67.いただきます
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夕方。
冒険者ギルド裏の解体場。
石畳の上に、巨大な岩ダルマオコゼが並べられていた。
見た目は最悪だった。
岩のような外殻。
無数の棘。
ひび割れた表面。
焦げた臭いまで混ざっている。
近くを通った冒険者たちが、露骨に顔をしかめた。
「うわ……」
「マジで持って帰ってきたのかよ……」
「それ食う気か?」
その中心で。
俺だけが真面目な顔をしていた。
革手袋を装着。
短剣を持ち、岩ダルマオコゼを観察する。
ミハイルは少し離れた位置で見ていた。
「先生、本当にここでやるんですか……?」
「毒持ちは早めに処理した方がいい」
俺は短く答える。
次の瞬間。
短剣が棘の根元へ滑り込んだ。
パキッ。
毒針が綺麗に外れる。
「うわっ」
「慌てるな」
俺は淡々としていた。
「毒腺は棘の付け根付近に集中している」
「ここを傷つけると面倒だ」
「面倒ってレベルですかね……?」
俺は返事をしない。
外殻を割る。
内部を確認。
肉の色。
脂。
筋繊維。
その目線はまるで研究者のようだった。
「やはり白身か」
「脂も多い」
「熱を通した方が良さそうだな」
「そうなんですか?」
「倒す際に赤外線で内部まで焼いているだろ?半端に生で食う意味がない」
俺は顎に手を当てる。
「なら汁物がいいな」
「汁物?」
「旨味が強い生物は煮出した方が効率がいい」
数十分後。
ギルド裏には食欲を唆る香りが漂っていた。
鍋。
大量の白身。
骨。
香草。
そして。
赤外線による加熱。
普通の火ではない。
俺は必要な部分だけを加熱している。
表面だけ焦がし、内部を煮立たせる。
濃厚な香りが広がった。
見た目に反して、恐ろしく美味そうだった。
「……なんだこの匂い」
「いや、うまそうではあるぞ?」
「でも材料がアレだろ……?」
周囲の冒険者たちがざわつき始める。
ミハイルも思わず唾を飲み込んだ。
そこへ。
「ただいまー♪」
明るい声。
依頼帰りのミリアだった。
彼女はギルド裏の異様な空気を見る。
「なにこれ?」
鍋を見る。
白身魚のような料理。
香りは極めて良い。
「え、美味しそうじゃない♪」
周囲が止める前に。
ミリアは木皿を取り、一口食べた。
一瞬。
動きが止まる。
「……え?」
もう一口。
さらに食べる。
「なにこれ、めちゃくちゃ美味しいんだけど!?」
周囲がざわついた。
「マジかよ」
「嘘だろ」
だが。
誰も手を出さない。
空気が妙に重い。
ミリアは首を傾げた。
「……なんでみんなそんな顔してるの?」
一拍。
ミハイルが小さく答える。
「岩ダルマオコゼです」
「へぇー……」
数秒後。
「岩ダルマオコゼォ!?」
ミリアが吹き出しかける。
「ちょっ、毒あるやつじゃない!?」
慌てて吐き出そうとする。
しかし。
俺は平然としていた。
「毒腺は除去済みだ」
「加熱もしている」
「問題ない」
「いやでも毒って聞いたら怖いでしょ普通!?」
「毎年死者が出る魚もある」
「だが美味い」
「理屈は同じだ」
「同じじゃないわよ!」
叫びながらも。
ミリアの手は止まらなかった。
「……でも美味しい」
「だろうな」
俺は満足そうに頷く。
その後。
恐る恐る食べ始めた冒険者たちが――沈黙した。
「……うまい」
「なんだこれ」
「汁がヤバい」
「白身ふわふわじゃねぇか……」
翌週には。
“岩ダルマオコゼは実は美味い”
という噂がギルド中へ広まり。
長年放置されていた討伐依頼は、一瞬で消えるようになった。
なお。
毒処理を失敗して運ばれる冒険者も少し増えたため。
ギルド側は後日、
『調理は自己責任』
という注意書きを追加することになった。
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