「進化させようとするな!」
その時。
サイクロプスが急に動きを止めた。
ぐるりと視線が動く。
右。
左。
そして。
近くにあった木箱を、正確に掴み取った。
静寂。
ソロモンの目が細くなる。
「……適応し始めたか」
「うわぁ……」
ミハイルが若干引いていた。
だが同時に少し感心もしている。
駄目だ。
完全に毒されてる。
ソロモンはミハイルへ視線を向けた。
「ミハイル」
「はい」
「次は単眼を摘出された方に目玉を移植し返して反応を確認するぞ」
「やるんじゃねぇ!!」
俺は反射的に叫んでいた。
ギルド中に、俺とサイクロプスの悲鳴が響いた。
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