66.VS岩ダルマオコゼ
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西街道付近。
乾いた岩場を、俺とミハイルは慎重に歩いていた。
周囲には大小様々な岩が転がっている。
風は弱い。
空は晴れている。
だが、ミハイルは妙に落ち着かなかった。
「先生、本当にこんな場所にいるんですか?」
「いる」
俺は短く答える。
その視線は地面ではなく、少し遠くを見ていた。
赤外線探知。
目には見えない熱を読む。
「……あそこだ」
2人は立ち止まる。
一見、ただの岩。
苔のような模様まで周囲と同化している。
だが。
「右側にある岩、あれだけ温度が高い」
「え?」
「日陰なのに熱を持っている」
一拍。
「生物だ」
ミハイルは目を凝らす。
だが、全然わからない。
「擬態っていうより、本当に岩ですね……」
「視覚だけならな」
俺は淡々と説明する。
そして、ミハイルを見る。
「今回はお前がやれ」
「俺ですか?」
「赤外線魔法の練習だ」
ミハイルは少し緊張しながら杖を握る。
赤外線。
不可視光。
普段の光魔法より遥かに感覚が掴みにくい。
俺は静かに説明する。
「一点へ集中しろ」
「焼くのは表面ではない」
「内部を狙え」
「内部……?」
「表面が硬い生物は内側が柔らかいことが多い」
「なら熱は内側へ通した方が効率がいい」
ミハイルは深呼吸する。
そして術式を展開した。
薄い赤。
目にはほとんど見えない光。
熱だけが空気を揺らす。
「そのまま維持」
俺の声。
「動く前に焼き殺せ」
次の瞬間。
岩だったものが跳ねた。
「うわっ!?」
岩ダルマオコゼ。
擬態を破られたことで暴れ始める。
だが。
すでに遅い。
内部から加熱された肉が膨張し始めていた。
メキッ。
表面にヒビが入る。
「えっ」
「続けろ」
ミハイルは反射的に出力を上げた。
赤外線がさらに内部を焼く。
岩ダルマオコゼが苦しそうに震える。
本来なら丸まって転がるはずだった。
だが。
膨張した内部が殻を歪ませ、上手く身体を丸められない。
結果。
ただその場でもがくだけになる。
「転がれてない……!」
「外殻のバランスが崩れたな」
俺は冷静だった。
「なら的だ」
ミハイルはそのまま赤外線を照射し続ける。
やがて。
岩ダルマオコゼは焦げた臭いを漂わせながら動かなくなった。
静寂。
「……倒せた」
「うむ」
俺は近づき、表面を軽く叩く。
パキパキと音が鳴った。
俺は小さなヒビへ短剣を差し込む。
メリメリと外殻をこじ開けた。
その瞬間。
白い湯気と濃厚な香りが漏れる。
ミハイルが目を見開いた。
「……え」
美味そうだった。
見た目は岩。
なのに匂いだけは異常に食欲を刺激する。
俺は静かに頷く。
「やはりな」
「やっぱり食べる気だったんですね」
「当然だ」
その時だった。
少し離れた場所の“岩”が動く。
「っ、先生!」
岩ダルマオコゼが高速回転を始める。
転がる。
突進。
しかし。
俺は避けない。
「ミハイル」
「はい!」
「左側を焼け」
反射的に赤外線を照射。
直後。
転がっていた岩ダルマオコゼの左半分が膨張した。
回転軸がズレる。
「うわっ!?」
岩ダルマオコゼは勢いよく横転した。
そのまま岩壁へ激突。
ひっくり返る。
腹部が露出した。
「岩ダルマオコゼは左右対称で動く。バランスを崩せばまともに動けん」
「なるほど……!」
「続けろ」
ミハイルはさらに赤外線を集中。
内部を焼く。
岩ダルマオコゼは痙攣し、そのまま動かなくなった。
数時間後。
街道脇には縄で縛られた大量の岩ダルマオコゼが並んでいた。
異様な光景だった。
通りかかった冒険者たちが遠巻きに見る。
「……なんだあれ」
「討伐依頼のやつか?」
「いや数おかしいだろ」
「普通あんなの持ち帰らねぇぞ……」
その中心で。
俺だけが満足そうに頷いていた。
「今日は豊漁だな」
「漁じゃないですよね?」
「似たようなものだ」
ミハイルはもう、否定する気力もなかった。
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