62.教師の決断
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結果から言えば。
ミハイルは学院を辞めなかった。
いや、辞めなくて済んだと言うべきかもしれない。
「認められるわけないでしょう!!」
教師会議室で、ラスモディウスの怒声が響いた。
「まだ一年だぞ!?しかもあの暴発騒ぎの直後だ!」
机を叩く音。
他の教師たちも難しい顔をしている。
当然だった。
学生を危険地帯へ同行させる。
学院側から見れば不安要素しかない。
だが。
「だからだ」
静かな声。
教師たちの視線が集まる。
「あいつは中途半端に術式を弄る癖がつき始めている」
淡々とした声。
「放置すれば、また似たような事故を起こす可能性が高い」
ラスモディウスが眉を寄せる。
「……それは」
「危険性を理解した上で扱わせるしかない」
俺は続けた。
「現場で教える」
「実際に危険を見る」
「その上で制御を覚えさせる」
一拍。
「でなければ、いずれ勝手に暴走する」
会議室が静まる。
教師たちも理解していた。
ミハイルは既に、“普通の術式授業”だけで満足できなくなっている。
そして俺の言葉には、妙な説得力があった。
最終的に学院長が小さく息を吐く。
「……条件付きだ」
全員の視線が向く。
「学院籍は残す」
「長期実習扱いとする」
「定期報告書、及び実習レポート提出を義務化」
「単位認定は、その内容次第だ」
ラスモディウスが頭を抱えた。
「本気ですか……」
学院長は静かに答える。
「現場経験としては、これ以上ないだろう」
そして。
「監督責任は、お前が持て」
俺は短く頷いた。
「了解した」
会議終了後。
廊下。
ミハイルは壁際で待っていた。
中の怒鳴り声は少し聞こえていた。
なので、なんとなく察してしまっている。
(やっぱり無理だったのかな……)
そう考えていると、扉が開いた。
教師たちがぞろぞろ出てくる。
ラスモディウスはミハイルを見るなり、大きくため息を吐いた。
「……お前な」
「は、はい!」
「本当に問題ばかり起こす」
怒っている。
だが、どこか呆れの方が強かった。
「学院長から正式許可が出た」
一瞬、ミハイルの思考が止まる。
「え?」
「長期実習扱いだ」
「レポート提出義務付き」
「単位認定あり」
理解が追いつかない。
「え……?」
「つまり、学院籍を残したまま外へ出る」
ラスモディウスは眉間を押さえる。
「前例なんぞほぼ無い」
「感謝しろ」
ミハイルは目を見開いた。
「ほ、本当に……?」
「その代わり」
低い声。
「死ぬな」
空気が少し変わる。
「生きて戻る事が私からの条件だ」
ミハイルは小さく息を飲み――
深く頭を下げた。
「……はい!」
ラスモディウスは小さく鼻を鳴らす。
「返事だけはいいな」
そのまま歩き去っていく。
入れ替わるように、俺が出てきた。
「先生!」
ミハイルが顔を上げる。
俺はいつもの無表情だった。
「許可、出たぞ」
「……はい」
「後悔するなよ」
短い言葉。
だがミハイルは迷わなかった。
「しません」
俺は数秒だけミハイルを見て――
「なら準備しろ」
「数日後には出る」
そう言って歩き出す。
ミハイルは慌てて後を追った。
その背中を見ながら。
胸の奥が、少しだけ高鳴っていた。
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